土地







🔴20年ほど前の話です。


K県で凄惨な殺人事件が起こりました。


平和に暮らしていた、Aさん家族。


Aさん、妻、長男、次男の4人。


その全員が、一晩のうちにナタのようなもので惨殺されたのです。


翌朝、開けっ放しの玄関を不審に思った新聞配達員がのぞいたところ、首と胴体の離れた死体がころがっていたといいます。


踏みこんだ警察官は、「肉片が壁や天井にまで飛び散って、まるで人食い熊が暴れたあとのようだった」と語りました。


犯人はまもなくわかりました。


現場から1キロほど離れた雑木林で、中年男性が首を吊っていたのです。


その足元には、血のべったりついたナタが落ちていました。


男は、殺害現場から3キロ離れた家に住む派遣社員(35歳)。


「派遣社員」といっても、ここ数年は仕事らしい仕事をしておらず、無職に近かったようです。


身寄りは老人ホームに入っている母親がいたのですが、6年前に亡くなっていました。


なぜこんな凶行に走ったのか?


犯人が自殺し、遺書もなかったので、真相はわかりません。


いずれにしろ多くの不明点を残したまま、警察の捜査は打ち切られました。


現場となった家は、Aさんの親戚の意向もあり、取り壊して更地にすることに。


フローリングの床にはドス黒い大きな染みがつき、花柄のクロスには肉片の張りついた跡が残っていたのですから、住みたい人などいるわけがありません。


事件から1ヶ月後に、解体業者によって作業が行われました。


もう建物自体の取り壊しは終わり、杭も引き抜いて、あとはショベルカーで土台のコンクリートを掘り出すだけになったときです。


持ち上げられたショベルカーのカゴに、全長1メートルほどの四角い石が入っていました。


自然のものにしては妙に四角い。


作業員はこびりついた土を払いました。


文字が彫られています。


『〇〇火〇〇〇〇供養〇〇』


読めたのは、『火』『供養』の文字。


どういう意味でしょうか?


カゴから石を引き起こします。


ゴロッと地面に落ちたものがありました。


人の頭骨でした。


驚いて後ずさりし、あらためて辺りを見回します。


すると掘り返した地面のあちこちから、大量の骨が顔をのぞかせているのに気づいて、真っ青になりました。


あれは腕の骨でしょうか、肋骨、背骨、頭蓋骨も……


さまざま骨がころがっています。


作業員はガタガタ震え出し、急いで会社へ報告しました。


まだ殺人事件の衝撃が残っていた頃だったので、話を聞きつけた地方紙の記者が取材に来ました。


現場へ来る前に、その記者は過去の新聞を調べてきたようで、解体業者へ意外な史実を話してくれました。


この土地は昔、農地へ水をひくためのため池だったそうです。


しかし明治・大正と時代が移る中で、農地は宅地へ転用され、ため池だけが残りました。


そして戦時中。


上空を飛ぶ爆撃機が無数の焼夷弾を落としました。


木造の家々ばかりですから、あっという間に火は燃え広がり、煙に巻かれた人々が水を求めてため池へ殺到したそうです。


老若男女が10人、20人、30人と飛びこみ、池がいっぱいになっても、覆いかぶさるようにさらに飛びこんできました。


池の中にいた人は圧死したり、窒息死したり、泥水に溺れたり。


迫る炎から逃れるために飛び込んだはずの池も、同じく阿鼻叫喚の渦でした。


火がおさまったあとのため池には、泥土にまみれた死体が折り重なり、酸鼻を極めた光景が広がっていたといいます。


その後、供養塔が建立されました。


しかし戦後をむかえ、町が近代化するとともに、8車線道路を建設する話が持ち上がりました。


そのゴタゴタの中で、ため池は埋め立てられてしまったそうです。


そして、供養塔は行方不明に。


今回の事件のあった家が建っていた土地は、ため池の東北部分に当たります。


呪われた土地だったのでしょうか。


まるでそれを証明するように、今回殺されたAさんは、幼い頃、悲惨な体験をしていました。


あの土地の建物は、Aさんが生まれる8年ほど前に、彼の父親によって建てられた物件なのですが、Aさんが5歳のとき、強盗によってその父親が殺されています。


夫婦が眠っている寝室に強盗が侵入してきて、母親は無事だったのですが、父親の方は電気コードで絞殺されました。


簡単に引っ越すわけにはいかなかったのかもしれません。


Aさんと母親はその後も家に住み続け、40数年のち、今回の事件が起きたという経緯になります。


きっと呪われた土地なのでしょう。


今は駐車場になっているそうです。








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