11月2日(水)

 いい天気だ。最後の秋晴れかもしれない。こんな日の昼食は外で食うに限る。

 そんなわけで俺は学食でパンを買って、意気揚々といつものベストプレイスへと乗り込んだ。


 先客がいた。タツミだ。片手のスマホを見ながら、膝の上に広げた弁当を黙々と食べていた。


「よう、何見てんだ?」


「あ、マツザキくん。こんちわ。チーターの動画見てたんだけど、見る?」


 タツミがスマホをこちらに差し出した。


 チーター? 動物か? それともゲームか? と、思いながら、


「どれどれ……」


 見てみると、動物の方のチーターだった。二匹のチーターがヌーを捕食している。


「……タツミ、よくこんな動画見ながらメシが食えるな。あ、それともそっちな趣味があって、むしろ食欲増進なのか……?」


「そ、そんなわけないよ! これは他の動画見てたら自動再生で勝手に再生されたんだよ! 決して自分から見に行ったわけじゃないよ!」


「一体どんな動画見てたら、こんな動画が自動再生されるんだよ」


「この一個前はね、スズメバチがゴキブリ食べる動画」


「やっぱり何かが何かを捕食する動画じゃねぇか! なんならそっちのほうがエグいし!」


「いやいや、最初はもっと和気あいあいとした動画を見てたんだよ! でも自動再生でどんどん食事中には向かない動画になっちゃったんだって! でも自動再生いちいち止めるのも面倒だから、ついついそのまま見ちゃってただけ! ねぇ、引かないで! そんなネコに食べられるネズミを見るような目をしないで!」


「いや、別にそんな目してないと思うが……。ま、タツミが何を見ててもいいんだけどな」


 とりあえず、俺はタツミの隣に座った。先程の動画と会話には少しばかりの食欲減退効果があったが、その程度では健全なる青少年の飢えは癒えない。俺は袋から焼きそばパンを取り出した。炭水化物と炭水化物の組み合わせという、邪道じみたコンビネーションのパンなのに、どうしてなかなか美味いのだ。


「ねぇ、マツザキモン」


ならともかく、ってなんだ。デジタルモンスターじゃないんだから」


「可愛いと思ったんだけどなぁ」


「そうか? 語呂悪いし、アホっぽいし、バカっぽい」


「じゃ、マツザキくんにぴったりだね」


「誰がアホでバカだ。そういうタツミこそ、タツミモンが合うんじゃないか? ほら、俺よりは語呂がいいだろ?」


「ダメ、可愛くない」


「さっき俺のときは可愛いって言ったよな?」


「マツザキくんはいいじゃん、可愛いんだから。そういえば、ときどきガラモンみたいな顔してるし」


「ガラモン? ガラモンってアレか? ウルトラマンかなんかにでてくるピグモンに似たアレか? パッと顔が出てこないものに例えるなよ」


「えっ、ガラモンの顔知らないの!? 可愛いんだよ~。私、好きなんだ、ガラモン。よく知らないけど」


「よく知らんのかい」


「これから知っていけば良いと思わない? 私とマツザキくんみたいに」


「お~、タツミさん、今日は絶好調ですね」


「やっぴ~」


 わざわざ片手のスマホと箸を置いてから、両手でピースするタツミ。

 久方ぶりに訪れた秋らしい陽気に、タツミさんの頭は少々ぶっ飛んでしまったらしい。ま、そんなタツミも可愛といえば可愛いく、俺としてはそれで全然かまわないので、テキトーに相手しながらパンをついばんだ。メシが美味い、天気もいい、タツミもイカレてる。悪くない昼食時間。


「あ!」


 大きな声をあげるタツミ。


「なんだよ、急にデカい声だして」


「あ、アレ! ちょっと、アレみて!」


 今度は打って変わって小声になり、下足室の出入り口のすぐ側にある花壇を指さした。そこに一匹の黒と白のツートンカラーのノラネコが花壇の土を掘っていた。ほどなくして、ツートンノラネコは掘った穴にケツを突き出し、穴からムリムリとアレを投下した。


「かわいいね~」


 タツミが言った。冗談でもなく、満更でもない、マジで目を輝かせ、恍惚とした表情だった。


「かわいい、のか……?」


 ツートンネコは爆撃完了後、ただちに前足でせっせと不発弾を埋めて処理した。臭いものには蓋をするのは人間もネコも変わらない。


 秋晴れ、美味いパン、ウンコするネコ、捕食映像を視聴する愉快なタツミさん。ま、総合的に見て、そんなに悪い日じゃない……のかな?

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