第3話 Prime Minister(2)

 三島はすでに大勢のSPに囲まれて会見場から脱出していた。


「おい、大丈夫なのか、あのカメラマンは」

 脇を固めるSPに三島は声をかけるが、誰も言葉を返そうとはしない。


 三島がSPたちに囲まれて連れてこられたのは、首相官邸地下にある危機管理センターであり、設置されている鉄の扉を閉めればシェルターにもなる施設だった。


 すでに各大臣たちは招集されており、誰もが緊張した面持ちで席に座っていた。

 先ほどの会見は途中で終わってしまったため、改めてこの危機管理センターで会見を行う。ただし、記者は一人もいない。ここにいるのは関係閣僚たちと政府関係者たちだけであった。


 三島は先ほどの会見の続きを行うように促され、撮影用の席に座る。

 目の前にあるのはWEB撮影用のカメラであり、これを使って全国民への配信を行う。


「――――国家非常事態宣言を発令します。外出は控えてください。近くに感染者がいる場合は絶対に近づかないようにしてください。もし、自分が感染してしまった場合は……」

 カメラに向かって三島は淡々と語り続けた。

 国民に伝えたいメッセージは山ほどある。


 このメッセージをどのぐらいの人々が見るのだろうか。

 いま、国民の何パーセントが感染者であり、非感染者はどのぐらい残っているのだろうか。

 様々な疑問が頭の中を駆け巡る。


 かつて日本では世界的に流行した病気による緊急事態宣言は出したことがあったが、国家非常事態宣言を出したのははじめてのことだった。

 緊急事態宣言に比べ、国家非常事態宣言の方が宣言の力は強い。

 場合によっては防災派遣以外での自衛隊の出動も出来る宣言である。


 感染者を救える薬などはいまのところ何もない。

 また感染しないための予防薬なども存在しない。

 いまわかっているのは、暴走した感染者を止めるには、頭に銃弾を撃ち込むか、頭と身体を切り離すかしなければならないということだけだった。


「わたしはねえ、ジョージ・A・ロメロの映画が一番好きでねえ。あれこそがオリジナルなんだよ。ただねえ、ロメロの『ゾンビ』をリメイクした『ドーン・オブ・ザ・デッド』は認めるよ。あれは面白い。ロメロはインタビューで『走るゾンビは気に食わない』って言ったらしいけれど、あれは怖かったねえ。ゾンビが走って追いかけてくるんだよ。あの怖さが、あんたにはわかるかい」

 だみ声のべらんめえ口調で話す小柄な男――影の首相とも呼ばれる財務大臣、浅岡次郎――が、隣に座る法務大臣を捕まえて語っている。


 浅岡は今回の国家非常事態宣言の発令を三島に進言した人物でもあり、閣僚の中で最も発言力を持つ人物であった。


 会見を終えた三島は「疲れた」とひと言つぶやくように佐伯秘書官に言うと、ソファーに身体を投げ出すように座り込んだ。

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