決戦の夜が明ける

独立国家の作り方

プロローグ 日本隊の夜が明ける

 その時代の人々は、迫りくる戦いの気配に対し、見て見ぬふりをする事で虚構の平和を謳歌していた。


 人類が経験した3度目の世界大戦を既に終結させ、民衆の多くは、武器を持つこと自体をタブーとし、軍人や自衛隊員を蔑むことで、自らの平和主義を誇らしげに掲げた。


 しかし、どんな時代であっても、正義を貫こうと大衆の批判に立ち向かう若者たちが必ず存在する。

 真実に気付いた者は、立ち向かわなければならない。

 それを怠るものは卑怯者であると、彼らは理解しているのである。


 もっと器用に生きることも出来たであろう。


 この時代に武器を持つことの意味は、残念ながら不器用な生き方であることを意味する。

 それでも戦わなければならない理由がある。

 彼らはその先に死が待ち構えていたとしても、卑怯者になることが出来ない不器用な男たちである。




 2週間前のあの日、カンザニア諸島旧ドグミス国連軍派遣隊の日本隊100名は、国連軍本部の撤退命令から離反し、籠城する島民のもとへ再上陸を果たす。

 彼らは島民とともに、10万からなる敵上陸部隊と戦い続けた。

 

 それは勝つことのない戦い。


 しかし、貫かねばならない戦いであった。

 それ故に、彼ら日本隊の残存隊員達の表情に絶望はなく、未だ闘志をもって瞳の奥を輝かせるのである。


 日本隊も多くが倒れ、弾薬、食料、水すら、もはや枯渇した状態であったが、彼ら日本隊の闘志は健在である。


 恐らく、この日の夜明けとともに、敵の最後の総攻撃が決行されることは、軍事の素人でも解ることだった。


 国連職員も、本土の日本国民も、また世界の人々も、両軍双方が流す最新の映像を、リアルタイムに観ることで、それは当然理解出来ていた。



 間もなくカンザニア諸島は夜が明ける。



 そして日本隊の、 決戦の夜が明ける。







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