(with youシリーズ)手を繋いで

牧瀬 冬弥

with youシリーズ 手を繋いで…

↓声劇でお使いになる際にお役に立てれば

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手を繋いで…

作:牧瀬 冬弥


悠輔:

ひより:


URL

https://kakuyomu.jp/shared_drafts/5aeC4mUTaa0rE2uWV8ZsauMmmvLvOM0y

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【以下本編】



 悠輔:ひより~!

 

 ひより:っ!悠輔!こっちこっち!


 (※息を切らせながら)

 悠輔:ごめんひより、待ったか?


ひより:楽しみで早く来たのにしょうがないなぁ


 悠輔N:8月7日、晴れ、今日は幼馴染で彼女のひよりと話題の恋愛映画を観に行くことになっている、大学も夏休みで毎日をダラダラ過ごしていた俺は昨晩オンラインゲームに熱中するあまり、案の定寝坊して集合時間ギリギリになって彼女の待つ駅前に到着した


 ひより:それよりこんなに汗かいて、はいハンカチ


 悠輔:あぁ、ありがとう。いや目の前でバスに出ていかれて慌てて走ったよ


 ひより:も~だからあれほど時間には余裕持ちなさいって言ったのに


 悠輔:そんなこと言ったってさー あ、ハンカチありがとう。じゃぁそろそろいこうか


 ひより:あ、まって、 悠輔、くつひも!ほどけてるよ


 悠輔:あれ、気づかなかったなちょっと待ってね、よしオッケー!


 ひより:なにがオッケーよ!昔っから本当に不器用なんだから、羽のバランスも悪いし縦になっちゃってるし、しょうがないなぁ


 悠輔N:そう言ってひよりは俺の曲がってバランスの悪い靴ひもを結び直すのにしゃがみ込む


 悠輔:ちょっと!ひより?こんな人が見てるところで!大丈夫だって子供じゃないんだから

                    

 ひより:そんなこと言って、このままじゃまたほどけちゃうよ。ちゃんとしっかりきつく綺麗に結び直してあげるから…ん、バッチリ!


 悠輔N:左側に並んでくるひよりの手で綺麗に結び直されたスニーカーの蝶々結びが羽ばたくように揺れる…


悠輔:あ、ありがとう、じゃあいこうか


 ー間ー


 ひより:ん~結構話題になってた映画だったけど最後がちょっとねぇ、私には合わなかったな~


 悠輔:おいおい、こんな映画館出てすぐでそれ言うか?

 てか最後ダメだったか?俺はあんな終わり方もいいかもなって思ったけど?



 ひより:綺麗にはまとめてあるけどやっぱり二人にはハッピーエンドで終わって欲しいなって思っちゃうよ



 悠輔N:劇場の前で立ち止まったひよりは赤く染まり始めた空を見ながら一言『離したくないな…』と呟いて泣いていたのが印象的だった



          ー間ー


 ひより:おいしかったー、ここのパスタは安定だねー


 悠輔:そうだな、迷ったらここにきておけば間違いはないからな


 ひより:安くて早くて美味しい!学生の味方みかただね


 悠輔:どこぞの牛丼チェーン店みたいな言い方だな…っとすみません、…へー浴衣に仁平、近くでお祭りでもやってたのかな?


 ひより:あ!、あの柄の浴衣可愛い!ん〜夏祭りかぁ折角だから新しい浴衣買って近くのお祭り行きたいね。


 悠輔:おぉ、いいな 地元でやる祭だと8月の終わりに近くの神社でやってるはずだな


 ひより:じゃぁそれ行こう!新しい浴衣買ってイカ焼きに綿飴、カキ氷!あとあと、ラムネとリンゴ飴も外せないよねー♪


 悠輔:花より団子だなぁ


 ひより:なんか言った!?


