強い意志
「今日は本当に楽しかったッス!」
帰りの電車に揺られながら、エリカは言った。
「ああ。また三人でどこか遊びに行こうな」
「ウチも、そう思うッスよ」
エリカは窓の外をじっと眺めていた。
ロジーは、そんな様子のエリカが気になってしょうがなかった。
ここは思い切って尋ねてみるべきか、とロジーが口を開こうとしたとに、電車が停止した。
「あ、じゃあウチここで降りるんで! 先輩はまた明日! ロジ
そう言い残し、エリカは電車を降りていってしまった。
◇
ロジーと羽風は自宅に到着し、各々やるべきことを済ましたり、ゆっくりしたりと過ごしていた。
「ロジー、帰りに何か気にしていたようだが、どうした?」
風呂から上がった羽風は、遊園地のお土産を眺めていたロジーにそう聞いた。
「……わかりましたか?」
「ああ。そのくらい、すぐに気づくに決まっているだろう」
羽風は言いながらソファに腰掛けた。ロジーは、博士の観察眼はさすがです、と思いつつ、博士の横に立つ。
そうしていると、羽風は自分の空いてる隣をポンポンと叩いた。
「ロジーだけ立てだなんて言わないよ。隣においで」
ロジーは羽風の言うとおり、隣に座る。距離が近い。今まで、こんな状況になってもなんとも思わなかったはずなのに、今は緊張しているのが、自分で理解できた。
「……エリカのことかい?」
羽風は優しく問うた。ロジーは頷く。
「エリカ様、今日は時々悲しそうな……寂しそうな笑顔になっていると感じたんです」
「ふむふむ」
「あれには何か理由があるのでしょうか? わたしが何か、不快なことを言ってしまったのではと……」
――わたしがずっといっしょにいたいと伝えたとき、エリカ様はそんな笑顔をしていた。
ロジーは、気分が落ち込んでいくのを感じていた。
「……ロジーが何かしてしまったとかではないよ」
ロジーの頭を羽風はそっと撫でた。落ち込んだ気分が、少しだけ軽くなっていくのを、ロジーは感じた。
「エリカには別の理由があるんだ。きっと、別の理由がね」
そう言われても、真実がわからないロジーはまだ不安が残る。
羽風はそんなロジーの気持ちを察したのか、身体ごとロジーに向けた。
「ロジーは、理由を聞いてどうしたい?」
「……解決できるのだとしたら、わたしはそのために行動したいと思います」
「そうか……なら」
羽風はひと呼吸置いて、こう質問する。
「
ロジーは目を丸くした。
――命令の優先順位は、博士が一番高い。
――だけれど、わたしはエリカ様に元気になってほしい。
――そもそも、博士がそんなことを申し上げるなら……。
ロジーは脳内で錯綜する意見をまとめ、ゆっくりと答えた。
「――博士の命令を無視してでも、わたしはエリカ様のために行動します。仮に博士が、そういったことを命令するのであれば、わたしは博士を――軽蔑します」
ロジーは言い切った。しかし、あとから徐々に、こんなことを言ってしまってよかったのか、と後悔の念が押し寄せたが、それでもロジーは真っ直ぐに羽風を見据えていた。
羽風は不満を見せず、むしろ満足そうに口角を上げると、「わかった」と口を開く。
「変な質問をして悪かったよ。ただ、わたしはエリカを見捨てるようなマネは絶対にしない、故に、そんな命令は決してしないから安心してくれ」
エリカは、「そうだ」と話を続ける。
「ロジーのほうから、エリカに何があったか聞いてみるのはどうだ?」
「わ、わたしがですか?」
ロジーは困惑した。
「大切な友達なんだろう? だったら、ロジーが行動しなきゃ」
羽風は言った。
――エリカ様にはいろいろとしてもらいましたし。
ロジーは意志を固めた。
――今度は、わたしが。
「かしこまりました、博士。わたし、明日にでも何があったか聞いてみたいと思います」
ロジーは言う。
「アンドロイドのわたしに、人間のエリカ様の心を理解し、あの悲しそうな笑顔を払拭できるかはわかりませんが……それでも、やってみたいと思います」
ロジーの答えに、羽風は満足そうに頷いた。
「何かあればわたしも手伝うよ。ロジーもエリカも、大切な友人だからね」
ロジーはその言葉に、心強さとほんの少しの悲しさを覚えた。
羽風にとって、ロジーはただの家政婦ではなかったにしろ、友人と称されてしまったのだ。
――まあ、当然ですよね。
ロジーはこの感情を表に出さないべく――といっても、常に無表情なのだが、「ありがとうございます」とだけ述べた。
「まさか、ロジーがこんなにも
ロジーは「ええ」と答える。
「エリカ様は大切な友人です。わたしの恋の相談にも自分のことのように寄り添って聞いてくれますし……」
「え? 恋?」
ロジーは余計なことまで喋りすぎた、と慌てて口を抑えた。恋とはなんのことだと動揺する羽風に、ロジーは、
「なっ、なんでもありません! 聞かなかったことにしてください!」
と逃げるようにその場をあとにした。
取り残された羽風は、ソファの背に沈むように身体を預けて、天井を見上げた。
「……え? 恋?」
羽風は、しばらくの間動くことができなかった。
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