先輩が健気で優しい

歴史的瞬間に立ち会えた気分だ。

先輩はスタイル抜群だし、手足もスラっとしているから映えるなあ。出ているところ出てるし、パーフェクトだ。


「そのコス非常に似合っています。可愛いですよ、先輩」

「そ、そう? こういうケモミミ系は初めてだったから、不安だったけど」

「ぜひ、写真を撮らせてください」


俺はポケットからスマホを取り出して、カメラを起動。先輩を被写体にした。


「撮るの!? ……うぅ、仕方ないな。特別だからね、一枚だけだよ」

「では、一枚だけ。先輩、可愛いポーズをお願いします」


「ポ、ポーズ……こうかな」


ぎこちない動きで先輩は“にゃんポーズ”を披露した。手招きするような小さな握り拳があまりにもキュート。


俺は胸を貫かれた気分におちいった。

ズッキューンてきたね。

先輩ってこんなにネコミミキャラが似合うのか。


感動しながらもパシャっと一枚撮影。

完璧な瞬間を収められた。


「一生の家宝にしますよ、先輩」

「可愛く撮れた? 見せて」

「はい、どうぞ」

「おぉ、いい感じだね。けど、胸元出しすぎちゃった……他の人には絶対に見せないでね、恥ずかしいから」


「分かっています。これは壁紙にしておきますよ」

「そ、それならいいけど……」


ちょっと不安気な先輩だが、この写真を流出なんてさせない。これは俺の大秘宝だ。墓場まで持っていくと決意していると、部屋の扉が開いた。親父だ。


「おい、愁。そろそろ開店オープンするんだが、今日学校を休むなら手伝え――って、なんだ!? 彼女にコスプレさせていたのか! そういう趣味があったのか!」


「誤解だ、親父。これは先輩の服の代わりだ。乾くまではいいだろ?」


「そういうことか。……ふむ、なんというかクオリティ高いな。容姿のレベルも高いと思っていたが、スレンダー巨乳だったとは……週刊誌とかの表紙に載れてもおかしくないぞ」

「エロい目線で先輩を見るな、親父」

「魅力的だと思うぞ。そうだ、今日一日限定で看板娘をしてくれ」



「「え!?」」



俺も先輩も親父の提案に驚いた。



「わ、わたしが看板娘ですか?」

「そうだ。冒険者ギルドのスタッフをして欲しい。大丈夫、ちゃんと賃金も支払うから。一日限定でいいからバイトしてくれないか」


親父のヤツ、そうきたか。

先輩で客集めってことか。

そういえば、ちょっと経営も厳しいと言っていたな。でもなぁ、先輩を手伝わせるなんて……。


「無理しないでくださいね、先輩。断ってもいいんですよ」

「う、う~ん。でも、今日はお世話になりっぱなしだし、恩返しもしたいかな」

「いいんですか、先輩。いろんな客に見られるんですよ?」

「大丈夫。愁くんも一緒にやってもらうから」

「なっ! 俺もですか……?」

「守ってくれる人がいれば安心して働けるから。ね、お願い」


そんなうるんだ瞳でお願いされては断れない。仕方ない、俺も一日限定スタッフをしますか。



「というわけで親父、俺もやる」

「そうか、二人ともやってくれるか! では、お前は執事に。先輩ちゃんはギルドの受付嬢に着替えてくれ」


先輩はそのままの方が集客力ある気がするが、俺は止めなかった。この先輩を拝んでいいのは俺だけだ。



* * * 



数分後、俺は執事のコスプレに着替えた。

鏡越しで自分の姿を確認するが……なんだこれ、似合わねえ。もし、異世界にいたら即追放かな。


「愁くん、執事の衣装似合ってるよ」


振り向くとギルドの受付嬢に着替えた先輩がいた。――って、これはミニスカメイドじゃないか。ネコミミカチューシャで魅力度マシマシ。絶対領域も完璧すぎる。激カワすぎて俺の心臓がヤバい。


親父のヤツ、女性スタッフにこんな格好をさせていたのか。エロ親父め! 思っていたのとちょっと違うけど、これはこれでアリだ。


「先輩こそ、その受付嬢っていうか、メイド服……最高です」

「今日はこれで二回目のコス披露だね」

「いろんな先輩が見れて俺は幸せですよ」

「うん、こんな風に学校サボってコスプレして……お店で働くとか中々ない貴重な経験だよね」


先輩がびしょ濡れにならなければ、こうして二人きりになることはなかった。先輩には申し訳ないが、あのトラックに感謝だ。


……ああ、それにしても先輩を見ているだけで癒される。



そうして――仕事が始まった。



オープン早々に三名の客が入った。

平日なのに来るものだな。



「「いらっしゃいませ」」



俺と先輩は息を合わせて客を迎える。男性客が先輩をジロジロ見ていた。……ですよねえ、先輩の格好は目で追いたくなるよな。



「うわぁ、あの娘……可愛いな」

「あんな美人の受付嬢いたっけ?」

「新人さんじゃね~?」



どうやら、この三人は知り合い同士らしいな。

男性客は先輩の姿をスマホでパシャパシャ撮りやがった。――っておい、勝手に! 一声掛けるのがマナーってモンだろうが。


怒りに震えるが、先輩は笑顔だった。


「あまり慣れていないけど、大丈夫だよ。さっき愁くんのお父さんに聞いたんだけど、お店の売り上げあんまりよくないんだってね。だから、わたしが頑張るよ」


「先輩……」


健気で優しい……よし、俺もがんばろう。

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