第12話 フラフレはどうしても野菜を育てたい
昨日と同じように豪華な夕食をいただいたあと、私はしばらく居候させていただく客室へ戻った。
診療室よりもさらにふかふかそうなベッドにまず注目する。
今すぐにも飛び込みたい。
しかもそれだけではない!
テーブルや椅子、用を足す個室や簡易浴室まで整っているのだ。
さすが王宮の客室というだけあって、豪華すぎる。
だからこそ、私は窓際から外の景色を眺めながら悩んでしまった。
(聖なる力って一度使えなくなっても回復するのかな。すぐにでも使いたいのに)
地下牢に入っていたとき、毎朝聖なる力を発動してからコッソリ野菜を育てることが日課だった。
もしかしたら毎日やっていたことをくり返すことで力を取り戻せるかもしれない。
もう寝る前だけれど、ダメもとでやってみよう。
そう決心したとき、部屋のドアが鳴った。
「遅くに申し訳ありません。アクアです」
「謝らなくても……。どうしたの?」
ちょっと部屋へ入ってきただけなのに、アクアは頭を深く下げた。
気遣いされることに慣れていない私は、全く気にも止めないようなことで謝られるといたたまれない気持ちになる。
「フラフレ様の明日のご予定をお伝えしに来ました」
「あ、はい!」
「朝食を終えたあと、医師の診断を受けていただきます。そのあと診断の結果しだいにはなりますが、やりたいことがあれば可能な限り叶えるよう陛下が仰っています」
「やりたいこと……」
「はい。食べたいもの、読書や花見、どこか行きたい場所などあれば」
「うーん……」
そこまでしてもらわなくても良いんだけれどなぁ。
十分すぎるくらい助けていただいている上に余計な迷惑はかけたくない。
フォルスト陛下は優しすぎる。この二日間、厚い待遇を受けて心配になった。
もし、私がハーベスト王国でされてきたことがバレてしまったら、怒って宣戦布告なんてこともありえる。
「どうかされましたか?」
アクアがさらに聞いてきた。
あまり断りすぎて変に思われたら、私のことを探られかねない。
せっかくだから、フォルスト陛下たちに喜んでもらえそうなことを提案しよう。
私自身もやりたいことでもあるんだけれどね。
「野菜の種か葉っぱを少し分けてほしいな」
「はい?」
「欲を言えば、ジャガイモのように土の中で育つものだったらさらに良いなぁ」
アクアは、なにが何だかわからないような表情をしている。
だが、話し始めたらつい熱が入ってしまう。
「農作業がしたいの!」
「はぁいっ!?」
アクアがものすごく驚いている。
それでも、私の気持ちに嘘はない。
真剣な表情で訴えると、アクアは深くため息をはいた。
「色々とツッコみたいところもございますが……。農作業がお望みでしたら、王宮の裏庭に広い畑があります。陛下に許可を得るのは容易いかと思うので可能でしょう」
「やったーー!」
「しかし……、見てのとおり現在も雨が降り続き、畑として全く機能していません。その上、作業をすればフラフレ様が泥まみれになってしまいます」
「う、うん……」
やはり農作業は厳しいか。
せめて、土さえあれば屋内でも良いんだけれど。
そう伝えようとしたら、私の常識を覆すようなことを言われてしまう。
「……失礼ながら農作業の知識はおありでしょうか? 野菜の葉っぱを植えても育ちませんよ?」
「え!?」
地下牢にいたときは、食事支給で出てくる葉っぱをコッソリ植えて育てていた。
土に負担をかけたくなかったから、私が生きられる最低限で育てていたけれど。
「それに、モノにもよりますが種をまいてから育つまでに何週間もかかるでしょう」
「ん? んんー?」
私が育てたときは、どの野菜も遅くとも三日で食べられるくらには成長していた。
ハーベスト王国の土の質が良すぎたのだろうか。
「土によって育ち方が全然違うのかなぁ。私が育てていたときはもっと早かったよ? 葉っぱからでも……」
「土の質に差があったとしても、葉っぱから育つことはないかと……」
いくらアクアが否定してきても、こればかりは認められなかった。
毎日コッソリと育てては食べさせてもらっていたのだから。
「……まぁ自然と触れ合うこと自体は良いかと思うので、陛下にお伝えします」
「ありがとう!」
「ただし現在は種も貴重品です。お渡しするのは少量になってしまうかと……」
「野菜の食べ残しや、芯の捨てている部分さえ貰えれば大丈夫だよ」
「は、はぁ……。フラフレ様がそう仰るのであれば」
やったーーーー!
久しぶりに野菜を育てられるんだ!
土と触れ合える!
「許可は降りるでしょう。それでは、本日は失礼します」
アクアが部屋から出ていったあと、ベッドの上へダイブした。
さらに左右へゴロゴロ回転してから枕をギュッと抱きしめた。
「むふふふふふふふふぅぅぅぅうう~♪」
(明日は土と遊べるんだぁ~)
ふと、ベッドでごろんごろんしながら窓の方面を向く。
雨が降っていることを思い出した。
「あ、いけない! リハビリしなきゃ!」
すぐに窓の近くまで行き、空を眺めながら祈った。
毎日聖なる力を使うイメージをしておけばそのうち回復できるよね。
『どうか、リバーサイド王国と太陽が仲良くなってくれますように……』
さて、やるべきことはやった。
再びベッドにゴロンとダイブする。
久しぶりに祈ったからなのか、ちょっと疲れた気がする。
でも、このベッドで寝たら疲労なんてなんのその!
「うーーーーん……」
ワクワクして、寝られないかもしれない。
そう思っていたが、ベッドのフカフカには勝てない。
ベッドで横になったらすぐにグッスリと夢の中へと向かった。
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