第7話 それは私が人間を辞める第一歩でした
『経験値:5,720を獲得しました。レベルが24に上がりました』
頭の中にいつもの声が響いた後、『結局私、ほとんど何もしてないな』なんて事を考えながら自分の分身体に視線を送る。
正直、戦闘が終われば勝手に消えてしまうと思っていた私の分身体は未だ消える事無く、対象となる敵がいないせいか無表情で棒立ち状態のまま私の指示を待っていた。
(視界の端に見えてる体力ゲージと魔力ゲージが2本になってるし、この体力が尽きるまで消えないのかな? じゃあ、今すんごいレベルが上がったけど分身体のステータスって出した時点で決まるのか、それとも随時更新されるのか今なら確認出来る?)
そんな事を考えながら私は分身体に向かって
するとどうやら、この分身体のステータス参照は作り出した時点で決まるらしく11レベルのままで、先程のシャドーと同じくスキルの表示がされることは無かった。
(そう言えば、この分身体って戦闘以外は何が出来るんだろう?)
そう疑問を持った私は試しに分身体に話し掛けて見るが、残念ながら返事が返って来る事は無かった。
だが、色々と試したことで分かったのは目を瞑って意識を集中させれば分身体の視界や聴力を共有出来ること、そのまま分身体の口を使って私が話すことが可能な事、試しにダンスを踊らせればその通りに動いたので戦闘以外でも行動を制御出来る事、出現している間は常に一定の距離を開けて私に付いてくる事を知ることが出来た。
(これ、思ったより便利だなぁ。戦闘で使えるだけじゃ無くて、こっそりと抜け出したい場面とかでは分身体を囮に出来るかも)
そこまで考えたところで、ふと『この分身体って1体しか作れないのかな?』と言う疑問が頭に浮かぶ。
(まあ、とりあえずCP消費だけだから試してみよ)
即座にそう判断した私は技巧値を貯めようと意識を集中しようとするが、そうすると今度は意図せず分身体と感覚を共有してしまうせいで上手く技巧値を上げることが出来なかった。
(つまり、CPが100貯まった状態で使って2体が限界って事かな? まあ、もしかするとスキルレベルを上げるとCPが下がってもっと出せるようになるかも知れないけど)
何にせよ、出しても自由に消す事が出来ないのならば迂闊に呼んでしまうと常に近くに付きまとわれるのはちょっと厄介だろうか。
「あ~あ、スキル解除! とかで消せれば――」
『発動中のスキル【
「……」
どうやら自由に消せるようなので、とりあえず私は「はい」と短く返事を返してスキルを解除した。
「……さて、次はシャドーが落としたアイテムだね!」
気分を切替えようと明るい口調でそう呟くと、先程シャドーがアイテムを落とした位置まで歩み寄り、私の顔とほぼ大きさが変わらない魔石は無視して(どうやってもポケットに入りそうに無いので最初から持って帰るのを諦めた)、その隣に落ちていたネックレスを拾い上げ、直ぐさま鑑定を行う。
戦神の祝福 レア度:神級 装備者へ戦神の祝福をもたらす。
(レア度:神級!? なんか良く分かんないけど凄そうなアイテムって事だけは分かる、かな。と言うか、レア度が数字じゃ無いって事はかなり特殊なアイテムだって事なのかな? あと、『戦神の祝福をもたらす』って何!? もっと分かりやすく書いて欲しいなぁ)
そんな事を考えながら、私はそのネックレスに刻まれている不思議な紋様や見た事も無い赤、青、オレンジ、緑、金、銀、黒の光りを宿した宝石などを一通り観察し、『とりあえずネックレスだし装備してみよう』とチェーンに付いた留め具を外して首に掛けてみる。
すると突然そのネックレスは眩しい輝きを放ち、私が眩しさに目を細めている間に私の体の中へと吸い込まれてしまった。
「えっ!? 嘘! なんで!!?」
突然の事態に困惑しながらも、同時に体に今まで感じたことの無い程の力が宿っているのを感じ、私は慌ててステータス画面を開く。
そして、装備の欄に先程消えた『戦神の祝福』の記載があることを確認しただけで無く、更に驚くべき情報を叩き付けられる事となった。
アイリス Lv.24(次のレベルまで750)
(能力情報)
属性:星・人 疲労度:― 疲労補正:0%
適性武器:剣 適性クラス:
体力:84/92 魔力:13/5,550 技巧値:134/200
攻撃力:342(42) 魔法力:1,126(826)
防御力:344(44) 俊敏力:358(58)
(装備)
武器:無し
防具:布の服、革の靴
アクセサリー:
(状態)
【疲労無効】【全状態異常無効】【CP自動回復】
(おかしい……。いくら何でも色々とおかしい! 何、このステータス!? もう何処から突っ込めば良いのか分かんないよぉ~!)
