第21話 劣等感は努力してる証

「英梨ちゃんの方が可愛かった!性格も!優しさも全てが私の上位互換!だから、学校で一番カッコいいと言われる先輩に惚れられれば!私の方が上回れるって!」

「そう思ってたのに!!それすらも!!……」


そういって悔しそうに体を震わせる。それからも色々と話すが、とどのつまりただの劣等感からくるものだったのだろう。


そんな、八つ当たりで人をいじめるなんてもちろん言語道断だ。


だけど百合草、お前も苦しかったのだろう?


劣等感に苛まれ、自分のアイデンティティを信じられなくなったんだろう?


少しでも勝っている部分を見つけては、自分の精神を保つ柱にしていたことは容易に想像できてしまう。


そんな、気持ちを共感できるからこそ、溺れたような苦しさに胸を締め付けられる


だがら、こいつも救われる権利はあるはずだ。


「その結果、皐月より上回ったのが性格の悪さだったと、ウケる(笑)」

「お前えええええ!!、今度こそ殺してやる!!!!」


なんだ、自覚してたんだ。どうやら俺は地雷を踏み抜いたらしい。百合草が俺の首を締め付けてくる。


「お前を殺して! あいつも、あいつらも…」


そうして、涙を流しながら俺の上に跨った百合草が更に首を締め付けてくる。泣いてるからか全然首を絞めれてない…全然苦しくない。ただただ痛々しいだけだ。


「お前、そんなに容姿がいいやつがいいのか?」

「うるさい!うるさい!うるさああああいいいいい!!!」

「じゃあ、俺がなるよ、百合草の彼氏に…」

「黙れ、お前みたいなインキャなんかぁ………は?」


どうやら、押し倒した時に俺の顔を見たらしい。めっちゃ驚いている。


まあ俺は腐ってもこの物語の主人公だ。ラノベやギャルゲーでよくある、前髪で隠れてるけど実はめっちゃイケメンという特性を持ち合わせている。


学校一番?俺は容姿に関してはこの世界でトップクラスで整っているだろう。なんせ主人公なのだ。


今回はこれを使わせてもらうとしよう。


「え…は?」

「でどう?返答を聞かせて欲しいんだけど」


返事をもらうには、少し早すぎたらしい。がっつきすぎるのはよくないなあ…


§


百合草の落ち着きが収まってから、もう一度話し合おうことにした。


「あなたは、私のことが好きなのですか?」


一通り驚いた百合草が問いかけてくる


「んにゃ、好きではないかな〜」

「じゃあ何故…」

「まあ、理由はぼちぼち、でどうする付き合う?付き合わない?顔面偏差値は高いと自負しているが?」

「ええ…そうですね」

「髪や服装に関しても、お前好みに染め上げていいぞ、ぜひ自分色に染め上げてくれ」


そこまで言うと、百合草はやや思案顔になり考え始めた。手を顎に添えて考える様はすごく気品がある。夕日は彼女を神秘的に染め上げる舞台装置だ。


こうして、返答が来るまでぼんやりと見ていると、


「言い回しは、所どころ気持ち悪いですが…わかりました。お付き合いの方お願いします。それで、私に何を求めるのですか?体ですか?さすが年中発情してるチンパンなだけありますね」

「後半はスルーするぞ〜。求める条件は二つ。一つはこれから、心入れ替えて過ごすこと」

「何?今更。童帝の妄想を私に押し付けないでください」


こいつ、こっちが黙ってれば好き勝手言いやがって…まあいい。どうせこいつのことだ。承認欲求を満たすために、外面は取り繕うだろう。


「おい、この契約を白紙に戻してもいいんだぞ。二番目」

「…カスですね」

「お前は暴言を吐かないと気が済まないのかよ…」

「話を続けてください、二つ目の条件はなんですか?」


どうしよう、こいつ俺の望みを叶えるために使うのやめようかな…でもこれ以上の人が今後現れる確証もないし…こいつはキープだな


「ああ、二つ目の条件は…



§



「もうちょっと早く起きれないのですか?」


次の日俺の家に来て、第一声がこれである。昨日誰のために夜遅くまで仕込んでたと言うのか…


「わかってますよ…ありがとうございます」


ジーと非難の目を向けていると、バツが悪かったのか、いきなり感謝の言葉をかけてくる。いきなり素直になるのが怖い。地震の前に魚がよく取れるようなものだ。


「それにしても随分と変わりましたね。というか何故今まで隠してたんですか?」


今度は、俺の髪型についてだ。

まあ、髪を目が見えるまでバッサリと切って、なおかつ、髪をところどころメッシュの金色で染めているのだ。外見に関しては、180度変わったと言っていいだろう。


なんかチャラくなってしまったが、まあ少しの辛抱だ…


くっ、俺の体は百合草の色に染まってしまったぜ。


「それはもちろん、お前のようなヤベー奴から身を守るためだよ」

「チッ、調子乗らないでください」


はいはい、元々根暗の俺には似合わないですよーだ。


髪を染めても、女子の頬は染まらない。ソースは前世


「はあ、で、わかってるな。昼休み予定通りに頼むよ」

「……なんでここまでしてくれるのですか?」

「言っただろ。俺には俺の考えがある、しっかりと対価はもらうさ」


そう、お前が成り上がってくれれば、俺の乾いた魂が潤う!


今の霧島君が微妙な以上君だけが頼りなんだ


ぜひ、成り上がってくれ!認められてくれ!俺はそれを特等席で見てみたい!!!


そのためには、周りに認めてもらうことからスタートだ。

そんなことを考えてニヨニヨしていると


「まさか、私があなたに惚れると思っているのですか? すみませんごめんなさい。あなたのようなインキャとは無理です!」

「あ゛?お前ふざけんなよ?誰がお前みたいな性格アメーバと付き合うかよ。調子に乗るなセカンド」

「ムキになって…まさか図星ですか?」


こいつ!マジでいつか泣かせてやる!現時点でこいつと彼女彼氏をやることに不安を禁じ得ないんだけど。


「ですが、これからは付き合うのです。あなたの気持ち悪い部分は黙認してあげます。」

「そこまでして、皐月に見返したいのかよ…」


今まで育った劣等感は、すぐには拭えないらしい。未だに皐月と張り合っているようだ。


こいつが自分の良さに気づくのはいつになることやら。


百合草とたわいも無い暴言と毒を、お互いに吐き散らかしながら歩いていると、学校に近くなったのかチラホラ生徒の数も増えてきている。


そして、校門をくぐれば、もうすでに興味深く視線を向けている人が多くなる。


そりゃ、いきなりクラスのマドンナ的存在が手を繋ぎながら仲睦まじく(笑)登校してるからな


これだけ視線を集めれば大丈夫かな…後は昼休みか〜


「うふふ、ほら皆さん、悔しがっていますよ?あーこれは癖になりそうです。後は英梨ちゃんに見せつけるだけですね、ふふ…」


…俺は新しい化け物を生み出してしまったのかもしれない。承認欲求の。

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