復讐があなたを生んだから
くしやき
第1話 リバーサイドの車窓から
ガタンゴトン、ガタンゴトン、
真っ暗のトンネルを抜ければ、青空に挟まれたドームが視界に飛び込んでくる。
そびえたつ岩壁と湖、そして三角形を組み合わせたクリスタルドームによって外界から遮断された巨大な城と城下町だ。
世界最大とされる火山湖の真ん中にそれはあった。
七色の日差しに照らされる城を、黄金色の瞳が遠く車窓から眺めている。
「……あれが、『学園』」
噛みしめるように、静かな声が言う。
瞳よりも柔らかな色のブロンドをティアラのように編み込み、水中から見上げた夕日みたいな赤いドレスで着飾る少女だった。ふらふらりと遊ぶしなやかな足先に、クリスタルのヒールが揺れている。
《噴火でもしたら全部ぶっ飛んじまいそうだな》
あざ笑うように応えるは、荒れた声。
真っ黒の炎が偶然その形になったような揺らめく毛並みの獣だ。
ソレは少女の膝枕に寝そべって、柔らかな愛撫を堪能している。
少女は口の端をわずかに緩めて、そっと目を細めた。
「そうなれば大陸そのものが滅亡するようね。本来はその災害を封じるための場所だったのだと」
《へぇん。んな物騒なとこにガキどもがうようよしてるって訳だ》
「貴女好みではないかしら」
《げはは》
笑う獣につられるように、少女もまたほおを緩めて。
《―――だが、オマエほどじゃねぇぜ》
そして闇が世界を覆った。
《あの虹の監獄に、殺したいヤツがいるんだろ》
紫電の瞳が少女を見下ろす。
まるで夜のように広がった獣が日差しを遮っていた。
《オマエがこのワタシなんかを欲するほどに憎み恨み怒り妬み悔い―――復讐してぇヤツがアソコによぉ》
獣の言葉に少女はそっと目を伏せ、顔を隠す。
「……あまり自分を卑下するものではありませんよ」
《あぁん?》
「このワタシなんか。そんな風に友人を語られることは、とても悲しいことではないかしら」
はぐらかすように言う少女の。
その口元は、まるで裂けるように歪んでいて。
《―――げはは。やっぱりオマエが最高だ》
獣は笑い、満足げに膝枕に戻った。
ゆらりとまた彼女をなでる頃には、少女はもう、ただ静かなまなざしをドームへと向けるだけ。
少女と獣―――アルフェとベルは、そうして列車に揺れていく。
ガタンゴトン、ガタンゴトン、
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