アンドロイドは心配する

「はぁ〜楽しい時間ってあっという間ッスね〜」


 エリカはそう言って、周りをキョロキョロ見回す。羽風はトイレへ行っていてこの場にはいないのだが、改めて近くに羽風がいないか確認しているのだろう。しっかり周囲を確認し終えたエリカはロジーと距離を詰めると、耳元でこう囁きながら質問する。


「……で、どうッスか? 先輩とは」


 エリカに質問され、ロジーは恥ずかしいような気持ちになる。


「そう……ですね。あまり変わりありません。いつもどおりという感じです」

「そッスか〜……。ま、この一日でどうにかなったら楽なモンッスよね。でも、絶対に今日のことは大切な思い出にはなりましたから!」

「そうですね。こんな素敵な思い出――」


 と言いかけて、ロジーの脳内に突然、とある映像が過ぎった。


 ――思い出。これは、遊園地に行った過去の映像データ


 映像は粗く、はっきり認識できない。


 ――この映像データは、なんです?


「……ねぇ! ロジねぇ!」


 ロジーの意識が戻る。


「……エリカ様」

「ロジ姉、どうしたんスか?」


 ロジーはなんでもない、とエリカに伝えた。

 そう、なんでもない。

 ロジーは少し頭を横に振って、意識を切り替えた。


「ええ。素敵な思い出ができました。この思い出だけでも、十分すぎるものです」

「ははっ。何言ってンスか、ロジ姉。これからも思い出を作ってくンスよ!」


 無邪気なエリカに、ロジーは、内心笑みが零れる。


「エリカ様。今日はわたしなんかのために、こんなに協力してくださりありがとうございます。アピールができたかはわかりませんが、それでも、エリカ様の作戦のおかげで、博士とより親密になれたかもしれません」

「なぁに堅っ苦しいこと言ってンスか! 当然じゃないッスか、ウチらもう友達なンスから!」


 エリカは屈託のない笑みを向けた。


 ――友達。


 ロジーはその言葉を胸の内で反芻する。


 ――エリカ様を見ていても、温かい気持ちになります。


 ロジーは自分の胸に手を当てた。


 ――博士に対する気持ちとはまた違った、温かい気持ち。


「……わたし、どんどん知りたくなってきます。博士のことも、エリカ様のことも。二人とは、ずっといっしょに過ごしたいと――思い出を作っていきたいと、そう思います」


 ロジーは素直な気持ちを伝えた。

 エリカはうれしそうな笑みを浮かべたが、しかしすぐに、少し寂しそうな笑みに変わる。


「……エリカ様?」

「おまた〜」


 そこへ、トイレへ行っていた羽風が戻ってきた。


「ん? 二人ともどったの?」


 エリカはベンチから腰をあげ、笑って見せた。


「なんでもないッスよ! 二人でお話してただけッス!」


 そう言って、エリカは先を歩きはじめた。


「ほら! もう残り時間はあまりないッス! 最後まで楽しむッスよ〜!」


 羽風は「元気いっぱいだなぁ」と呟いて、エリカについて行った。ロジーも二人を追うようについて行く。


 けれどもロジーは、エリカのあの寂しそうな笑顔が、頭から離れなかった。

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