年齢詐称
連喜
第1話 年下との出会い
俺が出会い系サイトで遊んでいた頃のこと。
すでに40代だったから、5歳サバを読んでいた。それでも、もう40代だったから、40代後半だったわけだが、さすがに苦戦していた。年を取るともてなくなるのは男も同じ。若い子と遊びたかったけど、さすがに30代には見えないから、その辺で妥協した。
そして、ひたすら、メッセージを送りまくった。それで、何とか1人だけ20代の子と仲良くなった。しかし、やり取りしてると、文章に若さがない。言葉の使い方や絵文字が、ちょっと古いなという感じがした。
ちょっと野暮ったい人なのかなと思ったけど、とりあえず電話で話してみた。声がおばさんぽかったけど、取り敢えず会ってみることにした。会ってダメだと思ったらやめればいいだけだから。もし、相手がサバを読んでたとしても、30代だろう。写メを送ってもらったら、結構美人だったし、実物もきっと可愛いと思っていた。
俺は若作りするために、髪を黒く染めて、服も店員さんにコーディネーターしてもらって気合を入れて出かけた。
待ち合わせは、水道橋。銀座とか言わないのが、若さを感じさせる。おじさんは、ジェットコースターに乗れないが、取り敢えず指定された場所に行った。
そこには、太ったおばさんが待っていた。セミロングにソバージュ。体型を隠そうとして、ロングのスカートをはいているが、余計に太って見える。爆乳だけど、垂れ気味で、腹も出ている。俺より3歳くらい若いかも知れないけど、20代はないなと思った。
俺たちは取り敢えず、コメコに行った。
俺は早く帰るために、嘘のプロフィールを作り上げた。仕事はブラック企業のサラリーマン。年収は株で儲かった時のを乗せてるだけで、実は300万円。バツイチで前の奥さんとは、出会い系で知り合って、3年くらいで離婚。子どもが2人いて慰謝料を払ってる。趣味はギャンブル。競艇、競輪、競馬、パチンコ、オートレース、賭け麻雀、何でもやる。一回自己破産していて、今はカードを作れない。今も2000円しか持ってないから、割り勘でいいかと尋ねた。
このくらい言っとけばいいだろう。俺は我ながらよく言ったと感心していた。
「私、ダメンズが好きなんです」
「え?」
ダメンズという言い方も古くないだろうか?
「君、24歳?」
「うん。そうだよ」
「好きな芸能人は?」
「SMAP」
多分、20歳くらいサバを読んでる。
「でも、かなり年上じゃない?」
「え、慎吾ちゃんと同い年だよ」
俺は香取慎吾の年齢を知らないけど、40代じゃないだろうか?
「もう、40代だっけ?」
「まさか、まだ24だよ!私と同い年だもん」
女は笑った。噓発見器にかけたら多分、反応しないだろうと思われる、心からの笑顔だった。意図的にサバを読んでるんじゃなくて、本物なんだ。精神疾患かもしれない。
変なことを言わないようにしないと・・・。
「今、どんな仕事してんの?」
「倉庫の仕分け作業」
「へー。大変だね」
「ちょっと中腰がきつくて。でも、ミスが多くて、事務とかは無理だから」
「テレビとかあんまり見ない?」
「見るよ」
「SMAP解散したよね」俺は空気を読めない男だから、間違ってそう言ってしまった。
「してないよ!SMAP解散したら生きていけない!」
「もう、解散したよ。キムタク以外は、ジャニーズやめたし。キムタクは工藤静香と結婚したよ」
「やだ!絶対ないって!工藤静香はヨシキと付き合ってるんだよ!」
「キムタクの娘2人もデビューしたよ」
その子は受け入れられないみたいだった。
「大丈夫?」
「立ち直れない」
その子は泣き出してしまった。
「ごめん。ちょっとからかっただけ」
「なんだーびっくりした!」
その子が段々、かわいそうになって来た。
悪気があるわけじゃなさそうだ。
「そろそろ出よっか。おごるよ」
「でも、お金持ってないんじゃ」
「PASMOにお金入ってるから」
その子は首を傾げた。
「PASMOって何?」
あ、もしかして、タッチアンドゴーができる前の記憶しかないのか、、、。
俺が大学の時はまだ駅員さんが切符を切ってる改札があったもんだ。名前は思い出せないけど、前はプリペイドカードがあったなぁ。そうだ。メトロカードだ。2015年に終了したっけ。
今日はどうやって来たんだろう?現金で切符を買ってるんだろうか?