 悠輔:いや!ひよりの浴衣楽しみだなって


 ひより:ふふっ可愛いの一緒に探してね



            ー間ー



 ひよりN:8月12日、晴れ、今日は悠輔と夏祭りに着ていく浴衣を見に来ている、夏祭りで絶対見惚れさせてやるんだから

  

 ひより:悠輔はこっちとこっち、どっちが好み?この赤いのもいいっけどこっちの柄もかわいいんだよね


 悠輔:ん~好みで言ったらこっちの柄だけど、ひよりならどっちも似合っちゃいそうだからなぁ


 悠輔N:どっちも似合うのは本心だ。だけどどちらかなんて選んで答えられない、確実に欲しいほうは決まっているはず、ゆえにどちらも褒めて最終判断は本人に任せるのが一番穏便に決まるはず…


 ひより:ん-、じゃあこっちの柄のほうにしようかな、なんだか悠輔がどっちも似合いそうだけど選べないって顔してるもんね


 悠輔N:ばれてた


 ひより:悠輔は顔に出やすいんだよ、しょうがないからラムネ一本で許してあげよう


 悠輔:じゃあいつものとこだな、夏はあそこで瓶ラムネ飲まないと夏を過ごしたって気がしないんだよな、今月はまだ行ってなかったから丁度いいな


 悠輔N:お互い自分の浴衣と仁平を購入して店を出る、まだ日差しは強く、アスファルトから登る陽炎かげろうに気だるさを感じながらも昔から世話になっている駄菓子屋に向かう


 ひより:んーこの茹だるような暑さ、夏って感じだね、暑さで汗も止まらないけどこの虫の声も高く青い空もみーんな好きだな


 悠輔N:そう言いながら両腕を広げ全身で太陽と、時折吹く風を感じながら歩くひよりを見て、本当に毎日を楽しく過ごしているんだと感じ、つられてこっちまで笑ってしまう


 悠輔:おいおい、転ぶなよ


 ひより:大丈夫だよ、それより早く!こんな暑い日にはキンキンに冷えたラムネをキメてやりたくなりますよ


 悠輔:どこのおっさんだよ


ひより:えへへ


 ー間ー


 悠輔:おばちゃーんキンキンに冷えた瓶ラムネ2本ね!お金は置いとくから


 悠輔N:勝手知ったるなんとやら、小学生時代からお世話になっている駄菓子屋、この辺の子供も大人も小さい頃から皆お世話になっているしおばあちゃんとは皆顔見知りだ。流石におばあちゃんも歳なのか普段は奥のエアコンの効いた部屋にいるようで、声をかけたら「あいよ~」と小さく返事が返ってくる。

 俺達が小学生の頃からおばあちゃんだけど今はいったいいくつなのか...受け皿に小銭を置いて業務用冷蔵庫から瓶ラムネを2本取り出し、店先のベンチで待つひよりの元へ戻る


 ひより:はー、この日陰とベンチ、古い扇風機に、吊るされた風鈴、最高ですなー...ひゃあ!


 ひよりN:急に首筋に当たる冷たい感覚に驚きのあまり恥ずかしい声を出してしまった。振り返ればニヤニヤと、してやったり顔で見てくる悠輔がいてすぐに何をしてきたのか理解する


 悠輔:ほら!キンキンに冷えたやつ。感謝しながら味わってくれ


 ひより:バカ!ホントバカ!そういうとこだよバカ!本当にびっくりしたよばか!


 悠輔:はっはっはっ、ごめんごめん、後ろから見てたらつい隙だらけだなって思っちゃってさ、これ飲んで機嫌治してくれよ


 ひよりN:笑いながら言ってくる悠輔に軽い怒りを覚えつつも差し出されたラムネに気をよくしてしまう、なんというか自分も分かりやすい性格なんだろうな。

 開けておいた右手側に座る悠輔と2人で一緒に瓶ラムネを開ける

 ビー玉が瓶の中に落ちる瞬間が好き...悠輔のは泡が吹き出て、ざまーみろって舌を出して笑い合う


悠輔:うっわ!こんなに噴き出すことあるかよ


ひより:あはは、普段のおこないの違いじゃないかな?


