第3話探索
部屋の外へ出てみると、やっぱりホテルのような廊下が広がっていた。
カーペットが敷かれ、いくつものドアが並ぶ、よくあるホテルの内装。
私の出てきた部屋の向かいにも部屋があり、横には部屋の番号が書かれたプレートがあった。
『1276』
1276号室か…ん?
せ、千?
普通は101号室みたいに、左の1が階で残りが部屋の番号のはず。
つまり、ここは12階ということになる。
ずっと戦地にいたせいか、階数が12階以上あるということに驚きを隠せない…
戦地じゃそんなに高い建物はすぐに爆撃されてたからね。
大きな建物は隠れる場所が多い。
そういった所から狙撃されたりするのは、目に見えてる。
だから、敵の居そうな建物は、砲撃やらミサイルやらで真っ先に破壊された。
…あれ?ここってやばい?
ここはホテルの12階。
スナイパーがうようよ居そうな怪しい建物だ。
戦地なら確実に爆発されてる。
しかし、
「電気は通ってる…見たところ壊れてる壁もない…無法の世界とはいえ、流石に砲撃やミサイルが飛び交うような事にはなってないって事か」
ここは無法の世界。
強盗、殺人、強姦。何をやってもここでは許されてしまう。
きっと探せばすぐに死体は見つかるだろう。
さっき、微かに銃声のような物が聞こえた。
気を抜けば死ぬのは私だ。常に警戒する必要がある。
しかし、人間は群れる生き物だ。
こんな世界でも、何かしら組織が存在しているだろう。
そうなると、組織間での抗争や戦争があるだろう。
今はそんなこと無いかも知れないが、いずれ私も巻き込まれるはず。
そうなったとき、建物の使い方は考えた方がいいね。
…今気を付けるべきは、こんな廊下のド真ん中で考え事をしないだね。
とりあえず、この1276号室に入ってみよう。
中に何があるかも知れない。
ドアを開けて1276号室に入ると、
「「あっ…」」
先客が居た。
見た目は米軍の軍服を着た明らかな軍人…まさか!?
目の前の米兵は、私の方を見て顔を青くしている。
間違いない、コイツはあの簡易基地で戦った米兵の一人だ。
となると、私のことを敵視している可能性が高い。
していなかったとしても、元々殺し合っていたんだ。
仲間になってくれる可能性は低い。
ならやることは一つ。
「悪いね。殺られる前に殺るんだよ」
「え?」
私は米兵に持っていた拳銃を向け、何かする前に引き金を引く。
拳銃から放たれた弾丸は、米兵の眉間を貫いた。
部屋に火薬と血の臭いが広がる。
即死した訳ではないけど、治療が行われなければこのまま死ぬはず。
…念の為、確実に殺しておくか。
前世で私が使っていたマチェットナイフがある。
これで首を切り落とせば、コイツは確実に死ぬ。
倒れた米兵の首にマチェットナイフを押しあて、そのまま首を切り落とす。
首から血が溢れ出し、火薬の臭いを血が塗りつぶす。
不快な臭いだけど、前世で嫌というほどこの臭いは嗅いできた。
もう慣れている。
血の臭いにも、人を殺す事にも。
「確か、死んだ奴の《コンソール・リング》は誰でも弄れたはず。使えそうな物だけ回収するか」
《コンソール・リング》に触れてみると、問題なく起動した。
つまり、コイツは死んでいるというわけだ。
…首を刎ねてから多少は時間が経ってるから、そろそろ死んでないと怖い。
さてと、使えそうな物は…9mm弾とコイツの銃くらいか。
ナイフは予備の予備くらいの気持ちで持っておくとして、初期装備も予備として持って行こう。
げっ!結婚指輪なんて物が入ってる。
…物によっては、ショップで売れるか。
これも貰っていこう。
要らない物は、初心者用マニュアルくらいか。
ん?このペンダントは売れそうか?
あっ、これロケットペンダントじゃん。
となると中身は…やっぱりね。
「家族写真か…」
結婚指輪が入っていた辺りで予想はできたけど、やっぱりコイツも写真入りのロケットを持ってた。
ロケットを持ってる兵士は、大抵家族の写真を入れてる。それか恋人。
仲間が戦意を無くす理由になりやすいから、見つけ次第処分してたね。
こんな装飾品一つで戦意を無くすんだから、兵士のメンタルケアは大変だよ。
まあ、私の場合は傭兵だけどね?
そもそも、こんな物を見て心の傷を癒やすくらいなら、最初から兵士なんてならなければいいのに、とよく思う。
徴兵制のある国なら仕方ない。
でも、無い国なら自ら兵士になることを選んだはず。
兵士になると言うことは、ここに転がっている米兵みたいになる可能性があるということ。
志願したのなら、そんな甘えは捨てて、命を落とす覚悟を持たないといけない。
にも関わらず、こんな物を…
こんな甘えた事をしてるから、たった一人の女傭兵を相手ににあれだけの被害を出すんだよ。
まあ、こんな物でも売れば少しは金になるでしょ?
