第20話

 目が、覚めた。

 外。紅い。夕焼けか朝焼けか分からない。天井。これは、病院。知っている。施設内の病院だから。

 隣。いつもなら腰かけてる彼女が、いない。


「いない、か」


 そういえば。刺されたのに、なぜ生きてるんだろうか。


「いますけど」


「うわっ」


 ベッドの隣じゃなくて。中から声がする。

 彼女が、ベッドから出てきた。一緒に寝てたのか。


「ねぇ」


「はい」


「死んだと思ったんだけど」


「俺もそう思ったんだが」


「ねぇ。超軽傷って。どういうことなの。ねぇ」


「軽傷だったのか」


 たしかに、痛くなかった。腹のところをさわってみる。絆創膏の感覚。それだけ。


「え。でもちゃんと刺さってたような」


 手も動かなかったし。


「ねぇ。軽傷。軽傷ってどういうことなの?」


 そういえば、施設の人間が止めに来なかった。

 もしかしたら。


「システムができたのか」


 防犯のシステム。最後の試運転を、俺でやったのか。


「ねぇ」


「あ、いや。すまない。夢の話だ。システムの夢を見てた」


 システムの夢は、見ていた。あいつが、笑っていた。それだけの夢だった。あの頃の。


「軽傷か」


 腹をさわってみる。おそらく、かなり深く刺された。しかし処置の体制は全て整っていて、刺された辺りを丸々入れ換えて終わり、という感じか。最後に、申し訳程度に腹の真ん中ちょっとだけひっかいて絆創膏。


「ばかでは、いられなくなっちまった」


 分かってしまう。これで、防犯システムは完成するだろう。


「いや、ばかでいよう」


「ねぇ。さっきからなんの話。ねぇ」


 せめて、彼女の前では。

 ばかでいよう。

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