秒ごとに回復していくHP、MP、CPを眺めながら(HPだけは他2つに比べて遅い数十秒に1くらいだけど)、私は頭を抱える。
(と、とりあえず1つずつ整理していこう……)
そう自分の心を落ち着けたところで私は順番に疑問点を整理していく。
先ず一つ目。
『属性:星・人』の表記についてだ。
そもそもこの世界にあるのは火、水、風、土の基本4属性と、神が扱う魔力に近いとされる上位属性の光、闇の6属性だけが観測されている。
基本属性は火は土に、土は風に、風は水に、そして水は火にとそれぞれ有利に働く(つまり受けるダメージが減り、与えるダメージが増えると言う事だ)傾向にあるらしい。
そして、光と闇はそれぞれ互いへ優位に働くだけで無く、光は基本4属性から受けるダメージを、闇は基本4属性へ与えるダメージが増えるのだという。
そうなると、そのどれにも属さない『星』と言う私の属性はどのような効果があるのだろうか?
考えられるパターンとしては
①どの属性へも等倍
②どの属性へも有利
③どの属性へも不利
④どの属性からも受けるダメージは軽減されるが与えるダメージは増大
⑤どの属性からも受けるダメージは増大されるが与えるダメージは減少
⑥基本4属性へは等倍だが上位属性には――
と数えだしたら切りが無いので一旦この考察は保留しよう。
次にステータス値だが、この上がり方は正直異常だと思う。
恐らく、攻撃力、防御力、魔法力、俊敏力の4つは横に括弧書きで数値が入っており、その数値がどれも左に表示されているステータスの+300になっているので括弧内が通常のステータス、その左が装備によって変動した数値なんだろう。
つまり、先程手に入れた『戦神の祝福』と言うネックレスの効果にそう言った能力があると言うことなんのだろう。
だが、魔法力には括弧書きが無いところを見るとこれは純粋にレベルアップのみでの増加で有る可能性が高い。
そうなると、13レベルの上昇で5,550も魔力が増えたと言う事だが、10レベルから11レベルに上がった時の上昇値が300だった事を考えると一気に上がりすぎではないだろうか?
まあ、他のステータスも綺麗に13の倍数伸びているわけでは無いので、レベルごとに上昇値にばらつきがある、もしくは上昇値は1レベルごとに乱数で決まると言われても反論出来ないのだが。
あと、何気に技巧値の最大が100から200に増えているのだが、これもレベルアップが原因なのか装備アイテムが原因なのかさっぱり分からない。
本当は装備を外して検証してみたいが、残念ながら『戦神の祝福』は光となって私の体に取り込まれてしまったので外し方が分からない。
最後に、新たに表示された(状態)についてなのだが……もはやこれが装備の影響なのかそれとも私の『星』属性に隠されたチート能力なのかは全く判断がつかない状態だ。
まあ、ほぼほぼ装備による影響だとは思うが、ステータス値を合計で1,200も上昇させて更にこれだけの得点が付くのならばチートどころでは無い気がする。
正直、性能で考えればラストダンジョンかクリア後のオマケ要素で手に入る最強装備なのでは無いだろうか?
確かに、レア度が神級となっているのでその線も捨てがたいところでは有るが。
そもそも、今の私は疲労も感じず状態異常にもならないのならば、飲まず食わずの不眠不休でも生きていける体になっているのでは無いだろうか?
果たして、それは正しく人間と呼べる生物なのだろうか?
