第79話 純粋の結晶のような

 動乱の時代にあって、世界情勢や軍事に疎いことが、これからの淑女として重大な欠陥となることが、澄の言葉の最後として締めくくられると、流石の父兄たちも納得せざるを得ないのであった。


 澄の涙混じりの熱弁は、この時代のオンライン会議において、とても鮮明に父兄各家庭に届けられた。

 皆、言葉にこそ出していないが、澄の言葉には涙腺が緩む感動すら覚えていたのである。

 出世と金、この学院の父兄の多くは、これらせめぎ合いの中で勝ち抜いてきた、いわば勝ち組であった。

 人を蹴落とし、見下す事に慣れてしまっていた富裕層の父兄たちは、この純粋の結晶のような澄の人格に触れる度、自身の人徳のなんと薄いことかを省みるのである。

 父兄会の会長は、澄の話が終わると、父兄会としても学校及び横須賀学生同盟軍に対し、陰ながら支援したい旨の賛否を取ったが、これはほぼ満場一致で可決されたのであった。


 そんなこともあり、反旗を翻した生徒会役員をはじめ、賛同生徒一同は、家族の理解が得られないと思っていたところ、帰宅するや盛大に応援と祝福を受けることとなった。

 決意堅く帰宅し、最悪はまで考えていた彼女たちにとって、これは些かいささか拍子抜けであった。


 また、これらオンライン会議の様子は、普通に一般公開されており、とてつもない数の「いいね」を伸ばし続けていた。

 鎌倉聖花に多い、政界に身を置く父兄にとって、世論がまさに横須賀学生同盟軍に向いていることを敏感に感じ取っていたことも、女子生徒への支援に輪をかけたのである。

 挙げ句の果てには、横須賀学生同盟父兄会という、もはや何をする集団なのかも不明な会まで発足し、そこには我先にと父兄の輪が広がり続けたのである。

 そして、今日の三枝軍側の猛攻と、天才的采配に、視聴していたネットの向こう側の人々は、その勝利に酔いしれたのである。


 しかし、戦いはまだ初日であり、確保できた要塞陣地は3つある内の一つにすぎないのである。


 疲労困憊で呆然と要塞の中で座り込む静香と麻里の二人は、これと同じ時間があと最低二回あるという事実に心が折れそうな心理状態であった。


「静香ちゃん、私、ここで戦死じゃだめかな、、、なんてね。」


 複雑な表情で麻里を見つめる静香


「麻里ちゃん、正直私も折れそうだよ、でもね、生きているだけで幸福だと思わなきゃ。明日の攻撃に参加出来ない生徒もたくさんいるのよ」


 実際、要塞のあちこちで、女子生徒のすすり泣き声が聞こえていた。

 学生同盟参加の男子生徒がそれを慰めていた、しかし、なぜか工科学校の生徒たちに、彼女たちを慰めている者は一人も見あたらなかった。


 なぜなら、プロの軍人たちは、明日の総攻撃に備え、すべき事が山積していたからである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る