誰もがいき方を决めるセカイ

@PinQ

第1話 プロローグ

私はふわふわ浮かんでいる。

こんな道から遠ざかった場所で、一人焦がれるように眼下をぼんやり眺めている。

(こんなはずじゃなかった。もっとうまくできるはずだった)

そんなことを宙に浮かんだ頭で考えながら―。

 

初めは希望にあふれていた。

自分のことに対しては執着できなかった私だけど、他人のために行動して感謝してもらうことには、喜びを感じることができていたから。

だから、自分の道は他人のために歩んでいく道にしようと決めていた。そしてそれは間違っていなかった。間違っていないんだと思っていた。

人のために歩んでいく道は、真っすぐ伸びていて障害物なんて何もなくて、他人に誇れるものだった。光輝く道は奇麗で楽しくて、私はその自分の選んだ道を周りに誇っていた。

何かがおかしくなっていったのは、初めての挫折の時からだった。

他人のために歩んできていた私には、何をするにもその指針は私の中にはなくて、助けるべき他人を選ぶことさえできなかった。

だけど一度の挫折なら、取り返せる、取り戻せると思ってがむしゃらに歩いて行った。そんなスピードで歩けるほど、私は強くも、柔軟でもなかったのに。

そんなだから失敗を続けた。どんどん失敗を続けていくわたしから、どんどん助けるべき他人は離れて行った。それでもしがみつく私は、みじめで滑稽で。あのときの周りの人たちの罵倒や嘲笑は、今から思うと当然のものでしかなかった。

だけど残ってくれる人もいた。あの人は「お前を守る」って「お前を守ることがおれの道だって」言ってくれた。実際にあの人はその道を歩んでくれた。一度も歪まずに私の手を引いて歩いてくれていた。

でも私の道がなくなるわけじゃなかった。

弱い私の中にいる強さを強要する私は、この道をあきらめることなんて、忘れることなんて許してくれなくて。スタート地点から崩れていく道を、見ないふりして走り抜けようとするしかなかった。

周りの景色をのんびり眺めて歩んでいけていた時があったことさえ忘れて、息を切らせて、我慢してゴールの見えない道を、いつ終わるともしれない道を走ることしか選べなかった。

「ははっ、結局無理だったなぁ」

無自覚に嘲るようなつぶやきが漏れた。それを皮切りに意味のない言葉が次々と唇から洩れてくる。

「最初からだめだったんだ」

「私には無理だったんだ」

「無理だったんだ無駄だったんだ意味なんてなかったんだ最初から最初から最初から最初から」


顔に叩きつけられる風に正気な狂気が戻ってくる。

「戻りたいなぁ」

言って足元を眺める。眺める。眺める。

 「なんだ―」

眺める。

「こんな近くにあるじゃないか」

 

まず足が落ちる。かつて望んで、いまだにあきらめきれない道へ―

続いて視界がものすごい速度で流れていく。 

そして私は地面にぶちまけられた潰れた真っ赤なトマトを宙からみている。

そこで今更ながらに、

(アァ私はもうなにをしたってどうしたってあの道に戻ることは出来ないんだなぁ―)

そんなことを理解した。

自分勝手な涙が地面に落ちて、しみ込んだ。

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