今日から突然ダンジョン生活!
えるす
第一話 ゲームブック(一頁目)
俺だけの城に、チャイムの音が響いた。
どこにでもある1kのアパートの一室だが、趣味のプラモデルのケースだけは、ちょっとしたものだと自負している。
ピンポーン
再び、呼び出しを告げる音。急かされているようであまり気分の良いものではない。
のそりと重い腰を上げて玄関に向かう。
「はいはい、今開けますよ」
カリャリと軽い音を立てて開く扉。
そこに居た初老の男は、良く見る運送屋の制服を来ていた。
「えーっと、田中……」
「ユウです、田中遊」
「はいはい、田中さん。お荷物二つ届いてます。」
そう言って出してきたのは、大手通販サイトのロゴが入った荷物だ。
一つはかなり大きい、立てるとギリギリ玄関を通るかという位だ。
何か頼んだかな?と記憶を辿っていると、声をかけられた。
「ここに、サインお願いします」
「あ、はい」
「どうもー」
バタン
心当たりは正直無いが、とりあえず部屋に運ぶ。小さい方の箱を見ると、品名にゲームブックと記されている。
宛名は俺に間違いないようだが。
「ゲームブックねぇ。そんなゲーム買ったかなぁ」
積んであるゲームがまた増えるな、なんて考えながら、バリバリと梱包を開いていく。
そこに現れたのは文庫本程の大きさの、黒地に金色の装飾が施された、小さな本だった。
「ゲームじゃなくて、本当に本かよ!」
活字を読む習慣などない、訝しみながら表紙を見てみる。
Gamebookというタイトルの下には「彼の迷宮を制覇した者には、全ての富と栄誉が与えられる」と書いてある。
「ふぅん」
他には……ころりとサイコロが出てきた。
箱に入っているのは、この本とサイコロだけだ。随分とアナログだな。
何気なく、ぱらりと一頁目を開く。
「んー……貴方の名前とクラスを決めて書き込んで下さい?名前はユウ、とクラスは魔法剣士にするか」
近くにあったボールペンで、指示通りに書き込んでいく。
特にこんなアナログなゲームに興味は無かったが、なんとなく始めてしまった。
書の導きに従い、自らの世界と別れ、彼の地で命を捨てる覚悟は出来たか?
それが出来たらならば、ダイスを投げろ。
それが物語開始の合図となる。
「ちょっとワクワクするな。昔っぽいけど良いなこの雰囲気、どんな感じの物語なのか」
ぱらぱらと先のページをめくる。
しかし
最初の一頁以降は、全て白紙だった。
落丁本なのか。
しんと静まり返った部屋で、一瞬嫌な予感がした。
「なんだよこれ……?折角名前まで書いたのにな」
やれやれとばかりに、手元にあったサイコロを箱の中に投げ入れた。
からからり。
穴が6つ空いている面が上に止まった。六の目が出たということだ。
ガタンッ!
「ぉっ!?」
一瞬、大きな物音が外から聞こえて来た。何かあったのだろうか?
ズズズズ……
何かぞわぞわするモノをゲームブックから感じる。まるで、本が次の頁を開けと言っているような気がした。
慌てて本を手に取ると、先程まで白紙だった二頁目に何かが書かれている。
ようこそ、彼の地へ。
君に与えられたクラスは魔法剣士。MPは6。そして炎の魔法の呪文フラムを与えよう。
この魔法の名を、君は覚えていても良いし、覚えなくとも良い。
準備ができたならば赤い扉を潜り、虹の橋を渡りたまえ。
そこで君は草原の王と戦う事になるだろう。
薄気味悪い本だ。
もう無視しようと思った時、もう一つの箱、届いた荷物の大きい方がぼんやりと光っているのに気がついた。
がさりと開けると、そこには一本の剣が入っていた。握って見ると、ずしりと重い。
本物だろうか?金属でできているようだ。
ずらっ
抜刀すると、本当に刃が付いた抜き身が姿を見せた。両刃の剣で、刃渡りは80cmはあるだろうか。
「嘘だろ……?」
これはヤバイ。そう思ってすぐに鞘に仕舞い、ふと玄関の方を見る。
すると、あの見慣れた薄い灰色だったはずの扉が、真っ赤に変わり果てていた。
「うわああっ!」
なんだ、何が起こっている?何かが変だ。
なにをどう錯乱したのか、何故かどうしても持って行かなければという使命感が働き、ゲームブックと、剣を手に持ったまま。
俺は玄関を開けた!
その瞬間。
ぱああっと真っ白とも七色とも思える光の奔流に飲み込まれ。
意識を失った。
……
「うーん……」
一瞬だっただろうか、それとも遥か長い時間が過ぎただろうか。
爽やかな風と、草と大地の匂いで、目が覚める。
そう、そこは見渡す限り一面の草原だった。
「ええええーっ!?」
なんだこれは、この本の所為だろうか。
赤い扉に草原。だとすると、王と戦うのか?