悠輔:ちっちゃいおこないだなぁ


ー間ー


 ひより:こうやって瓶と風鈴を重ねると絵になるよねー、題名『夏』とか似合いそう


 ひよりN:右手を伸ばして手に持った瓶ラムネを、吊るされている風鈴の横に並べながら覗いてみる、どこまでも青い空をバックに揺れる風鈴と まだ瓶の中で泡を登らせる青い瓶が、綺麗に両目のファインダーに収まる


 ひより:あっ


(※ひよりの右手に持っていた瓶がするりと指から落ちて地面に転がる)


 悠輔:何やってんだよ怪我は?

       

 ひより:大丈夫、あれ?おかしいな?ちゃんと掴んでたつもりだったんだけど...水滴で滑っちゃったかな?あーあもったいない

瓶は割れなかったけど、奢りのラムネを落とすなんて、まだ半分も残っていたのに


 悠輔:流石に3秒ルールはしなくて正解だな

 飲めなかった分は夏祭りに持ち越しだな、祭りなんだけど25日から28日までやってるみたいだね


 ひより:そっか、楽しみにしとくよ


 悠輔:両手に抱えきれないほど食い倒れだな


 ひより:うん、目指せ屋台全制覇!


 悠輔、ひより:ふふふ

        ははは


         ー間ー



 ひよりN:その時は笑っていたけれど、右手に違和感を覚えてからの数日、日に日に物を落としたり掴み損ねることが増えていった…



 悠輔N:8月20日曇り、今日はひよりと図書館に行くはずだったのだがひよりからの連絡でキャンセルになった、なんでも病院に行くらしい

 検査だから心配するなとは言われたけど、なんだか胸騒ぎもするけどどこの病院かも知らされていないので一日部屋で落ち着かないまま過ごした


 ひよりN:8月24日にわか雨

 右手に違和感を覚えてからすぐ、病院に検査に行ってみた。

 結果は分からずさらに大きな病院を紹介された、悠輔には検査だとだけ言ってあるけど、結果がスグに分からず悠輔から心配のメッセージが溜まってきている、どう返事していいものか動かせる左手でとりあえず検査入院と病院の場所まで伝えておいた


 悠輔:ひより!?


 ひより:悠輔?ちょっとくるの速くない?


 悠輔:だって検査って言ってたのにその後なにもわからないままってそんなに重い病気なのかって心配したんだからな


 ひより:うん、どこの病院でも原因もわかってなくて最後にここを紹介されたの。一応検査入院だけど命に関わることじゃないみたいだしそんなに心配しなくても大丈夫だよ。


 悠輔:そうは言ってもさ、もう4日も調べて原因がわからないなんてことあるか?


 ひより:ほんとにたいしたことはないんだけど…皆大げさで困っちゃうよね


 悠輔:大体元気が取り柄のひよりが何があったんだ?


 ひより:なんか右手がね、少し痺れるっていうか、ちょっと感覚がおかしくて、見てもらってただけだよ


 悠輔:命に別状はないんだな?


 ひより:ないない、疲れてるだけかもしれないから安心して


 悠輔:それならまぁ、いいんだけど、祭り、明日から始まるみたいだけど天気、晴れてくれるといいな


 ひより:そうだね、それまでに私も原因分かって、治ってくれるといいんだけど


 悠輔:大丈夫だってひよりは食べ物のためなら、意地でも治しちゃうだろ


 ひより:もー勝手なことばかり言って!


 悠輔:ははは、っと今日はもう面会時間も終わるみたいだから一回帰るな


 ひより:うん、心配してきてくれてありがとう、また何か分かったら連絡するね


 悠輔:了解、じゃぁまたな


 ひより:うん、またね!


      ー間ー


 ひよりN:8月25日雨…


 ひより:…そんなの…ないよ…


 悠輔N:8月26日雨…


 悠輔:ひより…まだ連絡こないか、どうしたんだよ…


 ひよりN:8月27日…雨…


 ひより:…お祭り、明日で最後か…

     ー間ー

 ひより:もしもし?お母さん?お願いがあるんだけど…


 ひよりN:8月28日…


 悠輔:ひより?わざわざ仁平着て病室に来てくれってどういう…っ!


 ひより:あ、悠輔、いらっしゃい


 悠輔:ひよりその格好


 ひより:えへへ、どうかな?お母さんに着付けしてもらったんだけど、似合うかな?