(はあ、なんかどっと疲れたなぁ。もう考えるのも疲れたし、さっさと先に進んじゃおうかなぁ)
そんな事を考えながらステータス画面を閉じようと手を伸ばしたところで、ふと私はあることが気になってステータス画面を『能力情報』から『習得魔法』のページに切替える。
そう、私の属性欄に適応魔力が表示されたと言う事は、今まで不明になっていた2つの魔法も解禁されたのでは無いかと考えたのだ。
そして、私のその予想はどうやら正しかったらしい。
(習得魔法)
説明:光の魔力を凝縮し、敵へ撃ち出す最上級魔法。
説明:闇の魔力を凝縮し、敵へ撃ち出す最上級魔法。
説明:魔力の塊を火、水、風、土のいずれかの属性に変換して撃ち出す下級魔法。
(たぶん最初の2つが不明だった魔法かな? 消費魔力が凄いからきっと強いんだろうな……。あともう一つはどう言う攻撃なのか良く分かんないなぁ。とりあえず、一発撃つくらいは魔力も回復してるし試し打ちしてみようかな)
そう考えた直後、不思議と『
「世界を構成する基礎たる元素よ。我が下に集いて敵を討て! 火球よ、
詠唱が完了した直後、私の手から拳大の火球が正面に向かって3発放たれ、そのまま壁に衝突すると轟音と共に弾け、凄まじい暴風が室内を駆け回った。
だが、その凄まじい轟音と衝撃とは裏腹に壁には一切傷は付いていなかったが。
(派手なだけでこの魔法って威力が弱い? それともこの広場の壁が頑丈なだけ? とりあえず、技名の前に属性を指定するとその属性の魔法が放たれるみたいだから今度魔力に余裕が有る時でも全部試してみよ)
さて、そろそろ確認する事は以上だろうとステータス画面を閉じようと手を伸ばし、再び私はそこである事を思い付いてステータス画面を『スキル』のページに切替える。
(『
この時、一気に強大な力を手に入れた事で気が大きくなっていた私の頭からはこれまでの数々のやらかしがすっかり抜け落ちていた。
だが、結果としてこの思いつきは正解だったのかも知れない。
何故なら、開いた『スキル』画面でも予想外の事が待っていたのだから。
(保有スキル)
【パッシブ】
縮地 Lv.1/5
不屈
【戦技】
「あれ!? 知らないスキルが増えてる!!?」
慌てて表示されている知らないスキルをタップすると、どうやらそれはスキルレベルに応じて属性魔法の威力を強化し、同時に習得出来る魔法を増やしてくれるもので有るようだ。
(これ、『
しばらく悩んだ末、『どうせ私は性格上弱い魔法の熟練度を順番に上げないと気が済まないから、今覚えてる魔法の熟練度を上げてる間にレベルを上げて次に強化しよう』と結論付け、当初の予定通り『
だが、覚悟を決めてスキルのレベルアップを承認したところで更に予定外の事態が発生する。
『魔力1,500を消費し、スキル【
(あれ? 1,500?? 3,000じゃなくて!?)
慌てて私は『能力情報』を確認するが、魔力は3,000減少した2,550で無く4,050の表記になっていた。
(『
そう考えながら私は直ぐにスキル説明を確認するが、私の予想とは裏腹にステータス反映値は90%まで上がっていた。
(なんで『
この時まだ、私はスキルレベルアップの承認を行う前に「消費魔力を確認」と一言告げれば消費魔力をちゃんと事前に確認出来ることを知らなかった。
そのため、ここで考え無しにスキルレベルを上げる事でせっかく使えるようになった魔法が魔力不足で打てなくなる危険性に一切気付いていなかったのだ。
だが、幸いな事にそんな事態に陥ることも無く、逆に――
『魔力1,500を消費し、スキル【
「えっ!!? こっちも1,500!??」
思わず声を漏らしながらも先程と同じく直ぐにステータスを確認するが、やはり残り魔力は先程の数値から1,500引いた2,550が表示されていた。
(流石におかしいよ。いくら何でもどっちも普通より少ないなんて……)
そうやって思考巡らせる中、ふと私の脳裏に閃きが走る。
(そう言えば、今まで私がスキルに使った魔力って『
そう思い至った直後、私は直ぐさま『縮地』のスキルをレベル5に上げて、残り魔力を1,050まで削り、そのまま(習得可能スキル)欄の1,500消費で習得となっていたスキルを確認する。
すると、やはり予想通り魔力不足で灰色で表示されるはずのスキルは全て習得可能な白文字で表記されていたのだ。
(やっぱりだ! やっぱり習得や強化に必要な魔力が半分になってる! これは私が『星』の魔力に覚醒したから? それとも、まさかアイテムの効果? まあ、どっちにしろこれで今までよりもスキルを取りやすくなったからOKだよね! ただ、これ以上魔力を減らすといざって時に困るだろうし、さっき『
この時、既に新たな魔法である『
あと、今回拾った『戦神の祝福』と言うアイテムは本来のゲームにおいて、ゲーム中1周につき1つしか手に入れる事が出来ない代わりに『熟練度上昇率増加、攻撃力・防御力・魔法力・俊敏力+300、疲労無効、全状態異常無効、CP自動回復、スキル習得・スキルレベル上昇時消費MP減少(50%)』と言う破格の性能を有したバランスブレーカーなアイテムである事を知るのはこれから約10年後の未来のことだった。
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