12月17日(土)蛇の誘惑
テスト前日の日曜日、よく晴れているがかなり寒い午後、俺とタツミは一人用の『ミニこたつ』に入り、期末テストに向けて最後の追い込みをかけていた。
しかし、俺は到底テスト勉強に集中できる状態ではなかった。
なぜならタツミの足がさっきから俺の足にぴったりくっついているからだ。
原因は『ミニこたつ』。そもそもが一人用なのだ。これを二人で入ればかなり狭い。必然、俺たちの物理的距離が近くなる、というかほとんどゼロになる。ちょっと動かせば接触してしまうから、俺は迂闊には動かないように細心の注意をし、かなり繊細に気を使っているのだが、タツミの方はお構いなしだ。
タツミときたら『ミニこたつ』の中を我が物顔で動き回る。足が行ったり来たり、あっちにこっちに、えっちらおっちら、ただの接触で済むならいいが、タツミの足はまるでそれ自体が意思を持った生き物みたいに、例えるなら蛇のごとく俺の足に絡みついたりする。
タツミの黒タイツ足が俺の足に当たったり、滑らかに伝ったり、くねくねと這いずり回ったりするたび、俺はちょっかいかけられてるのかと思ってタツミの顔を見るのだが、本人にまるでそんなつもりはないらしく、むしろ勉強に集中しているようで、よく整った顔に真剣な表情でノートと教科書を見つめ、ペンを動かしている。
集中しているからこその無意識なのだろう、だからこそ俺の足にぶつかっていることを気にもとめなければ、そこに悪意もない。
ただ俺としてはとても困る。なぜならタツミの足はあまりにもしなやかで、男の本能を刺激してくるから。正直に言うと嫌じゃない。タツミの足のぬくもりと弾力と描く機動から伝わる感触がやけに気持ちいい。
だからこそ困る。人は苦痛に耐えられても、快楽には抗えないものだ。特にタツミのそれは思春期真っ盛りの一般男子高校生にとっては天上の快感といっても過言ではない。
また、タツミの足が俺の足に触れた。あぐらをかいた俺の足の内側にタツミの足が滑り込んでくる。得物を狙う蛇がごとく、隙間を縫い、舌を出してぬるりと侵入してくる。
タツミの足は決して肝心要の部分には触れてこない。焦燥感を掻き立てるニクいテクニックだ。いや、決して本人はそんなつもりはないだろう。今もなおタツミは真剣に勉強に取り組んでいる。全くの無自覚。無自覚ゆえの悪魔的テクニック。二人での勉強が始まってまだ一時間程度だが、もう何度目かのタツミの攻撃により、俺はもうクラクラしていた。ノックアウト寸前のボクサーみたいに、俺の意識は空中を彷徨っていた。
それは波状攻撃でもあった。タツミの足が引っ込むと、俺はほっと息をつく。やれやれ、ようやく勉強に集中できるかな? そう思って、いよいよ勉強に意識が向きかけるとき、そのタイミングを見計らったかのようにタツミの足がまたやってくる。タツミの足が俺の腿をなぞる。これで俺の意識は再び下半身へと引きずり込まれてしまうのだ。
あー、イカン……。全く集中できない。勉強が捗らない。いや、捗らないってレベルじゃない。もう全く何も頭に入ってこない。頭にあるのは水面下のタツミの足の動きだけだ。タツミの足が俺の足に触れるたびに、頭の中で勝手にタツミの足の動きの映像が浮かび上がってしまう。
さすがにテスト前日にこれはマズい。タツミに悪気はなさそうだから指摘できなかったが、もうそろそろちゃんと言ったほうがいいかもしれない。いや、しかし言ってしまうともうタツミの足が俺に触れることはなくなってしまうだろう……いやいやいや、それでいいんだ! なにタツミの足を惜しんでいるんだ俺は! 今大事なのはテスト勉強だろ!? タツミの足なんてどうでも……よくはないが、今は勉強を優先すべし!
俺はタツミに足が当たっていることを注意しようとした、
そのとき、再びタツミの足がやってきた。
ま、最後に一回楽しんでからにするか……。
と、思ってたら、ヤツの足が凄まじい勢いで俺の内股へと滑り込んできた。今までの『蛇のような……』なんて生易しいもんじゃない。タツミの足が、エースストライカーのキックの凄まじさで俺のゴールデンボールを……!
「だバおッ……!!!???」
俺はほとんど悲鳴に近い絶叫を上げ、マリオにふまれたノコノコのごとくこたつから飛び出して、無様に床を転がった。
「ど、どうしたのマツザキくん!? フィリピンの都市名なんて急に叫んで!」
タツミが心配そうに俺のもとへ駆け寄ってくる。
お前のせいじゃい! と言ってやりたかったが声にならなかった。快楽に溺れた代償はあまりにも重く痛かった。俺は差し出されたタツミの手を握りながら、下腹部に響き渡る鈍い苦しみの悶絶を味わわされた。
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