読書感想文

稲穂乃シオリ

第1話「セカイを科学せよ!」読書感想文

   「なぜ」を知りたい

            稲穂乃 シオリ

 私はどんな進路を目指すのか、最近それをよく聞かれる。けれど、私には「将来」というものが漠然としていて、どんな風に何を選べばいいのか、よく分からなかった。そんな時に、この本を読んで見ようと思った。科学せよ、と書いてあるけれど、ストーリーのある本。それは文系と理系、二つの選択を聞かれる私に、ちょうど良い本だと思ったから。

 この本に出てくるのは、私が気にも留めないものだった。「蟲」という生きもの。昆虫だけじゃなくて、爬虫類や両生類、甲殻類なども含む、小さな生きものをそう呼ぶらしい。私は家にメダカの水槽があるくらいで、そんな生きものを飼ったことはなかった。だって、脚がたくさんある生きものはなんだか怖い。そんな印象しかない。蟲という呼び方すら知らなかった。

 蟲なんて字からしても怖いもの。そんな私の印象は、ただの偏見でしかなかったことを、本の中で知る。山口葉菜という人物が、ていねいにその生きものたちのことを説明しているからだ。カナヘビという生きものは、足に吸盤が無いからツルツルしたところは登れない。まぶたは下から上に閉じる。そして、極めつけに「界・門・綱・目・科・属・種」実に七つもの分類を使って、一つの生きものを呼んでいる。「動物界脊索動物門脊椎動物亜門爬虫綱有鱗目カナヘビ科カナヘビ属ニホンカナヘビ種」それほど詳細にしないと、生きものの分類はできないものかと驚いた。たった一種類の生きものを、そんなにも細かく分けていかないとならない。それはきっと、そうしなければ何万種類もの生きものの中で、たった一つを呼ぶことができないから。そして、きちんと呼ぶことができたものは、私の中ではもう「なんだか怖いもの」ではなくなっていた。

 この本の舞台は、科学部電脳班という、名前だけはかっこいいけれど、インターネットをするだけのパソコン部だ。そんな科学部に現れた、山口葉菜というミックスの転校生。けれどその子は、同じくミックスのミハイルとは全く違うタイプの中学生だった。蟲が大好きで、学校で飼育して、クラスで孤立してしまっても気にしない。そんな彼女が生物班としてやってきて、電脳班はかき回され、ぶつかり合ってしまう。そして、決定的な事件が起きる。飼育ケージから蟲が逃げ出して、大騒ぎになってしまうのだ。大好きな蟲が殺虫剤で始末されたことに、泣いた葉奈。その彼女が立ち直った姿が、すごく心に残った。「自力で、全力で泣き止みました」そこで出てくるのが、自力の気合い。励まされてとかじゃない。落ち込んだ自分一人くらい、自分で持ち直す。誰にでも備わった、三十七兆個の細胞にかけて。その強いメンタルは、きっと今の時代で必要になる強さなんだと、羨ましく思った。

 不運にあってもめげない葉奈と、科学部電脳班は次第に分かり合っていく。しかし、そんな葉奈にもどうしようもない事態が起きる。それは、生物班活動停止の危機。教頭先生から、学校で蟲の飼育をさせないと言い渡されるのだ。ただし、校長先生は、科学的に活動するのなら撤回してくれると言ってくれる。 科学的に、活動をしなければならなくなった科学部。切羽詰まったその中で、彼らはそれぞれの事情を打ち明けることになる。あれほど強い葉奈が、自分のルーツである父には悲しい想いを抱いていたり。ミックスであるということを、ミハイルの兄はより深刻に思い詰めていたり。けれど、彼らはそんな悩みにもめげず、というかいったん脇に置いてでも、やるべきことをやるのだ。私は心の中で応援しながら、読み進めていた。

 私が好きな言葉に、こんなものがある。「時には歩く前に、走ることが必要だ」悩んでても止まれないことがある時こそ、悩みをどけてしまえるエネルギーがあるから。科学部としての活動は、ぶつかることを避けていた悩みに、彼らが走ってぶつかるきっかけにもなっていた。

 最終的に、科学部は結果を出せなくなってしまう。けれど、その目的は成し遂げられた。その後の彼らはきっと、今までよりずっと積極的に部活動として走っていくのだろう。そう思えるラストだった。

 この本の中で、たびたび言われることがある。「本質」を追究せよ、ということ。

 この本には科学的な話がたくさんあったけれど、科学を作るのは人である。という物語でもあった。理系や文系、どちらが良いか、ということではないのだろう。私の偏見を捨てるために必要なのは、きっと「本質」を求めることなのだと実感する。

 進路について悩むより、進路について調べることを始めよう。検索ワードをもっと増やして、詳しく将来を分類することにした。文系と理系、二つよりもっと多く、最低でも七つは分類すること。きっとその先に、私の求める学びがあるのだと思う。

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