森の番人、始めました〜何もないところから一歩ずつ〜

でずな

プロローグ 社畜が突然



 少し働きすぎなのかもしれない。自分でもわかるくらい、家に帰る足取りが年寄のようによろよろしている。頭がくらくらしてまともにまっすぐ歩けない。

 スマホの画面には、二重に見えるけど2:00と映ってる。

 朝の8時からずっと仕事をしていた。休みなく、ずっと。残業代なんて入ってこない。もう私の同期は誰も残っていない。皆、仕事内容がブラックですぐやめてしまった。

 ――私もできればやめたい。

 けど、上司から「お前がいなくなったらもうこの会社は終わりだ」だとか、「お前のせいでどれだけの損失で出ると思ってるんだ」などと脅されてやめるにもやめれない。

 本当、もういい加減にしないと私の体がもたないかも……。


 最後の気力を絞り家に帰ろうとしていた花怜だったが、視界は暗転し意識も闇の底へ落ちていった。


「やばっ!」


 ぐっすり寝すぎた。

 絶対遅刻しちゃって……。


「あえ?」


 家じゃなく、外だった。

 地面はゴツゴツとした土。周りはなにもない。あるとしたら、枯れた草くらい。


 ここってどこ……?


 花怜は衝撃のあまり言葉が出てこなかった。


 そういえば私って寝る前、最後どこにいたっけ?


「っ!」


 思い出そうとしたら、頭を潰されるような痛みが走った。悪い記憶だったのかな?

 少なくともお酒は飲んでいなかったはず。

 というか、家に帰ってなかった気が……。

 

「いででででで」


 よし。もう思い出すのはやめよう。

 

 ……暑い。

 思い出すのをやめて、考えることがなくなったからボーッとしてて気づいたけどここ物凄く暑い。ワイシャツがビチョビチョだ。水がないとすぐ脱水症状になっちゃいそう。


「おーい。誰かいませんかー!」


 反応はない。見渡す限りなにもないので、誰もいないのは知っていたけどちょっと寂しい。


 仕事場で一人ぼっちだったのは全く気にしてなかったけど、何もない場所で一人ぼっちだと思うと思わず涙が出そうなほど寂しく感じる。


「はぁ〜」


 歩くと暑そうなので地面に寝転がる。

 もちろん地面も太陽の熱を吸収しているので暑い。けど、許容できる範囲の暑さ。


 それにしても、本当にここにはなにもない。映像などでは見たことがあったけど、ここが荒野という場所なんだろう。

 正直、夢のよう。……最初起きたときは夢だと思ったけど、さっき頭に痛みが走ったからそれはないと確信した。


「?」


 冷静に考えてみて、この状況はなんなんだろう?

 テレビの一般人へのドッキリかなにかだろうか? カメラは……ない。どこにも見当たらない。ドッキリではないと考えるのであれば、私は……『誘拐されて荒野のど真ん中に捨てられた』というのが妥当な考えだろう。


「誘拐するんならちゃんと責任持って誘拐してよぉ〜」


 言葉は空気に消え、生暖かい風が孤独な私のことを慰めるように頬を撫でる。


 このまま寝転がってても何も始まらない!

 と、立ち上がってみたもののここがどこなのかわからないので、どうしようもない。


「ん?」


 視界の端に、真っ白な四角いなにかがあった。それはまるで地面に突き刺さるように、風が吹いても飛んでいかない。


 さっきまであんなのあったかな?


 恐る恐る手に取る。

 さっきいた場所ではわからなかったけど、これは紙だ。二重になっていて、中に別の紙が入っている。

 これはいわゆる……。


「手紙っていうやつね」


 なんて書かれてるんだろう?


 意気揚々に中の手紙を取り出した私だったが、『われは神なり』と最初に書かれた手紙の一文を見て気が引き締まった。

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