まわりずだいありー

七戸寧子 / 栗饅頭

火曜日

 窓側の一番後ろの席であくびをするセーラー服が一人。透き通るような白い肌と、カラコンを入れていないとは思えない緑の瞳。主人公席に座る人は一味違う。皆はその子を「マワリちゃん」とか「マワリさん」とか、好きなように呼ぶ。

 二回目のあくびをして、マワリは軽く伸びをする。三回目のあくびを噛み殺して、教師がなにやらよくわからないことをのたまっている前方を見やる。ああ、全然聞いてなかった。黒板にはXだのYだのと記号がならび、これまた眠気をあおる文様を生んでいる。染色体がどうのこうのという話は、昼下がりの陽を浴びてうつらうつらしていたマワリには酷だった。何もわからない。普段は真面目に板書を取るだけでなく、教師が口にする説明を的確にかみくだいてノートに記す。故に、焦る。これでは定期試験がまずい。今からでもちゃんと聞こう。そうしよう。

 しかし、今日は特に天気がいい。窓の外では木々が嬉しそうに揺れている。アスファルトの上をスズメかムクドリが跳ねまわっている。それらを柔らかい陽の光が照らしている。マワリが窓際を好む一番の理由は日向ぼっこができるからというもので、日々の活力はここでチャージされていた。正直なところ、暖かな中で今さら授業を聞く気にはなれない。あくびは四回目。

「……ま、いつか誰かがやってくれるでしょ」

 そんなことを呟いて、頬杖をつき考え込むふりをした。ノートを睨むポーズで教師との視線を切る。たまにはこういうのもいいだろう。教科書に「要確認」と赤ペンを走らせ、やけに重いまぶたをおろした。すべては、未来のマワリに委ねることにした。

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