我々
長万部 三郎太
バツだ!
東暦1984年。
あらゆる『私』が廃止され、すべてが『公』になった世界。
そんな状況であっても役所仕事は存在する。
わたしは公務員になるために国家試験を受けていた。
「○か×の二択問題だ、勉強してきた自分を信じよう」
完全個室での受験だが、不正行為などもってのほか。
わたしはルールに則り、規則正しく開始のブザーとともに問題用紙をめくった。
【問1:私有地に猫が迷い込んだので、飼うことにした】
「×だ。そもそも私有地などという概念はない。
それに迷い猫だろうと独占することはできやしない」
【問2:私立高校に受かったので、自家用車で送迎をした】
「これも×だ。私立高校など存在しない。
それに個人で車を所有することもできるわけがない」
【問3:スポーツのためパーソナル・トレーナーを雇った】
「なんということだ……。
自分の娯楽のために専門家を個別に雇うだと?
もちろん×だ!」
【問4:貧しい人たちのために私財をなげうって援助をした】
「貧しい人……私財……? ×だ!!
ここは全てが等しい世界。それに私財などとは……!」
腹ただしい設問を前に、やや独り言がヒートアップしてしまったが、ここまで問題を解いたところで個室のドアが開いた。制服に身を包んだ……試験担当官だろうか?
その男はやや高圧的な態度でこう言った。
「我々はここの施設の最高責任者である。
試験の一環として、集音マイクにて君の独り言を聞かせてもらっていた。
とても興味深いものだ。特別に我々の補佐官に抜擢しようと思っている」
「あなたがた専任の……? 特別に?」
「そうだ」
「そんな急に、でも、補佐官??」
「いい話だろう? つまり……」
男の誘い文句をさえぎるようにこう叫んだ。
「×だ! すべて×だ!! 特別だの、専任だの……すべて×だ!!!」
「合格」
晴れて公務員となってからは、この『わたし』という一人称も改めた。
もちろん使う言葉は『我々』だ。
(ディストピアシリーズ『我々』 おわり)
我々 長万部 三郎太 @Myslee_Noface
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