第15話 にゃんころゴーレム出動!

 もう足がガクガクで動けないので、三匹のうちで一番かわいいと明楽君が褒めてくれた、にゃんころ餅型ゴーレムを巨大化して私たちを運ばせた。公爵家嫡男、体力はないけど、無駄に魔力はあるんだよ。


「あのね、ふーちゃんの髪の毛、切っちゃってごめんなさい」

「全然問題ないよ。最近はないけど、幼稚舎の時なんか、風の子たちには髪の毛どころか、幼稚園バッグとか、お道具袋とか、いきなりバサッと切られたし、水の子といると、プールの時間が水難救助の時間になるし。あんなの誰も気にしないって」


 にゃんころゴーレムが、ぽてぽてと校舎にもどる道すがら明楽君が話してくれたところによると、彼は赤ちゃんの頃から魔力があったらしい。でも、ここまでの力が発現したのは五歳の誕生日を越えたあたりだったそうだ。同じ時期に、例の伯爵令嬢が大洪水を引き起こしたため、明楽君のお母さんは、周りの目から隠すように明楽君を育てた。


 小学校に上がった頃に、クラスの女の子が水位の上がった川に引き込まれるようにふらふらと歩いていたのを見た明楽君は、いてもたってもいられず、クラスメイトを助けようとしたそうだ。


「僕、必死で、その子を助けようとしたらね、空気の大きなボールが出てきて、その子を川から守ったんだ。でも、その子は、僕のこと、化け物って呼んで・・・」


 そして、翌日には、クラスどころか学校中から奇異の目で見られて、虐めが始まったという。恩を仇で返したか。最悪だな、それ。


 明楽君が、転校初日に真護の【風切り】を見て顔色を変えた理由が分かったかも。


 帝国では、魔力持ちは中央政府に届け出がされて管理される。私みたいなのには、監視の目もつくこともあるらしいよ。明楽君の場合は、千台市の教育委員会経由で報告され、陰陽寮から、陰陽師が派遣されたらしい。


 出たよ、陰陽寮の陰陽師。


「それで、おんみょーじのお兄さんが、西都に行ったら、僕みたいな人ばかりだから心配しなくていいって言ったんだ。僕は、毎日辛かったから、お母さんに転校したいってお願いしたんだけど、僕の家は、お父さんがいないから、西都に行くお金がないんだって。でも、おんみょーじのお兄さんが、そんなのは、西の大公爵様に泣きつけば、絶対何とかしてくれるから問題ないよってお母さんに言ってくれて。小学校なら、西都公達学園の初等科に入れば、後はどうとでもなるって・・・」


 おいこら、陰陽師、それ、瑞祥のお父さまのことだろう。何を勝手に言いふらしてるんだよ。しかも、問題、西都に丸投げじゃん。


「ちなみに、その人、賀茂さんとか芦屋さんとか言う?」

「ううん。土御門つちみかどさんだよ」


 土御門さんね。誰か知らんが覚えておくぞ。場合によっては、お父さま経由でよっちゃんに言いつけてやるからな。


「でもね、その人のおかげで、引越しも転校も、全部、おんみょうりょう?って言うところがやってくれたんだよ」


 そりゃそうでしょうよ。子供は帝国の未来を担う大事な人材だもの。国がお金や人を出して、どの子にも文化的な暮らしをさせないと。


 陰陽寮は、厄災の魔物を退治する部隊と、子供たちの魔力を測定する部隊のお仕事以外にも、魔力持ちの保護なんかもしたりもしているのか。国中を飛び回る仕事で、人手不足じゃ、ブラックにもなるなぁ。賀茂さんたちも、他の任務があるからとか言って、お昼を食べたら、直ぐにいなくなっちゃったし。たまに、お菓子の差し入れでも送ってあげるかな。土御門さんは除くけど。


 校舎が近くなると、学校中が、巨大にゃんころゴーレムに釘付けになっていた。ふふふふ。私が夏休み中に練りに練りまくったデザインだからね。そーりゃ、可愛いでしょ、見たいでしょ。


 階段を登るのも面倒なので、窓から教室に入っちゃうかな。にゃんころの手を滑り台状にして、教室に戻ったところで、土の魔力を解除した。教室の外に土の小山ができたので、風で元の場所に戻して、はいお片付けも完了。


「ふーさま、魔力切れってご存知?」


 梨元の香夜子姫に真顔で訊かれた。公爵家の嫡男が、この年齢で知らないはずないでしょ。昨日、目の前でひどい魔力切れを起こした人が一人いらしたし。


「明楽君、おかえり。ふーちゃんもご苦労様」


 四条先生が言うと、クラスのみんなも同じように「おかえり」と言ってくれた。明楽君が驚いたように私を見た。


 うん、明楽君、陰陽師のお兄さんが言ったのは、本当なんだよ。ここでは、魔力持ちを奇異な目で見る人なんかいない。それに、魔力のあるなしに関わらず、子供に何かあるときは、だいたい、あの西の大公爵さまが何とかしてくれるからね。

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