第2話現状確認

ある男女の間に、望まれない子供が生まれた。

もともと遊びの関係であり、お互い他人に迷惑をかけて生きているような人間であり、まともに子育てが出来るはずも無かった。

そこで、知人のツテで人買いにその子供を売ることにした。

人買いはそれを快く受け入れ、十万円ほどで買い取ったらしい。

その子供は女の子で、生まれつき体が強かった。

そこに目をつけた人買いは、主に海外へ人材を派遣している傭兵団に女の子を売ることにした。

この時の金額はおよそ二十万程度だったらしい。

傭兵団の教育係は、女の子に『みどり』という名前を付けた。

理由は、ちょうど木々が青々としてきた頃に、女の子を買い取ったかららしい。

また、苗字も教育係が適当に『小宮こみや』という苗字を付けた。

女の子…いや、私の名前は『小宮翠』。

物心つく頃から傭兵教育を受け、人生の殆どを訓練所と戦地で過ごした十六歳の少女。


「私は燃料タンクの爆発に巻き込まれて致命傷を負い、切腹して死んだはず。ここは…あの世なの?」


にしては近代的過ぎる場所だ。

勝手なイメージだが、もっとこう中世以前の宗教関連施設というイメージがあるけど、ここは…ホテルの一室みたい。

というか、格好も葉っぱ付きの迷彩服のまま。

場所は違えど、大体死者って白い服を来てるイメージがあるんだけど…普通に迷彩服。

それどころか、脚と懐にナイフがあり、手榴弾と愛用している『ベレッタM9』もある。

唯一死ぬ前と違うところがあるとすれば、


「この謎の…腕輪?スマートウォッチ?みたいな、よく分からない機械か」


どうしてこんな機械が着けられているの?

ここはあの世じゃないのか?

もし、ここがあの世なら文明発展しすぎだろ…

それに、この機械もかなり高性能な物だと思うんだが…っ!?

私が機械を触ったその瞬間、液晶画面のような所から青白い光が放たれ、私の目の前に青が強い水色の…メニュー画面?のようなものが現れる。

そして、そのメニュー画面?には、


『ようこそ!!』


と、映し出されていた。

……

………は?

困惑する私を置いて、画面に浮かぶ文字が変わる。


『ここは鉛玉と血飛沫が飛び交う無法の世界。あらゆる行為がこの世界では許されています』


…意味が分からん。

というか、最初の文字列。

なんか既視感があると思ったら、『ここは剣と魔法の世界』っていう、ラノベのよくある説明みたいじゃねぇーか!!

…書いてあることはとんでもないけど。


『貴女はこれからこの世界で自由に生きてもらいます。もちろん、死ぬことも選択肢の一つです』


あっそ。

なに?これが俗に言う『異世界転生』ってやつ?

転生先の世界、最悪すぎるけどね。

というか、死ぬことも選択肢の一つって、この世界どうなってるの?


『それでは、初期装備一式と、初心者用マニュアルをダウンロードします。また、並列して貴女の記憶領域に《コンソール・リング》の使用方法をインストールします』


ん?

待て待て!!

初期装備一式とマニュアルはいいとしよう。

“《コンソール・リング》の使用方法を記憶領域にインストールします”って何?

読んで字の如くなら、脳の記憶を司る部分に直接情報を流し込むって事…ッ!!!!



「ぐぅ!?ーーーーッ!!!!」


私は今まで、数々の修羅場をくぐり抜けてきた。

時には気が狂いそうな痛みに襲われる事もあった。

私は、人一倍苦痛には強い筈だった。

そんな私が、声にならない悲鳴を上げ、のたうち回るような激痛。

とても形容し難く、この世のものとは思えないような、信じられない激痛が私を襲う。

その激痛に襲われていたのは、十秒未満だろう。

しかし、あまりの激痛に、永遠と続いているように感じられた。


「はぁ…はぁ…終わったか?」


特に身体に異常は感じられない。

いや、異常はあった。

あれほどの激痛を感じたにも関わらず、今はその痛みを一切感じないのだ。

痛みとは、身体が傷付くとこで脳に――何かは忘れたけど―――信号が送られて、『痛み』を認識するとかなんとか聞いた気がする。

色々と違う気はするけど、この情報が正しいとすれば、脳に信号が送られていたのはあの時だけで、今はまったく送られていないという事になるはず。

そんな事有り得るのか?

