On the Taxi.

 シャーロット・ダグラス国際空港から無言でのドライブが続く。

 後部座席から見たところドライバーの名前はケヴィン・、、、、姓が読めない。

 東欧系らしいが綴りはcやhの子音だらけで名前が発音ができない。

 運転手と話すことはとくになにもない。

 シャーロットの西にあたるブラック・マウンテンに日がゆっくりと傾く。

 晩春のこの時期は午後の遅い時間だがまだ日が高い。

 ノースカロライナ州、シャーロットの街は変わったようで変わっていない。北米のラスト・ベルト自動車製造業地帯ほどではないが、再開発もそれほど進んでいない。

 ノースカロライナといえば、これでもアパラチア山脈の東、独立戦争でも奮闘したエスタブリッシュが住むバリバリの東部なのにDCや政府、大統領は存在や価値そのものを忘れてしまっているらしい。

 タクシーが目的地に進むごとに街並みが変わっていく。

 建物は小さく、古くなっていく。

 テナントの入らない店舗に、空き家、放置された車。

 所得が低い人間が住む地域に入っていくことが如実に感じられる。

 スラム街と普通に呼んで差し支えない。

 ブラウンズ・ボロウ。

 黒人街。

 ここがドワイトの生まれ育った場所だ。

 イエローキャブが一軒の金網のフェンスで囲まれた平屋の前で止まった。

 二軒向こうのボロボロのVWの止まったドライブウェイから黒人の子供がこちらを見ている。

 ドワイトが料金を支払い終わって始めて運転手が喋った。


「あんたが、このブラウンズボロウの出身だって知らなかったよ」

「俺のことを知っているのか?」

「ああ、あんたがオレンジ・ボウルで4Qの残り20何秒で相手デフェンスの大雨みたいなブリッツの中逆転のタッチダウン・パスを決めたときから応援してるぜ」


 それには、さすがのドワイトもびっくり。

 しかし、あのパスは偶々たまたまのまぐれだ。

 ブリッツでポケットから追い出されてどうして、左の狭いサイドに切り返して下がり直したのかすら自分でもわからない。

 ドワイトも謙遜して言う。


「実はな、ナロー・ハッシュのスロットが開くってスポッターのオフェンスコーディネーターからその前のタイムアウトで教えてもらってたんだ」


 いつも適当に作り話をする。


「そんな風には見えなかったな、、、」

「釣りは取っていてくれ」


 と渡したのは50ドル札。


「そんな話聞きたくなかったな。チップぐらいまけてやったのによ。これでも本当にファンだったんだぜ、とにかく頑張れよ。今のあんたにゃクレムソン大のころの輝きは全然ないぞ」


 強烈な一発。

 だが、真実。

 ドワイト・カーターは良いQBが居るチームでは控え、ドワイトがスターターに成れるチームは連敗を重ねる。

 そう言い残してタクシーはシャーロットの中心部へ帰っていった。

 ドワイトは小さなカバンとともに夕闇に取り残される。

 ここらは街灯が少ない。

 市からも見捨てられている証拠。


 Just enlightened on me. 

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