「えっと?確か《コンソール・リング》の…あったあった」
『ショップ』
✳購入
✳売却
なるほどね。ショップはこんな感じなのか。
『売却』を押して、指輪とロケットを入れれば売れるはず。
…10コインか。
これがどれくらいの数字なのか…『購入』を押せば分かるか。
ん?
『購入メニュー』
☆食品系
✳携帯食料 50コイン
✳一食分 100コイン
✳保存食 50コイン
✳水500ml 5コイン
✳水2L 10コイン
☆弾薬系
✳全種弾丸 100コイン
☆嗜好品
✳酒類 200コイン
✳煙草 300コイン
✳コーヒー 150コイン
✳薬物類 500〜2000コイン
…なるほど?
今見えてる範囲だけで、まあ、なんとなく分かった。
知ってはいたけど、売却は使い物にならない。
あの2つ売っただけじゃ、水2Lしか買えない。
早くコインを探さないと、飢え死ぬ可能性がある。
どうかこの部屋にありますように。
物色中
あったーーー!!
コインのマークが書かれたカード。
これを《コンソール・リング》に当てると…おっ?震えた。
よし!コインが増えてる!!
指輪とロケットを売って、10コインだった私の全財産は、なんと2010コインまで増加した。
これで飢え死ぬ事は無いだろう。
ちょっと余裕が出来たし、鍵掛けて一服するか。
部屋の鍵を掛けて、煙草とライターを取り出す。
「ふぅ~…未成年喫煙がどうのこうの言われないなんてサイコー」
基本的に海外で活動してたけど、私の所属してる傭兵団自体は日本のだから、煙草を吸ってるとたまに注意される事があった。
まあ、これっぽっちも気にして無かったけど、注意された時は鬱陶しかった。
でも、ここなら何も言われない。
だって、未成年の喫煙を取り締まる法律なんてものは存在しないから。
でも、気を付けないとあっという間に吸い尽くしちゃう。
煙草は買うのに300コインもいる。
今の所持金だと六箱しか買えない。
もっとコインが貯まるまで節約するか、この煙草を見つけた時みたいに探して回るか。
どちらにせよ、探索する必要がある。
そうすると、さっきみたいに誰かと出会う可能性もある。
いつでも殺せるよう、常に銃は持っておいた方がいいね。
…はぁ、一本しか吸えないのか。
一箱開けたいけど、そんな余裕無いからなぁ。
この煙草ももうすぐ吸えなくなる。
まだ吸い終わってないのに、禁断症状が出てるよ。
…もう一本だけ。一本だけなら大丈夫。
まだ十九本も残ってるんだから、一本くらい追加で吸ったところで大丈夫でしょ。
そんな事を自分に言い聞かせて、二本目を吸う。
その後、結局一箱開けてしまった。
◆
ピピピピッ!ピピピピッ!
《コンソール・リング》にセットしておいた目覚ましが鳴る。
おはようございます。
転生?してから今日で七日目。
この一週間で二十人以上殺した。
お陰でコインの量は一万の大台を突破した。
今の所持金は13190コイン。
消費したコインを含めると軽く三万はあった。
何に二万近く使ったかって?
酒と煙草に使いました。
はい、酒と煙草が無いとやっていけない駄目な女です。
完全にアル中&ニコ中です。
あぁ…なんか気持ち悪い。
まあ、理由は分かってるんだよね。
「うぅ…二日酔いだぁ」
部屋を見回すと、あちこちに空のビール缶が転がっていた。
缶ビールは、200コインで三本出てくるからそこそこの量を飲める。
それでも1000コイン使ったのは間違いだったわ。
十五本も飲めるわけないじゃん。
ストレージが無かったらどうしようかと思ったわ。
喉乾いたなぁ…水道水って飲めるのか?
このホテルには、ちゃんと水道が通ってる。
そこにある蛇口を捻れば、キレイな水道水が出てくる。
ただし、その水道水が日本の物と同じくらいキレイかは別問題だけど。
不衛生の水を飲む事の危険性は、十分理解してる。
これでも熱帯雨林でゲリラ活動をしてただけはある。
汚い水ならいくらでも飲んてきた。
何故か、私は一度も腹を下した事は無かったけど、仲間が下痢に苦しんでた。主に寄生虫。
まあ、今回も大丈夫…なのか?
「ここの貯水タンクに毒が入れられてない保証はない。止めた方がいいか」
仕方ない、大人しく2Lの水を買おう。
金は大事だけど、命には変えられない。
それに、今日の分の水を買ったと考えればいいわけだし。
別に悪い事じゃない。
水、水はこれだね。ポチッとな。
ストレージに入った新品の水を取り出して、蓋を開けてそのまま飲む。
すると、気持ち悪いのが少しマシになった気がした。
さてと、水も飲んだことだし、そのうち吐きそうだけど、先に朝ごはんを食べるか。
昨日倉庫で拾った缶詰が大量に残ってるわけだし、それを食べよう。
この、すごく美味しい『鶏の照り焼き缶』と、缶詰のくせにしっとりとしたパンを朝ごはんにする。
缶詰はすぐ飽きるけど、確かに栄養は取れている気がする。
でも、そろそろ野菜も食べないと不味いかな?
昼ご飯は野菜中心の料理にするか。
そんな事を考えながら、私が少しずつこの世界に適応し始めている事を実感していた。
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