普通、例えば殴られたとして、殴られた後もしばらくは痛い。

しかし、さっきのアレは、脳に情報がインストールされている間だけ痛かった。

つまり、ボクシング世界チャンピオンの本気の一撃をモロに受けたのに、痛かったのは殴られた瞬間だけ。

そんな状況になる。

…意味が分からん。


「とりあえず、これは暇な時にでも考えよう。今は、インストールされた情報を調べようじゃないか」


私は独り言が多い方だ。

誰も居なくても、こうやって人に話すように喋ってしまう。

よく気持ち悪がられたね。

おっと、そんな事を考えるより、やるべき事がある。

インストールされた情報。

それは、さっきのメニュー画面に表示されていた通り、《コンソール・リング》という、この左腕につけられた機械の使い方だった。

特に、今使えそうな物は三つ。


『ストレージ』

私が収納したいと思った物を収納出来る機能。

余りにも大き過ぎる物、常識的に考えてストレージには入らないだろという物、生物は収納出来ないそうだ。

まあ、ラノベでよくあるアイテムボックスというヤツだろう。


『マップ』

名前の通り、地図を表示する機能。

これは、自分の行ったことのある場所は地図に追加される。

また、周辺情報をダウンロードする装置で、地図をより高性能な物に出来る。

街規模はもちろん、建物の構造も調べる事が出来る。

他にも、検索機能やナビもあるらしい。


『検索・解析』

知りたい情報を検索することが出来る機能。

調べたい物を解析することが出来る機能。

検索は、『ライブラリー』という施設で情報を集めないと使用出来ない。

つまり、現段階では検索はゴミだ。

解析は、ラノベで例えるなら鑑定だ。

異世界転生もので、主人公が持っている能力の代名詞とも言える鑑定。

この世界では誰でも使えるらしい。


他にもいくつも機能はあるが、大体何か道具が必要か仲間が居ることが前提の機能しか無い。

唯一使える物があるとすれば、時計機能だろう。

それも、スマホの時計アプリと殆ど変わらない機能だ。


「そう言えば、初期装備一式ってどこだ?」


…ストレージの中か?あっ、あった。

私はストレージから、『初期装備一式』と書かれた物を取り出す。

これが初期装備一式?

なんというか、ただの動きやすい服にしか見えないんだけど?

それに、武器もナイフと拳銃だけ。

まあ、私からすればその二つで十分なんだけど。


「動きやすい服か…葉っぱ付きの迷彩服を着るよりはマシか」


服を脱いで着替える…なんて愚行はしない!!

まだ使わないと思ってたけど、意外とすぐに使うことになった機能。

その名も、『自動着脱』

ストレージに入れて、着替えたい物を選択するだけで、一瞬で着替える事が出来る機能。

ゲームみたいに、ワンタッチで装備が変更出来るのは、着替えが楽で嬉しいね。


「うん。なんかスパイみたいな格好」


初期装備とはいえ、スパイごっこでもさせるつもりなんだろうか?

後は、初心者用マニュアルだけど…一通り目を通すか。

初心者用マニュアルは、何故か紙冊子で出現した。

《コンソール・リング》とか言う便利な道具があるんだから、わざわざアナログな紙冊子にする必要は無かった気がするけど…


マニュアルは一通り目を通してみた。

内容としては、まるでサバイバル型バトルロイヤルゲームのチュートリアルを見ているようだった。

この世界では、建物の至る所に様々な物資が置かれており、そこにある武器や防具、食料等を確保する必要があるようだ。

また、わざわざ建物内を探さなくとも、《コンソール・リング》のショップ機能で一通り買えるようだ。


「しかし、まるでゲームの世界に来たみたいだ。…まあ、ゲームと一言に言っても、サバイバルとバトルロイヤルの要素を併せ持つ、現実で起こったら最悪なゲームだけど」


…要は、ただのデスゲームだね。

話を戻すと、ショップというだけあって、お金が必要になる。

そして、ショップで使用するお金は、主に四つの方法で入手することが出来る。


一つ目は、毎週金曜日になると配布されるお金を待つこと。

お小遣いのようなシステムだが、定期的にお金が手に入る確かな手段。


二つ目は、建物を探索して見つけること。

特に、金庫や銀行には大量のお金があり、見つけられれば懐が暖かくなるだろう。

ショップで物は揃えられるとはいえ、稼ぐためには探索をする必要があるようだ。


三つ目は、誰かから奪うこと。

予想できた内容だ。

無いなら奪えばいい、弱者は淘汰されていくのが自然の摂理。

もちろん、殺さなくとも奪うことは出来るが、お互い生きるために必死だろうから、基本殺して奪う事になる。

まあ、この世界では一番の正攻法だろうね。


四つ目は、ショップでものを売ること。

例えば、私はあまりスナイパーライフルは使わない。

だから、スナイパーライフルを拾ってもショップで売ればいい。

値段は期待できないが、比較的安全にお金を集められる方法だ。


「こんな世界でも金は重要なのか…となると、善は急げだ。すぐに行動に移そう」


私はベッドから起き上がると、まずは部屋の引き出しや収納の扉を全て開く。

ライターと煙草が一箱見つかった。

後で使おう。


「さて、最初に私の獲物になってくれる人は、どこに居るのかな?」


この無法の世界の掟は弱肉強食。

弱ければ食われ、強ければ支配出来る。

力こそ全てだ。

私はこれでも世界最強の女傭兵。

必ず生き残り、この世界で寿命をまっとうする!!

私は、部屋の扉を開け、その第一歩を踏み出した。

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