第87話 怒りを抑えて
「どうして戦車部隊を戻さないんだ、少なくとも第1堡塁の内部であれば、戦車部隊は敵航空攻撃から守ることが出来るんだぞ」
「落ち着け城島、よく状況図を見ろ!、我が方の戦車と装甲人員輸送車は第1堡塁から第2堡塁正面に抜ける区間は錯雑した一本道を縦に一列になって前進中だ。これを反転後退させたら、現場はどうなる?、このまま前進でかまわないんだ」
「おい、それは味方が全滅すると解っていて前進させるってことか?、実戦であれば乗員の命がかかっているんだぞ!」
「勘違いするな城島、俺たちは戦争をしているんだぞ」
正義感とエネルギーの塊のような城島にとって、龍二の冷めたような指揮が、どうしても納得行かなかった。
そのやり取りを見守る優にとっては、両者の言う事はどちらも理解出来た。
しかし、幸にとっては、やはり城島の意見に同調するのである、そんな足し算、引き算のように兵士の生命を考えることなど出来ない、と。
「城島、お前の言いたいことは解る、だが、今は戦闘中で、ここは指揮所だ。指揮官の企図に従えないのなら、ここを去れ」
城島は、顔を真っ赤にして唇を噛みしめた。
親友として、理解し合えたと思っていた龍二の口から、冷たく突き放されたように思えた。
「ちょっと待って、二人とも。これじゃあ、上条師団長の思惑通りになってしまうんじゃないかな」
ここにも意外な者がいたのである。
それは第4の男、と言えたかもしれない。
龍二、上条師団長、第2部長、そして、、如月 優。
優も気付き始めていたのだ、龍二の作戦構想に。
そんな最中、優の目の前にある対空レーダーに、本物の攻撃機が数機、反応したのである。
「本当に来たね、敵攻撃機編隊約12機、多分、直掩の戦闘機14機を伴って北方向から真っすぐ、来るよ!」
優が多分、と言ったのは、新たなステルス性能を有した最新鋭戦闘機が護衛に付いているようなとても薄い影が見えるのである。
「こんなものまで繰り出してきて、、、、師団長は本気ね」
龍二は、再び、少し笑ったのだ、それは好敵手を見つけたように、戦いの神様に選ばれたかのように、頭脳戦を互角に展開できる敵の存在を喜んでいるように見えた。
指揮所の雰囲気は一転して、対空防御の体制へ舵を切った。
「前進中の各機甲部隊に警報を発する、対空警報「レッド」、対空自衛戦闘を開始せよ」
無線によって、けたたましく警報が響き渡る。
「こちらは司令の三枝だ、みんな聞いてほしい、しっかりと策は打ってある、躊躇せずに全軍は前進を継続せよ!」
一瞬、指揮所の全員が龍二に向いた、考えられない言葉だったからだ。
対空戦闘を、走行しながらなんて、出来る訳がない。
どうして龍二は、こうも凡人の考える反対の事を言うのか、、、、いや、もはや考えるのは止めよう、考えても仕方がない、、、、解らないからだ、そう思うしかなかった。
それでも、城島は依然、顔を真っ赤にしながら怒りを抑えていた。
「三枝、お前の言う策というものを、今は信じる、しかし、納得の行かない策だったら、俺はお前を殴るぞ!」
「、、、ああ、好きにしてくれ」
城島は、少し寂しいとすら感じた。
どうしても、この天才の頭脳の輪に入れていない気がして仕方が無かった。
それは昨晩、優が感じた劣等感や憧れに似たものがあった。
いつか戦術で、龍二を倒したい
城島には、そんな願望が頭を擡げたのである。
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