第65輝 廊下
「随分あの子を気にかけているようだが、何かあるのか? メイ」
部屋から2人の足音が遠ざかったのを見計らって、いつもの口調に戻しメイに話しかける。
質問は、桜木を名乗ったあの少女について。
世間話も兼ねた質問だったが、思いのほか単刀直入に聞きすぎたかもしれない。───メイの顔に困惑の文字が浮かぶように歪んだ気がした。
「特に、なんでもないわ。魔法少女のカウンセラーとして、あの戦い方をする彼女を放っておけなかったし、戸籍も無かったから。それだけよ」
「ふむ……」
戸籍もなかった……ね。なるほど。
「それで桜木か。───苗字など他にも考えようがあっただろうに。その子のように新たな姓を与えずに自分の姓を名乗らせたのは、あの子に特別な感情でも抱いたからか?」
私は目線をメイの横に立つ魔法少女に流しつつ質問を続ける。
───気になったことは、その疑問が解消されるまで我慢ならない。故のこの質問攻め。悪い癖だとは思うが、生徒にはこんな口調で話さないようにしているのだから旧友のメイぐらいには許して欲しい。
「───いくらよく知る貴女の悪癖とはいえ、聞かれたくないこともあるわ」
と、どこか私の甘えを見透かしたように言うメイの語気は、やはりあの少女───星にただならぬ感情を抱いているようで。
余計に私の興味をそそらせる。
「悪かった、これ以上は聞かないようにしよう。」
そうやって言って、私は話を切り上げる。これ以上は、私個人で調べることにしよう───心当たりも幾つか思い出せるしね。
「リリーアメシストも、不快な思いをさせてしまって申し訳ない。私の悪い癖だ」
「いえ───大丈夫です」
魔法少女であることを強いられてしまった少女にとっての、踏み込まれたくないところまで踏み込んでしまっただろうか。
申し訳ないとは思うが、今の私の興味はあの少女───少女と言うには完成されすぎており、なのに何処か少女らしさを失っている、壊れた
今の私の頭の中はあの興味深い人間のことでいっぱいで、他の者に配慮する余裕など微塵もなくなってしまっているのだ。
◇
「授業の最初は基本前回の授業の復習からしてますが〜、それでももし分からなかったり、まだ習っていない範囲があれば、いつでも聞いてくれて大丈夫ですよ〜」
「ありがとうございます、先生」
学園長室を出て、廊下を先生と共に歩きながら、学園での過ごし方を聞く。───期待通り、基本は普通の学校と変わらないが、少しだけ魔法少女としての授業があったり、訓練があったりするらしい。
魔法少女としての訓練か……使える魔法は初変身の時に頭の中に流れてきた知識に頼りきりだし、新しい戦術や魔法とかを見つけられるといいな。今の所、直接攻撃する手段が魔晶石での剣撃と、火力が高すぎて使い所に困るエンチャントしかないし。───どっちも熊に通用しなかった訳だし。
新しい魔法や戦術を開発できる可能性があるというだけで、1日専門学校を休んで来た甲斐が有るというものだ。
「この西館4階が中等部1年の教室があるフロアです〜。隣の東館の同じ階には高等部の1年生の教室があって、授業やイベントで交流することもあるんですよ〜」
そう言って指をさした廊下の先には、隣の建物と繋がっているであろう連絡通路が見えている。───なるほど、先輩と共に学んだりする機会もあるってことか。小中高一貫教育の利点を有効活用している。
「私のクラスはこの階段から1番手前のこの教室です。私は先に入って朝の会をしますから、私が呼んだら入ってきてくださいね〜。それから自己紹介してもらいます〜」
「分かりました」
いよいよか───先程よりは幾分か和らいではいるものの、やはり緊張による胸の高鳴りは抑えられない。
「はぁ〜い皆さ〜ん。おはようございます〜朝の会を始めますよ───」
先に入っていった先生が閉めた教室の扉を見つめながら、俺はドキドキとなる心臓を落ち着けるため、深く息を吸い込んだ。
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