9月8日(木)クイズ! タツミでドン!
昼休み、俺は木陰で昼寝をしていた。もう夏も終わりが見えた。今日はやけに涼しい。とはいっても気温30度だからあくまでも夏の日に比べて涼しいというだけだ。しかし涼しいことは涼しい。夏に慣れた身体にとって30度は恵みだ。吹く風も湿気がなくて爽やかだ。
「マツザキくん。あっ……」
俺を呼ぶ声。まどろみかけた意識が戻ってきた。おそらくタツミだ。顔を見なくても声でわかる。足音からしておそらくタツミ一人。あっ、てのが気になった。俺は二の句を待った。
「……あれ、寝てる?」
やはりタツミだった。
「寝てる」
俺は寝たまま返事した。あまりにも気持ちがいいから、起きるのが億劫だった。
「起きてんじゃん」
「俺は寝ながら返事ができる神の末裔で、俺もその能力を受け継いでいるんだ。どうだ参ったか? 参ったら敬えよ。奉れよ」
「またおかしなこと言って……せっかくいいこと教えてあげようと思ったのに」
「タツミからいいこと教えて貰えるなんて、俺はなんて果報者なんだろう。お父さんお母さん、生んでくれてありがとう」
「ご両親にじゃなくて、私にお礼を言って欲しいな」
「まだ教えてもらってないからね」
「んじゃ、教えてあげなーい」
「タツミはそんなケチじゃないだろ? 君はおおらかで優しくて、広い心を持った素晴らしい女性じゃないか。いいからさっさと教えろ」
「じゃ、問題でーす。答えられたら教えてあげまーす」
「さすがタツミ、ユーモア満載だな。いいだろう、さぁ、どんとこい」
「足がたくさんある虫はなんでしょう?」
「それ一種類だけじゃないだろ」
「私が今考えてるやつをお答えください!」
「なるほど、タツミ自身が問題の一部ってわけか。じゃ、ゲジ」
「ぶっぶー。なぜゲジと思いましたか?」
「タツミが好きそうだから」
「なんでよ! 私は見ての通りのか弱い乙女だから、虫なんて全然好きじゃないよ!」
プリプリ怒ってる。目を開けていないからわからないが、きっとタツミのことだからとても表情豊かに可愛らしく怒っていることだろう。
「じゃあなんで虫のクイズなんだ」
「さぁ、なんででしょう?」
「タツミだからだな」
「ま、正解かな」
「正解なのか」
「じゃ、次の問題。足の多い虫はなんでしょう?」
「さっきの問題だな。ヤスデ」
「ぶっぶー」
「ムカデ」
「せいか~い! じゃ、次の問題。毒のある虫はなんでしょう?」
「それもいすぎだって」
曖昧過ぎる問題に、ちょっと辟易してきた。
「お答えください」
それでも問答無用に進めるタツミ。
「蜂」
「ぶぶー」
「サソリ」
「ぶっぶ~」
「ハンミョウ」
「ぶりぶりぶ~。ってなにその虫」
「一部は猛毒のある虫さ。場合によっちゃ人が死ぬらしい」
「へぇ怖いねぇ」
「で、答えは?」
「あれ、もうギブアップ? マツザキくんのくせに情けない!」
「他にも毒虫はいるけど、タツミが知ってそうな毒虫は知らない」
「なにそれ~。じゃ、ヒント上げる。さっきの問題と同じ虫です」
「ヒントってか答えじゃねーか。それでムカデなのかよ。普通同じ答えの問題ださないだろ」
「それが私のいいところ」
「なんじゃそりゃ」
ま、こういうのも悪くはないな。なんて思ってしまうあたり、俺はタツミに甘いのだろう。最近それがしっかりと自覚できてしまった。
「じゃ、最終問題! 今マツザキくんの肩のところにいる虫はなんでしょう!? ヒントはさっきの虫です!」
「うおうわぁぅおおぉッッッ!!!???」
俺は飛び上がった。タツミが問題を言い終わった瞬間、肩にもぞっとした感触があった。そいつは俺が飛び上がった反動で地面に落ちた。タツミの言う通り正真正銘ムカデだった。かなりデカく、推定体長13センチはあるモンスターだった。そいつは自慢の多脚をいかし、すぐに逃げ去っていった。
「あっははは! ね? いいことだったでしょ? じゃーねー! マツザキくん!」
タツミもムカデみたいに逃げるように走り去ってしまった。
「そんなことは普通に教えてくれよ……」
爽やか午後はもうなかった。この一瞬で嫌な汗をびっしょりとかいてしまった。授業開始五分前のチャイムが鳴った。俺はため息をついた。
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