第4話 否

「王はどこだ!」


 リックと共に国に反旗を翻した。騎士団と衝突して私とリックだけが玉座の間までたどり着き王を探す。

 玉座の間の奥の部屋に視線を向ける私とリック。顔を見あって頷くとリックがかけていく。


「王!」


 扉を蹴飛ばして奥の部屋に入ると王がベッドに横たわっていた。部屋の中には警備はいない。彼がひとりで寝ていた。


「お迎えか?」


 うっすらと瞳を開ける王。リックを見て呟くと涙を浮かべる。私たちを何かのお迎えだと思ってるみたい。リックと顔を見あうと首をかしげる。


「おお、可愛らしい少女じゃな……。おぬし、その目。あの村の」


 私を見た王が声を漏らす。おびえて取り乱し始める。私から少しでも離れたい様子で窓まで体を引きずっていく。


「我が子だけでは飽き足らずに儂まで連れて行く気か。やはり魔女! おぬしは化け物じゃ!」


 王はそう吐き散らす。私は何のことかわからずに首をかしげる。


「我が子ルーンは聡明で未来有望じゃった。あの村に行きさえしなければ、我が国を再興させられたんじゃ。おぬしに会いさえしなければ」


 王は壁に飾られていた短剣を体を引きずらせながら手に取る。そして、私をにらみつけながら言葉をつづっていく。

 ルーン、ルーン……。その名を聞いて幼き日を思い出す。

 母に火をかけられたあの日よりも前。


「君の名前は?」


 とても綺麗な服を着た少年が幼き日の私に声をかける。まだ名前しか言えない私は名を口にすると少年は私の手を取って一緒に遊んでくれた。

 少年の後ろには何人か護衛がついていた。それからも彼がただものじゃないのが伺えた。

 幼き日の私は少年の持っているものに目が向いた。それは豪華な剣、少年が持てるほどの短い剣だったけれど、とても綺麗で目をキラキラさせて見ていたのを覚えている。


「剣に興味があるの?」


 少年はそう言って剣を見せてくれた。わざわざ鞘から剣を抜いて抜き身で渡してきた少年。

 抜き身の剣は私に話しかけてきた。「助けて、助けて」と。そして、私は……。


「いや! 違う! 私のせいじゃない!」


 昔の記憶から戻るとすべてを否定した。

 座り込んで頭を抱える。

 リックは何が何だか分からずに私を抱えてくれる。


「その女を殺すんじゃ! 我が国を崩壊させる悪魔じゃ!」


 短剣を握りながら動かない足を引きずって近づいてくる王。目は血走って、今にも火が飛んできそう。


「違う! 彼女は天使だ! 俺たちを勝利に導いてくれた! 悪魔はお前たち貴族! 王族だ!」


 リックが私を抱き上げて剣を王に突き刺す。王は絶命していく。

 火が城を覆っていく。リック達の勝利の旗が掲げられているのが見える。 


「ジャンヌ。君のおかげだ。本当にありがとう」


 リックは涙を浮かべてそんなことを言ってくれる。私はそんな言葉を聞いても答えることができない。

 

「私のせいで母は……」


 私があの剣の言うままに少年、ルーンを切ったせい。そのせいで村は魔女のいる村と言われて焼き払われた。母は私のせい、私のせいで……。

 あの日のことをただただ思い返す。否定し続けて涙が頬を伝う。

 彼は涙する私を抱きしめて共に泣いてくれる。


「君のせいじゃない。すべてこの国がいけなかったんだ」


 泣きながらリックが慰めてくれる。だけど、私は……。

 火が王の寝室まで登ってきた。私とリックは外へと出ようと歩き出す。


「まずい、火の手が思ったよりも早い」


 リックは焦って声をあげる。周りはすべて火に包まれた。

 私は少し嬉しく思った。これで母のもとへ行けると思ったから、だけど、一つ気がかりなことがある。

 リックは何も悪いことをしていない。正義を貫いただけ。

 バックスさんは彼のお父さんだった。私を助けようとしてくれたバックスさん息子さん。私の村で発見されたバックスさんを不審に思った仲間が調べて貴族の仕業だと分かったらしい。

 リックの部屋に初めて招かれたあの時に判明した。まるで運命の出会いだった。

 でも、それもすべては私のせい、私がルーンを殺めなければ、私があの家にいなければ、私が彼女を殺めなければ……。すべては私のせい。


「ジャンヌ! 君だけでも」


 リックはそう言って私に布をかぶせていく。でも、その言葉だけは言わせない。

 布を躱して彼の唇に唇を重ねる。微笑むと彼は顔を赤くさせた。

 火の光のせいで彼の顔が更に赤く見えて思わず笑ってしまう。


「ジャンヌ」


 嬉しそうに私の名を呼んでくれるリック。でも、私の最愛の人は死んでしまったあの人だけ。リックの目を掌で隠す、そして、彼にかけられた布で彼をくるんでいく。


「な、なにをするんだジャンヌ!」


 布の中から叫ぶリック。私は玉座の間から出られるベランダに出て彼を放り投げた。

 彼の落ちる音が聞こえて痛みを口にするのを確認すると火の中へと身を投げる。

 これで母のもとへと行ける。悔いはない。

 そう、私はそう思っていた。だけど、その自己満足は許されなかった。

 神は私を否定した。

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