遊園地

「遊園地キター!!」


 待ちに待った日曜日と言わんばかりに、うれしさを爆発させるエリカ。


 一方、羽風はかぜとロジーはというと。


「ふあぁ……本当なら、まだ寝てるはずなんだけどなぁ」


 羽風は眠そうにしていて、


「大勢の人ですね。エリカ様が迷子にならないよう、注意しませんと」


 ロジーは遊園地の光景を前にして、無感動だった。


 エリカはそんな二人に頬をふくらませた。


「二人とも遊園地なのにテンションガチ低いッス! ロジねぇに関しては、ウチのこと子供扱いしてくるしぃ〜!」

「申し訳ありません。エリカ様に対しては、このような判断が出まして」

「ウチだってもう成人済みなんスからねぇ〜〜!!」


 羽風はそんな二人のやり取りを見て、大笑いした。すっかり眠気も覚めたようだ。


「ふん! まあいいッス! 今日はいろいろ回って楽しむッスからね! まずは、雰囲気作りのために、ショップに行ってカチューシャを買うッス! こっちッス〜!」


 エリカはそう言うや、あっという間に姿が遠くなってしまった。


「……博士。あのショップを先に回るよりも、まずは人気アトラクションのチケットを取り、そのまま道中の別のアトラクションに乗ってからショップに行くと、効率よくパーク内を巡れるのですが、これはお伝えしたほうがよろしいのでしょうか?」


 羽風はそんなロジーに微笑んだ。


「いーや。計算づくしのパーク巡りは興醒めしちまうよ。せっかくアイツが誘ってくれたんだ。今日はアイツの好きなように巡って付き合おうとしよう」

「かしこまりました。では、エリカ様について行きましょう」


 エリカを追いかけつつ、ロジーは横目で羽風を見る。


 遊園地を見渡したときは、特になんとも思わなかったけれども、羽風を通してみる景色は、なぜか輝いて見えた。視覚の異常なのか、それともやはり、これは『恋』という現象からくるものなのか。

 少なくともひとついえるのは、現状、この状態はアンドロイドとして『異常』ということだけだ。


 エリカに追いつくと、もうすでに三人分のアクセサリーを購入していた。


 エリカはねずみの耳のカチューシャを付けたまま、羽風とロジーにもそれぞれのグッズを渡した。


 羽風は、ねずみの顔のシルエット型のサングラス。ロジーは、この遊園地のマスコットのひとりである、アヒルの帽子だ。


「わ!! 二人とも超似合うッス! 写真撮りましょ!」


 エリカは羽風とロジーをと両脇に引き寄せて、ショップの前で写真を撮った。


「きれいに写真撮るとこは、さすがモデルって感じだな」

「ふふん。ウチはもうプロみたいなもんッスからね!」


 ロジーも写真を見る。

 三人が写るそれを見ると、なんとも言えない、腹の奥がモコモコしてくるような、筆舌に尽くし難い感覚を覚えた。


 ――きっとわたし、楽しくて、うれしいんだ。


 ロジーはその現象を、そのように認識した。

 最近はなんとなくだが、感情というのを少しずつ理解し、向き合い、わかりあえるようになった気がするのだ。


 ――でも、『恋』という感情だけは、違います。


 ロジーは写真の羽風を見る。


「……ロジ姉」


 突然、耳元で声をかけられ、ロジーは少し驚く。

 エリカは小声で羽風に聞こえないように、話しかける。


「今日の作戦、ちゃんと覚えてるッスか?」


 ロジーは頷いた。


「お前らなんか話してるのか?」


 そのとき、羽風が横から覗き込んできた。


「いや! なんでもないッス!」

「いえ、なんでもありません」


 二人は同時に誤魔化した。


「……? そうか。なら、どっか回ろう。最近あっちのほうに新しいのができたらしいぞ」


「そッスね! 行きたいッス!」


 とエリカは言いつつ、隣のロジーにウインクして見せた。

 ロジーは作戦を実行する覚悟を決めた。


 ロジーにとって、今日はただ遊園地を楽しむだけではない。

 羽風に、少しでも振り向いてもらわねばならないのだ。

 そのための作戦を、昨夜エリカと話し合っていた。内容なら、バッチリ頭の中データベースに保存されている。それを、ただ実行に移すだけだ。


 ――これから始まるは、羽風の知る由もない、『恋のエリカキューピット大作戦』なのだ。

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