ピエロシリーズ
天雲 月風
第一章 墓の前にいるピエロ
しりとりピエロ
「ハッ、ハッ、もうバッテリー……切れちゃう!」
「ハッ、
「とりあえず家まで……ダッシュしよう!」
落ち着け自分、きっと大丈夫。向こうは徒歩、私達は電動自転車。家まで帰ればきっと、この地獄から抜け出せるはず!!
約1時間前、私と親友の紅莉は久しぶりに会う中学校時代の友達と夜ご飯を食べに来ていた。
「バイバーイ!また集まろうね!」
「もちろん!」
友達と別れた後、家が近いこともあり紅莉と私は一緒に帰ることにした。
「ねぇここ暗くない?」
「ちょっと先に墓地もあるし怖いね。」
「たまにでいいから後ろに紅莉がいるか確認してね?」
「じゃあしりとりしよーよ。後ろ見てたら事故しちゃう。ずっと声は出しといてね、黙ってたら後ろにいるってわかんないから。」
それからずっとしりとりは続き、丁度墓地がある坂道に差し掛かった。
「れ……レシピ!」
「ぴ?ぴー……ピエロ!」
「オヨビデショウカ?」
「ん?なんの声……ヒッ!?」
振り向くと、そこにはピエロが立っていた。紛うことなきピエロが。
「
声も出せずにただ顔をひきつらせているだけの私が頷いたのを確認して、紅莉は自転車を走らせる。
「萌果も!早くっ!!」
「う……うん!」
「誰かーっ!助けてくださいっ!」
叫んでも虫の音ひとつ聞こえないこの街にはいつの間にか誰もいなくなっていた。助けを呼ぶことは出来ない。
そうして数十分間走らせた私達の電動自転車は、バッテリーが切れかけていた。
「萌果……。紅莉の……バッテリー切れた……」
自転車なしであのピエロから逃げ切るのは、正直絶望的だ。20メートル後ろにはあのピエロが見えている。
「……2人乗りしよう。」
「でも遅くなっちゃう!」
「2人で逃げるよ。私達ならできる。」
「ありがとう……!」
あと少しで家に着く……!ここまで来れば……!
ガチャ、ガチャガチャ。
「鍵が、かかってる……?」
いつも開いてるはずなのに!?
「きゃぁああぁぁぁあーー!?」
悲鳴がした方向を向くと、ピエロに捕まっている紅莉がいた。
「紅莉ぃ〜っ!?」
ここで助けに行けば私も捕まるかもしれない。でも紅莉が……!
「……紅莉なら……こんな状況なら、許してくれるかな……」
私は紅莉のいない方へ歩き出した。私もついに友達を裏切ってしまった。あっち側の人間にはなりたくなかったのに……。
私は小学生の頃、いじめられていた。それ以来、もう二度と家族以外の人間と関わるもんかと思ったし、関わって欲しくもないと思っていた。紅莉も今でこそ仲が良いものの、当時は関わる予定の無かったうちの一人だ。紅莉の友達とも仲良くなれた時、私は変わった。
「萌果……助けてよ……。なんで私から離れてくのっ……!?」
「紅莉、ごめん、ごめん…っ!」
「……そっか。やっぱり萌果もそっち側だったんだ……。ピエロ、あの子捕まえて。」
「ワカリマシタ」
……は?なんでピエロが紅莉の言うこと聞いてるわけ?
「ツッカマァーエタァ!」
思考回路が追いつかなくて固まっている私を捕まえてピエロが満足気に頷く。
「萌果、ごめんね?これは私が仕組んだ事なの。」
言っている意味がわからない。頭がおかしくなっちゃったのかも。あ、もしかして夢?それか何かのドッキリ。
「イッツ、ショータァーイムッ!」
ピエロがそう叫んだ瞬間、私は劇場に似ているどこかに、いた。軽快な音楽が流れてくるなか、観客席らしき場所にいる仮面をつけた人達が、私を見下ろしている。
「本日のゲストは、萌果さんです!それでは観客の皆様、是非ともご一緒に、死のカウントダウンを!10、9、8……」
フフッ、私死ぬんだ。こんなことになるんなら、助けるべきだったかな?
「7、6……」
いや、最初から親友なんていらなかったんだよ……。やっぱり私が正しかったんだ……!
「5!4!3!2!……」
あぁ、こんなこと考える私が本っ当に大嫌い!友達なんていらないって思ってた私が変われたのは、紅莉のおかげ。あの時、紅莉が……
「1!0!」
目から流れ落ちる後悔と共に私は死んだ。
…………はずだった。
「……そうですか、はい。」
お母さんの声が聞こえる……?私、死んだんじゃ……?
「なんでお母さんがここに……?」
「萌果!?気がついた!?先生!萌果が!!」
あんなに慌ててどうしたんだろう?不思議そうにしている私に気付いたお母さんが説明してくれる。
「落ち着いて聞いてね。……萌果は交通事故にあったのよ。車に跳ねられて、それで……うっ、うぅっ……」
泣き出す母を横目に私はまだ混乱していた。ただひとつはっきり言えることは、私は事故になんか遭ってない。
1ヶ月後、私は退院した。散々迷ったがやっぱり紅莉には謝るべきだと思い、家へ出向いていた。何度も何度も通った道のり。インターホンを押し、出てきたのは紅莉のお母さん。私が見間違えるはずがない。
だけど……
「紅莉、いますか?」
覚悟を決めて聞いた私の耳に入ってきた次の言葉はすぐに理解できるものではなかった。
「_________________ 」
END
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