秋風は空虚な心に冷たい
御都米ライハ
プロローグ
プロローグ 今まで、心、苦しさ1つ
蝉の声が聞こえなくなった、とふと思った。
残暑が居座る通学路。足元に転がる蝉の死骸を見て、今さらながらに気が付いた。
蝉の寿命は1週間だと人は言う。蝉はその短い時間で精一杯声を張り上げ、自らの命を燃やし尽くすのだ、と。
1週間。その時間で蝉は一体何を思い、何を感じ、何を考え死んでいくのだろう。
足元の蝉の死骸を見る。
6本の足が縮こまり、すっかり閉じた蝉の死骸。薄緑が走る透明な羽は擦り切れていて、オレンジ色の腹弁の色はもう騒がしい音を奏でない。
きっと精一杯生きたのだろう。短い夏の短い命で、自らの軌跡を残すために。その腹を精一杯震わせて。
蝉よりも長い命を持つ自分は、この生き抜いた戦士のように生きられるだろうか。
1週間よりも長い何十年という命を活かすことは出来るのだろうか。
そんな自問自答には、やはり「できない」と答えるしかない。
手に入らないとわかっていながら求め続けるようとする自分なんかには、そんな生き方は決して出来ない。
だから、響かせるものがない空っぽの自分は目の前の虫一匹にも劣るのだ。
残暑真っ最中の9月の頭にしては、奇妙なほどに冷たい風が腕を撫でた。その風は冷気と共に夏の死体を転がして、道路の向こう側へと運んでいく。
太陽は未だ夏の様子で在って、強い日差しで照り付けている。
けれども、時間は過ぎていき、自分のような人間にとってはそれこそあっという間に過ぎていく。
もうじき、冬が来る。
空っぽの心に堪える、冷たい冬が。
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