 悠輔:あぁ、めちゃくちゃ可愛いよ


 ひより:そっかぁ、折角買ったんだから1度くらいは着ておきたかったんだ


 悠輔:準備もバッチリだし、そしたらこのまま祭りに繰り出すか


 悠輔N:ひよりの右手を掴んで歩き出そうとする、しかしひよりは動かず俺の左手からするりと抜けていくひよりの右手がだらりとさがる...


 悠輔:ひより?


 ひより:悠輔、ごめんね、ごめん...


 悠輔:どうした?お祭り楽しみにしてただろ?昨日まで嫌なほど雨が降ったけど、最後の今日は雨も上がったんだ、空も出かけてこいって言ってくれてるのに


 ひより:そう...なんだけど...


 悠輔:まさかまだ医者から出歩くのはダメって言われてるのか?それだったらちょっと残念だけど、屋台の品物買い漁ってきてここで雰囲気だけでも


 ひより:違う!...違うの...


 悠輔:ひよ...り...?


┈┈┈<BGMあれば>


 ひより:右手の感覚...無くなっちゃうんだって...


 悠輔:え...ひより...震えて...


 ひより:このまま何も感じられなくなるの、私怖いよ...悠輔に触れても、何も分からないんだよ


 悠輔:...ひより...


 ひより:これじゃぁ約束してた夏祭り、ちょっと行けないね


 悠輔:そんなの...俺がつれてってやるよ


 ひより:どうやって?手を握ったって分からないからほどけちゃうんだよ...


 悠輔:握るだけでほどけるなら離れないように結べばいい!

 それ、サポーターの包帯か?


 悠輔N:サイドテーブルに置かれているソレを手に取り、ひよりの右手と俺の左手を巻いていく


 ひより:そんなの周りに笑われちゃうよ?


 悠輔:他人になんと言われようと、俺はひよりと繋げた手を離さないよ…くそっ片手じゃ、上手く...


 悠輔N:元々不器用で、結ぶ事の苦手な俺には、片手で縛るなんてかなり難易度が高かった、それでも必死に結ぼうと努力していたら、ひよりの左手がそっと添えられた


 ひより:本当に悠輔は、靴紐といい結ぶの下手だなぁ、ほら、一緒に結ぼう?


 悠輔:あぁ、こっち、こうで大丈夫か?


 ひより:うん、そのまま、輪っかに通して


 悠輔:後は同時に、な


 ひより:うん、離れないように結んでね


 悠輔N:2人で同時に左右に引っ張って繋いだ腕には、少し不格好ながらもしっかりとした蝶々結びが出来上がった


 ひより:う...ぐすっ、悠...輔...


 悠輔:なに泣いてんだよ、ひよりらしくない、大丈夫だって、ほら、これなら離れないで夏祭り楽しめるな

         

 ひより:うん...うん!いっぱい食べる、ふふふ


 悠輔:はははやっと笑ってくれた、うん、やっぱりひよりが左にいてくれるとしっくりくる


 ひより:…?


 悠輔:気づいていなかったのか?いつだって一緒にいる時ひよりは俺の左にいたんだよ?


 ひより:自然すぎて全然気づかなかったよ、なんだかここ数日右側が寂しいのは、この右手が動かなくなってきたからなのかと


 悠輔:俺も、ここ何日かつい左を見ては、いつもより視界が開けてて戸惑ったよ


 ひより:じゃあこうやって右手が使えなくても、悠輔がいるから問題なかったんだね


 悠輔:まぁ繋ぎっぱなしでちょっと照れくさいけど、ひより!


 ひより:っ、はい!?


 悠輔:この手は、この蝶は、ひよりと俺の絆だ、簡単には切れないからな、覚悟しとけよ?


 ひより:こっちこそ、沢山引っ張りまわすから覚悟しててね


 悠輔:はは、手厳しいなぁ、行こうか?お祭り、楽しみにしてたもんな


 ひより:…うん!


 悠輔N:8月28日、晴れ

 ひよりの最高の笑顔と一緒に病室を出る、二人の間には不格好な蝶が俺たちの指先から心と絆も繋いでゆらゆらと羽ばたいていた…



 FIN












 

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