恋なのか変なのか

またも事件に巻き込まれた俺と先輩。

なんとか無事に解放されて……先輩を自宅まで送った。


「楽しかったですけど、なんだか疲れちゃいましたね」

「そうだね、今日はいろいろあった。でも、最後は愁くんが守ってくれたし、嬉しかったよ」


「先輩を守れて良かったです。明日からまた学校ですし、俺に任せてください」

「うん、恋人のふりをお願いね」


――恋人のふり、か。

本当にそうなのだろうか。

明らかにふりではないのだが……でも、ここから先の一歩が踏み出せない。俺も先輩も怖いのかも。何気ない一言がこの関係を終わらせてしまうのではないかと。


そんなはずは無いと思うけど、それでも今はこの状況が一番なんだと思う。


「分かりました。明日からも俺は恋人ですよ」

「じゃあ、またね。あとでラインする」

「楽しみにしています。ではでは」


手を振って別れた。

名残惜しいけど、また明日会える。



* * *



自宅である『冒険者ギルド』へ戻った。

少し覗いてみると九十九さんが俺に存在に気づき、挨拶してくれた。


「あ、愁くんじゃん。おかえり、どこかへ出掛けていたの~?」

「ちょっと知り合いと映画へ」

「知り合い? そんな分かりやすい嘘を! あの柚ちゃんと一緒にデートしていたんでしょ」


「な、なぜそれを!?」


「いやぁ、分かるって。二人とも仲良いし、ただならぬ関係って感じがするからねえ」


なんて慧眼けいがんの持ち主だ。それとも超能力者エスパーか?


「九十九さんこそ、そういう相手がいるんでしょ」

「……うぅ」

「え」


九十九さんは何故か動揺していた。……ま、まさか。


「いないよ、そんな相手! いっそ、愁くんが彼氏になってよぉぉぉ」


泣いて飛びついてくる九十九さん。うわ、良い匂い。先輩とはまた違った香りだ。


「ええ? 九十九さん、めっちゃ美人なのに意外すぎですね。……っていうか、近すぎです。離れてください」

「あぁん! 愁くん、私を捨てる気ー!?」

「捨てるも何も、九十九さんとは何もありませんよ。俺は先輩と付き合っているので」


「ちぇー。まあいいや、私と付き合いたくなったら、いつでも言って! 愁くんならお姉さんが養ってあげるよ~」


「んな!?」


九十九さんは笑って去っていく。

冗談だよな?


よく分からないが、俺は部屋へ戻った。


飯を食って風呂に入って……オンラインゲームで時間を潰した。勉強? 面倒くせぇ。そんなことよりレベリングだ。


今は経験値もドロップ率も二倍なんだぞ。

最強の魔法使いにならねばな――が、よくよく考えたらログインし辛いな。蜜柑先輩もプレイしているかもだし、今日のことで色々気まずい。


仕方ない、今日はサブキャラで遊ぶか。


俺はギルドに所属しているキャラの他に、種族ダークエルフのネクロマンサーを所持していた。ぶっちゃけ、こっちの方が強かったりする。



ソロプレイを楽しみ――気づけば深夜に突入。



就寝直前に先輩からラインが入った。



柚:連絡遅くなってごめんね

愁:いえいえ、俺は寝るところでした

柚:その前に写真送っていい?

愁:なんのです?

柚:送るね


しばらくすると写真が送られてきた。


…………こ、これは。


今日俺が選んだ下着ではないか。

先輩はグラビアアイドルみたいなエロいポーズを決めてミラー越しに自撮りしていた。下着姿で……。


こうして見るとグラビアの写真にしか見えない。雑誌の表紙を飾ってもおかしくないぞ。

俺は光の速さで保存した。



愁:こんなエロい写真貰っていいんですか……?

柚:愁くんだけだからね。他の人には見せちゃだめだからね!

愁:絶対見せません。誓います

柚:それならよろしい。じゃあ、寝るね

愁:寝る前に素晴らしい写真をありがとうございます

柚:明日、実際に見せてあげるからね


愁:はい!?



――しかし、返信はもうなかった。既読がつかないから寝ちゃったかな。……実際って、生で見せてくれるってこと!?


先輩、俺が興奮して寝不足になってしまいますよ。



……翌朝……



アラームが鳴る前に起床した俺は、学校へ行く準備を整えた。玄関まで向かうと、親父がひょっこり顔を出していた。


「愁、今日は雨が降るそうだ。傘を忘れるな」

「おう、親父。ありがとう」


そうか、今日は雨なのか。

折り畳み傘をカバンに忍ばせ、俺は自宅を出た。


外へ出ると、黒い車から先輩が降りてきた。待っていたのか。



「先輩、おはようございます」

「おはよう、愁くん。一緒に学校へ行こう」

「もちろんですよ。……って、あれ。先輩ちょっと目が充血していません?」


俺は気になって先輩の顔を覗く。すると、先輩は顔を赤くしてビックリしていた。


「しゅ、愁くん!? そんな顔を近づけられると恥ずかしい……」

「でも、目が……。もしかして、あの痴漢魔のトラウマが?」

「……え、痴漢? そうじゃないよ。うん、大丈夫大丈夫」


なんだか挙動不審な気が。

……気のせいかな。


でもなんだろう、今日の先輩は可愛いというか美しいような気がする。


まあいいか、今日も先輩と学校へ向かい――“恋人のふり”を続ける。それが今の俺の日常なのだから。

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