「草原の王って誰だよ……」
ぼそりと呟きながら、辺りを確認する。
ゲームブックにはそれ以上、何も書いていない。腰に剣を差して、少し歩いて見ることにした。
5分ほど歩いたところで、何かの視線を感じた。見られている気がする。
はたと立ち止まると、周りの草むらから、ぞろりと大きな狼が出てきた。
まるで俺を値踏みするように、ぐるりと遠巻きに円を描くように歩き始める。
この動きは、完全に俺を狙っている動きだ。
「まじかよ……」
剣を抜く。
初めて剣を触ったとは思えぬ程、すらりと抜刀し構えた。まるで生まれた時からこのモノの扱い方を知っていたかのようだ。
ばっ!
それまでゆっくりと歩いていた狼が、突然走り飛びかかってきた!
「ふっ!」
息を吐きつつ、身を捻って回避した。
まるで自分の体ではないように動きが軽い!
再度飛びかかってきた狼の頭部を、右薙に薙ぎ払った。
ずばんという音と共に、手応えが伝わる。
上顎から上を吹き飛ばされた狼は、地面を転がってやがて止まった。もはやピクリとも動かない。
これが魔法剣士の力だろうか。おおよそどう力を込めれば良いか、感覚でわかる。
「今のが、王か?いや違う」
がさりがさり
同じような狼がぞろぞろと、1、2、3……4匹。その内の一匹は他の個体より一回り大きく、背中に銀色の体毛のラインがある。
「お前が草原の王か」
それらはこちらを見定めるように、ぐるると喉を鳴らしながら、周りを囲む。
襲いかかるタイミングを図っているのだろう。
先手必勝だ。
剣を右手一本で構えて、左手を平手に王に向かって突き出す。
「フレイムッ!!」
しかし何も起こらなかった。
ばっ!
その声を皮切りに、王を含む4匹の狼が同時に飛び出した!
剣を両手に構え直し、まずは初めに右から来た1匹を袈裟斬りに斬り飛ばす。
体重を乗せた斬撃で頭蓋を砕き、更に返す刀で逆胴に薙ぎ払い、背後を狙っていた個体の首を刎ねた。
しかし、数が多すぎる。
左手を王に、左足をもう1匹に噛み付かれた!
「痛ってえ……な!」
剣を振るうが、ばっと離れてしまい空を切る。ぱたたたと血が、流れ出る。
ぐるるるる……
一定の距離を保ち、再度飛びかかって来ようとはしない狼達。俺の消耗を待っているのだろうか。
近づけば、離れ、離れれば近づく。
「はぁ……はぁ、確かに良い作戦かもしれないな」
緊張感を保ったまま、戦闘が長引くのは応える。負傷をしているから尚更だ。
普通ならこんな大怪我をしていれば、パニックになりそうなものだが、どこか冷静でいられるのは何故だろうな。
ぽたた……
そんな事より、この状況を打破しなければ。
再度、剣を右手一本で支え、左手を突き出す。よく思い出せ、魔法の呪文を。
「フラム!!」
MPが1ポイント失われるのが感覚で分かった。そして、それを触媒に炎の帯が手の平から放たれた!
ボォン!
完全に油断していた草原の王に、炎の帯が襲いかかる!それはまるで意思を持った蛇のように絡みつき、離れない。
ぎゃああん!
火達磨になったまま、飛び込んでくる王。
剣を両手に構え直し……
「ふっ!!」
唐竹に斬り裂いた。
炎に包まれたまま真っ二つになったそれは、燃え尽きるまで火が消えることは無かった。
残す1匹に視線を向けると、王がやられた事でタガが外れたのか。
ぱっと後ろを向き、見えない場所まで駆けていった。
どうやら終わったらしい。
「はぁぁー……」
剣を鞘に納め、座り込む。早く傷口を止血しなければ。
しかし、その必要は無いようだ。
傷は存外に浅かったのか、すでに出血は止まっていた。
ズズズズ……
背筋がぞくっとする感覚。
慌てて、ゲームブックを確認する。新しいページに新たな内容が記載されていた。
草原の王は、若き勇者に討たれた。
経験を積んだ勇者は、迷宮の入り口を見つける事になる。
もはや自らの世界に戻る事は出来ない、迷宮を制覇し全てを得ない限り。
先は長い。
君は近くの街で休んでも良いし、先を急いでも構わない。
十分な経験点を得た君はレベルアップする事ができた。レベルが2に上昇する。
そして新たな魔法を得られる可能性がある、ダイスを一度振る。
街があるらしい。
しかしまさか、ずっと、この本に則って進んでいかないといけないのか?
「レベルアップってなんだ?」
指示通りダイスを振る。
出た目は、2だ。本を確認する。
残念ながら、新たな魔法の呪文を習得する事はできなかった。魔法の呪文は正しく唱えない限り、効果を発揮する事はできない。
付け焼き刃の知識は身を滅ぼす事となる。
何だ、ダイスの目って魔法を覚えるのは運なのか。
そして、その下の一文。フレイムと言った俺に対する当てつけなのか?
あぁ、144分の1の赤いヤツ、組み立てるところだったんだけどなぁ……いつ帰れるんだろうか。
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