あなたを許さない

てんし

あなたを許さない

 僕はあなたを許さない。何があったとしても、例え世界が終わりを迎えたとしても、決して許しはしない。


 あなたは、とても身勝手極まりない人だ。

 僕の予定などろくに聞かず、街中連れ回して。僕がどれだけ迷惑したことか。なのにあなたは、懲りずに僕を振り回した。本当に、我儘が過ぎる。


 加えて、あなたは空気も読めない。

 僕が落ち込んでいるにも関わらず、ふざけて変顔をしてきたこともあった。こっちは一人にしてほしいのに、放っといてほしいのに、そんな僕のことを知っているはずなのに、しつこくおちょくってきた。僕が無視しても、一向にやめようとしない。僕が痺れを切らして反応したら「元気じゃん」と笑われた。何がしたいのかわからない。


 おまけに、あなたは不真面目だ。

 出勤しなければいけないのに休んで、僕との息抜きを優先したことも、一度や二度じゃ済まない。あなた一人が休めば職場にも影響が出るとか、そこの配慮はないのか。僕はそればかりが気になって、ちっとも気が休まらなかった。文句を言っても「でも、楽しかったでしょ?」と、開き直って微塵も反省しない。全く以て、腹が立つ。


 そんなお節介な癖に、自分のことはろくすっぽ話そうとしないのも気に食わない。

 明らかに何かあった顔をしているのに、問いただしても下手に誤魔化す。その癖、限界を超えたら酷く泣き出す。目の前で泣かれたら、僕としても気分が悪い。溜め込んで号泣するくらいなら、何故僕に聞かれたとき正直に吐き出さない。他人ばかり気にして自分は後回し。あなたを大切に思っている人への配慮が欠けている。何が「泣きそうな顔してる」だ。それはこっちの台詞だ。


 そして何より、許せないこと。


 ──何故、僕をおいていった。


 何故。独りが嫌いな僕を知っているのに、ずっと一緒だって約束したのに、あなたはただの普通車一つで消え去った。


 あなたは、人を裏切るような真似はしないのではなかったのか。信じていたのに。あなたと人生を共に出来ることを。


 僕は、あなたを許さない。


 絶対に、絶対に。


 一生忘れない。


 幾つ年を重ねても、老人になったとしても、あなたを──あなたとの記憶を絶対に忘れはしない。


 人の記憶は移ろいゆくもの。あなたがいなくなったとき花を持って泣いた人も、一年経てばあなたの笑顔も声も忘れているかもしれない。忘れない保証なんかない。


 けれど僕は、あなたを一生許さないから、ずっと覚えているだろう。身勝手極まりない、空気も読めない、不真面目で、自分に無頓着──でも、誰よりも輝いていたあなたのことを。そんなあなたに救われた、僕のことを。


 許さない。


 忘れない。


 ──ありがとう。

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