第77輝 剣盾

輝剣エンチャントだよ、輝剣エンチャント!』

『───なるほど、エンチャントのことでしたか。この結界の中なら大丈夫でしょう。直接、剣を当てても』

『本当だよな?』

『はい』


 リーテが受け流しきれず、尚且つ彼女の願いの魔法も破れる可能性の最も高い、俺の使える攻撃性の魔法の中で一番火力のある輝剣エンチャントを使うのが、一番の勝ち筋だろう。───あの熊には最初から使わなかったからピンチを招いたが、接敵エンカウントと同時に使っていれば確実にあのSOを下すことができていたはずの魔法だ。リンの裏付けが取れたとはいえ、正直リーテに向けてあの魔法を使うのは抵抗がある。


『最悪、何かあった場合は、あなたが治せばいいんですから』

『───それもそうだな』


 決して近接戦闘ばっかりしていたせいで、自分が回復魔法を使えることを忘れていた訳ではない。ないったらない。

 特に回復魔法が必要になるほど傷を負ったのは熊の時だけだし、1人で戦っていたものだから使う機会もなかったのだ。

 ケガするような相手とも戦ってなかったしな。あの熊以外。


『まぁ……手段も選んでられないか』

『頑張ってくださいね。応援しています』

『───おう


 改めて面と向かって応援されたことに気恥ずかしさを感じつつ、それに応えてから宝石剣を構えなおす。

 リーテは、俺がリンと話し終わるのを待っているかのように盾と刀を構えたまま、その場から動いていない。


「『光よ、つるぎに宿れ』」


 剣を顔前で構え、剣に魔力を集中させながら呟けば、柄を通って琥珀の様な魔晶石が輝く剣身に光が注がれていく。

 光が剣先まで行き渡る。それと同時に、剣身を輝かせる魔力が、より一層その輝きを増す。まるで、磨かれたばかりの宝石が反射する太陽光の如く。

 ───輝剣。エンチャントによって俺の剣は光そのものを纏い、いつもの宝石剣より各段に切れ味が増した今のこの剣は、何人なんぴとたりとも防げない。

 光が世界を照らすのを、防げぬように。


「待たせたよね。リーテタンザナイト」

「いや、こっちもこの盾に願いを込めたかったから」

「そう───」


 あの盾は、リーテの願いの魔法によって生成されたものだ。『願いを込めた』……といういうのは、俺の『光速の導き手ギ・ドラ・ビテス・ドラ・ルミエ』のように、願いの強さで魔法の強さも変わるタイプってことだろう。

 さっきみたいに簡単に傷つけられると思わない方がいいか……


「クレイアンブロイド」

「何?」


 俺が警戒しながらも、彼女の盾に向かって突っ込むタイミングを見計らっていると、リーテが周りを見渡しながら話し掛けてきた。


「ボクはそろそろ決着をつけた方がいいと思うんだ。授業をして貰う時間が無くなるから」

「───そうだね」


 確かに、これ以上長引かせる訳にも行くまい。俺は頷いて続きの言葉を待つことにした。


「次の技で決めよう。クレイアンブロイド、君のいちばん強い技を放て。それをボクがこの盾で防ぎ切れたらボクの勝ち、無理だったら君の勝ちだ」

「なるほど……いいよ。次で決めさせてもらう」


 もとより次の輝剣での攻撃で、彼女の盾を壊して勝負を決めるつもりだったのだ。盾を破壊するだけで負けを認めてくれるなら、それに越したことはない。

 俺は構えを正眼から、剣先をリーテに向け、剣を地面に平行にした構えに変え、併せて足を肩幅に開き腰を落とす。

 輝剣エンチャントを使ったとはいえ、俺の願いの魔法はまだ発動中だ。魔力もそれほど減ってはいない。とはいえ、放課後のリリーとの模擬戦のこともある。これ以上リーテとの模擬戦が長引いて、余計に魔力を使ってしまうのは本意じゃない。


「それと、これで負けた方は、勝った方の言うことを何でも一つ聞くっていうのはどう?」

「……どう、って言われたって」


 なんでもって言ったって、俺はリーテにしてほしいことなんてないし───いや、あった。しかも2つ。


「───いや、やっぱり受けるよ。その代わり、私が勝ったら、言うことを聞いてもらうから」

「最初から勝った気でいるみたいだけど、ボクは簡単には負けないよ」


 リーテがこちらに盾を構え直したのを見て、俺は願いで彼女の方に俺の体を一気に加速させる。

 光の速さで駆ける俺の体が、風を切り裂きながらリーテへと迫っていく。

 速度十分、輝剣の維持も問題なし。いける───ッ!


「来い───っ!」

「うぉりゃああああぁぁあああああぁあぁぁ───ッ!」


 剣と盾。輝く2つの宝石が交わる。瞬間、俺の視界の大部分を占めていたに、吸い込まれるように目の前に見えている風景が───






































 ───お母さん! お父さん! 鏡花!






























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