俺は不思議だった。
スマホはどうやって使ってたんだろう?
「今日はどうやって来たの?」
「お母さんに送ってもらった」
「あー。そうなんだ」
40歳過ぎてからのデートに親が付いてくるなんて、聞いたこともない。
でも、親の気持ちを考えると、ちょっと気の毒になって来る。
「お母さん呼んでもいい?」
「いいよ」
俺は断れなくて、承諾した。
「お母さん、ちょっと来てくれる?」
女はなぜか前の席に向かって手を振り出した。
「え?」
何と母親はちょっと離れた席に座っていたらしい。3個ぐらい離れた席だけど、斜め前にいた。その人は、店員に事情を話して席を変わってもらっていた。娘同様、ちょっとダサい感じだけど、70前半くらいで、優しそうだった。
「どうも」俺は頭を下げた。
「今日は遠いところありがとうございました」
「いえ。とんでもない・・・」
お母さんはすごく普通の人でしゃべりやすかった。娘は隣に、にこにこしながら座っていた。いい親子だった。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
娘がいなくなった時、俺は思い切って尋ねた。
「あの・・・娘さんは、おいくつなんですか?」
「もう45ですけど・・・あの子は、24歳の時に交通事故に遭って、その時の記憶のまま止まってるんです」
「あ、そうなんですか・・・」
若ぶってる勘違い女かもしれないと思っていたが、ガチで気の毒だった。
「もし、今のSMAPを見たら・・・」
「現実を受け入れられないと思います」
そっか・・・気の毒だなぁ。
「アイドルも永遠ですからね・・・ファンにとってはずっと全盛期のままでいてほしいですよね。でも、テレビとかで見るんじゃないですか?」
「うちはテレビないんです。あとはパソコンも見せないようにしてます。混乱するといけないので」
「そうなんですか・・・お母さんも大変ですね。どうしてまた出会い系サイトなんかに?危なくないですか?」
年を胡麻化していると思われて、怒る人もいるんじゃないかと思った。
「娘は24だと思い込んでますから・・・私がこうやって付き添ってるんです。トラブルになった場合は、私が出ていけるように」
「でも、どうして出会いを求めてるんですか?恋愛がしたいなら、こういうところじゃない方が」
「娘も40代になって性欲が爆発してて・・・」
相手には申し訳ないがちょっと引いた。
「やっぱり閉経前って、そうなるみたいで。前は出張ホストの人を頼んでたんですけど、ちゃんとした恋愛がしたいっていうので」
「はぁ・・・まあ、でも、できるんじゃないですか・・・僕は20代の子だと思って会ってみたんですけど、40代で同年代を望む人も多いと思うので」
「でも、それがなかなかいなくて・・・。バイトも一緒にやってるんですけどね。娘を気に入ってくれる人がいても、なかなかあの子が首を縦に振らなくて」
気に入ってくれる人がいるんだ・・・。俺はその方が驚きだった。
「すいません、帰らせてもらっていいですか。食事代、僕が払いますから」
「いえ、待ってあげてください。あの子が悲しむので」
「今日はこれから競馬に行くので・・・」
俺はテーブルに5千円置いて席を立とうとした。
すると、目の前にさっきの女性が立っていた。
「前田さん、帰っちゃうんですか」
「あ、ちょっと用事があって」
「一緒に観覧車乗るって約束したじゃないですか」
泣きそうな顔でそう言われた。
「あ、そうだっけ・・・わかりました・・・じゃあ、観覧車だけ」
俺たち3人は観覧車に乗りに行った。
***
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