On the porch.

 サンドラが応対に出ると、玄関にはドワイトの幼なじみのジャッキー・ケンプが燦然と輝くハマーのライトをバックに立っていた。


「いよぉ、サンディー。こんばんわ」


 ジャッキーがとってつけたような愛想笑いをヘラヘラ浮かべながら挨拶する。

 ルックスのいかつさと反比例して気持ち悪いレベルだ。

 まだ二十代中頃だがさらに体重が増えたようだ。アメリカの食生活は普通に摂取するだけで誰でも太る。例外はスポーツトレーナーを雇えるセレブだけ。

 

「ハーイ、ジャック」


 サンドラは腕組みをしたまま仁王立ちして答える。腕組みはこころの城壁。

 

「どうして、あなたが刑務所に収監されず、自由にプラプラ歩けてうちのポーチに立っているのか理解できないわ」


 とサンドラ。


「へへへ、執行猶予って司法制度がアメリカには存在するんですよ。ミス・カーター」

「あんなに、銃を撃ちまくってどうして猶予されるのかも理解できないわ」

「それは、検察サイドの一方的な見方ですよ。へへ」

「犯罪者は犯罪者だわ」

「そんなことより、ドワイトが帰ってきてるんでしょ、会わせてくれませんかね、ミス・カーター」

「そのスクリーン・ドアーより一歩でも内に入ったら、即通報だかんね」

「そんなことは絶対にしませんよ」


 ジャックは両手を広げてみせる。


「ドッティー!。ジャックがあんたに用があるそうよ!」


 サンドラが声を張り上げる。

 ドワイトはなぜかすぐに来ない。


「ドッティーはあんたのことなんか忘れちゃったかもよ。ジャック」

「それはないでしょ。俺とドワイトが公園で<クリンギング>テイトにとっちめられそうになったときバット持って助太刀してくれたのはあなたでしょサンドラ姉さん」


 そのバットは今でも傘立てに立っている。


「記憶に一切ないわ。相手が暴力行為に及んだっていうだけで名誉毀損で訴えてもいいぐらいね」

 サンドラは否定の意味の大きなため息をつく。

「あんたみたいな悪党を誰が弁護したの?」

「ヘンリー・ウォルフォビッツ弁護士ですよ。アイビーリーグの大学のロースクール卒業ですよ」

「背中丸めて両手いっぱいの酒瓶抱えて酒屋から出てくるところしかみたことがないわ。陪審員は弁護士が呑んだくれだってことは知ってたのかしら?」

「弁護士の飲酒は採決には関係ないでしょう。代理人を立ててるこっちが気にしなきゃならないぐらいで、、へへ」

「罪状はなんだっけ?」

「どっちでもいい事にはえらく興味があるんですね」

「ドッティー!。早くしてぇーお姉ちゃんがジャックに押し倒されそうよ」

「ドワイト!早く来てくれ!」


 耐えかねてジャックが大声を上げた。

 二階に上がる階段の脇からレキシーとメイブが顔だけだしてジャックと姉のサンドラのやり取りをニタニタしながら目だけパチパチさせて見て居る。

 この家は狭い。


「レキシントン・カーター、メイヴゥリン・カーターもうベッドに居る時間ですよ」


 レキシーとメイブが狭い階段をドタドタと駆け上がっていく、ふたりともジャックと同様サンドラにはかなわない。


「第二級過剰防衛と第二級恐喝の共同謀議です」

「警察は相当薬莢を拾い損ねているわね。ほぼ撃ち合いだったんでしょ?現場の半ブロック先のリリー・ドーソンが言ってたわ」

「リリーはガキの頃から怖がりなんですよ。ウォルフォビッツ弁護士がペニントン判事になんて言ったか知ってますか?地域住民の防護と安全のため法に抵触することも恐れずに果敢に、、、、」

 ジャックの発言をさえぎるためのサンドラの大きなため息。

「でも、これだけはきっちり言っときます、ミス・サンドラ・カーター。俺がアウトレットモールに居たって警察に証言してくれたことだけは本当に心の底から感謝してますから」

 ジャックがポーチに現れてから一番大きなサンドラのため息。

「さすがの私でも近隣住民を警察に売ることだけはできないわ」

 

 そこへ、細身のQBドワイト・カーターが現れた。


「いよっ、ジャック」

「マジで助かったぜ」


「弟は今日中に帰して貰えるんでしょうね。0時を越えたら誘拐並びに拉致監禁の疑いで即通報よ」

「シンデレラ並ですね。成人男性の場合、行方不明になっても確か、数日かは事件化して捜査しないっていう、、」


 しどろもどろになっているジャックをドワイトがハマーのほうに引っ張っていった。


「行こうジャック」

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