第2話 Ghost Town(2)

 目が覚めたのは、ヘリの音が聞こえて来たからだった。

 辺りはまだ暗く、日は昇っていない。

 時計を確認すると、深夜三時だった。


 タケミチは寝袋から出ると、身支度を整えた。

 少しだけ眠ることができた。完全とはいえないが、多少体力は回復している。


 空を見上げると、自衛隊のものと思われるヘリコプターが飛んでいた。あれはきっとオスプレイだ。

 なぜこんな時間に自衛隊のヘリが渋谷上空を飛んでいるのだろうか。

 そんな疑問をタケミチは覚えたが、そのヘリの行方を追っている余裕はなかった。

 ヘリの音に反応したデッドマンたちが、渋谷の街のあちこちから集まってきているのだ。


 こんな数のデッドマンたちが渋谷にいたのか。

 とんでもない場所に来てしまったものだと、タケミチは震えた。

 その様子はすべてカメラに収めてある。

 あとは渋谷を出て帰宅できたら、この映像をインターネットにアップするだけだ。

 きっと再生数は爆伸びするだろう。

 渋谷の真実。タイトルは決まっている。


 そんな時、自衛隊のオスプレイの動きがおかしくなっていることにタケミチは気づいた。

 揺れている。

 ヤバいんじゃないか。

 タケミチはそう思いながら、カメラを回し続けた。


 オレンジ色の閃光が走った。

 オスプレイがビルにぶつかったのだ。

 少し遅れて轟音が聞こえる。


 明るくなった渋谷の街に見える大勢のデッドマンたちの姿。

 きっとオスプレイに乗っていた隊員たちは、即死だっただろう。

 もし、生存者がいたとしても、集まってきたデッドマンの犠牲になってしまうはずだ。

 いま自分にできることは、記録を残すことだけだ。タケミチは自分にそう言い聞かせてカメラを回し続けた。


 その時だった。カラカラと空き缶が鳴る音が聞こえた。

 仕掛けておいたトラップの音だ。

 タケミチが振り返ると、そこにはあの子どものデッドマンが紐に足を取られて転んでいる姿があった。


 ヤバい。来た。

 タケミチは慌てた。子どもといえども、デッドマンはデッドマンだ。


 逃げろ。

 震える足を無理やり動かして、タケミチは子どものデッドマンがいる方向と逆に走り出した。


 爆発音が聞こえた。また一瞬、周りが明るくなる。

 どうやら墜落したオスプレイが爆発したようだ。


 振り返ると、子どものデッドマンが小走りでこちらに向かってくるのが見えた。

 こいつ、走れるのかよ。

 タケミチは焦りながら、自分も走った。


 その時だった。

 地面を蹴っていたはずの足元から地面が消えた。


 え、なんで……。

 屋上に生い茂っていた雑草。そのせいで足元が見えていなかったのだ。

 身体が宙に浮いた。

 そして、ものすごい勢いで落下していく。


 死。

 それを感じ取った時、時間がゆっくりと流れていく気がした。

 走馬灯。

 生まれた時から、幼稚園、小学校、中学校、初恋、高校、受験に失敗して浪人、大学に入るのをあきらめて通った専門学校、そして就職することなく続けてきたアルバイト……。


 タケミチは自分が死ぬんだと覚悟した。


 と、思った瞬間、足に衝撃が走った。

 足から頭の先まで電気が走ったかのような痺れた突き抜ける。


 え? 地面?

 落ちたのは2メートルくらいの高さからだった。


「あぶねー。死んだかと思った」

 上を見上げると、ちょうどタケミチが落っこちた部分に大きな穴が開いていた。おそらく長い時間放置されたことで老朽化していた部分が補修されずに破損してしまっていたのだろう。


「というか、ここはどこだ?」

 タケミチは自分のいる場所を把握するべく。マグライトのスイッチを入れた。


 目の前に広がった光景にタケミチは悲鳴をあげそうになっていた。

 囲まれた。


 そこは無数のマネキンが置かれた倉庫だった。

 一瞬、デッドマンたちの巣窟に落ちてしまったのかと思い、タケミチは泣きそうになっていた。しかし、よく見ると、それはマネキンであり、デッドマンではないということがわかり、タケミチは安堵した。


「脅かさないでくれよ……」

 そう呟いた時、低いうめき声に似た声が聞こえたような気がした。

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