思い出とアンドロイドエール

「もう開けていいッスか?」

「まだダメです。あと三分ほどで到着しますので、ご辛抱ください」


 エリカはロジーに目を瞑るよう指示され、ロジー手を引かれるがまま、暗闇の中を歩んでいた。


 ――一体どこへ連れていく気ッスか?


 答えもわからぬまま、ひたすら連れられていく。


 やがて、ロジーは足を止めた。エリカは勢い余って、「ふぎゅっ」と、ロジーの背中に鼻をぶつけた。


「エリカ様。もういいですよ、目を開けてください」


 エリカはそう言われて、ゆっくりと目を開けた。


「…………!」


 目の前には、平野に続く、きれいな夜景が広がっていた。

 その美しさに、エリカは思わず息を飲んだ。


「……キレイ」


 エリカはそう呟いた。


「ここからが、一番きれいに見えるんですよ。これを、ぜひエリカ様に見てもらいたくて」

「ロジねぇ……!」


 そこへ「おーっす、二人とも!」と羽風はかぜが現れた。


「いや〜出すもん出したらスッキリしたわ。回復回復」

「……せっかくいい景色を堪能してたのに、先輩の発言で台無しッス」


 エリカはそう言いつつも、またその景色に見蕩れた。


「エリカ様」


 エリカはロジーを見た。


「……いい思い出になったでしょうか」


 エリカは「もちろんッス! 最高の思い出ッスよ」と答えた。


「ならよかったです。……その、エリカ様」


 ロジーは意を決して、口を開けた。


「エリカ様のご事情を知ったとき、正直『寂しい』と感じたんです。だけれど、それよりもエリカ様の足を引っ張りたくない、応援したい思いのほうが大きかったです」


 ロジーとエリカは、自然と向かい合う形になる。


「わたしは、エリカ様が遠くへ離れてしまっても、決して忘れることはありません。今日のこの思い出も、今までのエリカ様との思い出も、全部わたしのメモリーに記録されています。消去することは、絶対にありません」


 エリカは、続きの言葉を待つ。


「どうかわたしたちのことは気にせず、夢のために全力を尽くしてください。悲しいことや辛いことがあれば、いつでもわたしたちに相談してください。わたしたちは、エリカ様を忘れることなんてしません。夢へ向かうエリカ様のことを、ずっと応援しています。そして今度は、夢を叶えたエリカ様をお出迎えすることを、楽しみにしています」

「ロジ姉……」

「だってエリカ様は、わたしにとって、大切なご友人なのですから」


 羽風はロジーの肩を抱きながら、「そーいうこった。バカみてぇにクヨクヨしてないで、前向いて行ってこい」と、羽風なりのエールを送った。


「ロジ姉、先輩……」


 エリカは目を擦り、晴れやかな顔に変わっていた。もう迷いのない、決意を固めた表情だった。


「ありがとうッス。ウチ、向こうでも全力で頑張るッス。たまに日本に帰ってきたときは、ウチとまた遊んでくださいッスよ!」


 エリカはそのままロジーと羽風に抱きついた。


「わっ、エリカ様?」


 ロジーは突然のハグに、少しばかり動揺した。


「ウチも、二人のこと応援してるッスからね! ずーっと幸せでいられるように祈ってるッス!」


 ロジーと羽風は顔を見合せ、首を傾げた。

 エリカは二人から離れると、また夜景を見下ろした。


 ――ウチも、やっと吹っ切れた。強くなれた。


 エリカは再度二人を見た。隣で、ロジーと羽風は楽しそうに話しながら、夜景を楽しんでいる。


 エリカはその様子を見て、自分の勘違いをなくして見てみれば、こんなにわかりやすい恋愛はないと思っていた。


 ――しっかしここまでわかりやすい……どう見てもお互い好き同士にしか見えないンスけど……どうして本人たちは気づかないンスかね?


 エリカは、ゆっくり背伸びをする。


 ――まあ二人には二人の世界があるわけだし、ウチはあくまで見守るだけ。


 そうは思うものの、やはり焦れったいと思うエリカなのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る