あやし神解き縁起

有田くもい/角川文庫 キャラクター文芸

序-1

 西海さいかいの果て、ざい

 この地には非業の死を遂げた才人、すがわらのみちざねびようがある。

 優れた学識で右大臣の位まで至ったものの、並外れた出世をねたんだ者たちによっていわれなき罪を負わされ、流刑に処された。それからわずか二年後、ぎぬの悲しみに追い詰められるかのように、道真は大宰府で帰らぬ人となってしまった。

 そののち、あわれな死を引き金とするかのように、みやこで不幸が相次いだ。かんばつや水害といった天変地異、疫病、そして貴人たちの無残な死。いつからか、これら数々のさいやくおんりようとなった道真のたたりではないか……などと、まことしやかにささやかれはじめた。

 こうなれば、もはや捨てては置けない。時の帝、だい天皇は勅命で道真の罪を取り消し、再び右大臣の位につかせた。しかし、なおも人々の祟りに対する恐れは収まらず、ついに菅原道真は神としてまつられるようになった。

 けれど、市井しせいの者たちも、清涼殿せいりようでんに集う権力者たちもみかども、誰ひとり知らない。

 天満てんまんだいざいてんじんこと菅原道真が、実は死んだ直後から神になっていたことを。

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