第7話 フラフレは嬉しいお願いをされる
昨日と同じ食堂でパンとサラダ、それからミルクとスープが用意されていた。
豪勢な朝食を一人で無我夢中でいただいてしまう。
「ごちそうさまでした。朝からこんなに満足したのは初めてです!」
「……左様ですか。本日はフラフレ様のお身体の具合を見ながらですが、やっていただきたいことがございます。全て陛下からの指示ですので」
陛下の指示と聞かされた瞬間、一瞬だが背筋がゾクっとした。
ジャルパル陛下からの命令でやらされたことの数々を、思い出してしまったのだ。
フォルスト陛下はさすがに酷い命令などしてくるとは思えない。
私は何度も自分にそう言い聞かせたが、慣れのせいですぐ納得ができないのだ。
人生の大半を奴隷のように過ごしてきたトラウマはなかなか拭えるものではない。
「な、なにをすればよろしいのでしょうか……?」
恐る恐るアクアさんに聞く。
少しばかり身体が震えてしまった。
だが……。
「新しいお召し物を何着か選んでいただいたあと、大浴場で身体を綺麗にしていただきます。その次は昼食ですね」
「ふぇ?」
気が抜けて、あまりにも情けない声が出てしまった。
「昼食のあとは、しばらくご滞在していただくお部屋を選んでいただきます。決定後、大至急使用人が清掃をおこないますので、その間は私も同行のもとですが、王宮内でご自由にお過ごしください。それから……」
アクアさんの長い説明を聞き、唖然としてしまった。
「そんなに良くしていただいても、お礼ができないです……」
「ふふ。陛下は見返りなど求めたりしませんよ。それに今は、フラフレ様の心と身体が元気になることを第一に考えましょう」
「みなさん優しすぎですよ……」
元気になったら、きっと聖なる力も使えるようになるかもしれない。
もしもそのときがきたら、コッソリとこの国に使ってみよう。
私が意識を取り戻してから、外はずっと雨だ。
ジャルパル陛下が、『隣国のリバーサイド王国はずっと雨が降り続いてろくに収穫できていない』と言っていたっけ。
あれ……?
だとしたら、今朝と昨晩のご馳走ってどうやって……。
「さ、フラフレ様。まずはお風呂のあとに着ていただく洋服を選びましょう!」
「え、あ、ちょっと……、あの」
聞きそびれてしまった。
♢
「衣装ルームになります。この中からお好みのものお選びください」
「ふぇええ……。どれでも良いのですか?」
「もちろんです。陛下の指示ですので、自由にご覧いただき着用してもらって構いません。なお、異国でデザイナーをされている王妃からご提供くださった衣装が別室に飾られていますが、そちらだけはご遠慮ください」
「あ、はい」
そんなにものすごく価値のありそうな服なんて、むしろ恐れ多くて着たくはない。
それにしても、世の中にはこんなにたくさんの種類の服が存在しているなんて知らなかった。
「なお、今回選んでいただく服は、全て贈呈となります」
「ぞうてい?」
「つまり、プレゼントということです。フラフレ様のものになります。……おっと、遠慮しようとしていますがお気になさらず。むしろ、王宮を歩く上では、ある程度清楚な服装でいられたほうがよろしいかと」
もらえませんよと言う前に止められてしまった。
高貴な場所でボロの服でうろつくのは問題だとは私も思っていた。
ここはお言葉に甘えることにしよう。
「ありがとうございます……」
さて、選ぶとしても多すぎる。
私はもし元気になれたら、野菜を育てながら土と戯れたい。
そもそも私にはどういう格好がふさわしくて似合うのかさっぱりわからない。
ここはアクアさんに選んでもらったほうが良さそうだ。
「あの……、多すぎてどれが良いのか……。もし良ければ選んでいただけたら」
「私がフラフレ様の服選びをしてもよろしいのですか!?」
「そのほうが私も助かります」
「で……、ではフラフレ様に似合いそうな服を選ばせていただきます」
アクアさんはものすごいスピードで手際良く服をかき集めてきた。
「ひとまず、入浴後に着ていただこうと思っている服を選びました。気に入っていただければ幸いです」
「ありがとうございます! 選んでもらったのに嫌だなんて言いませんよ」
「フラフレ様は優しいのですね。でも、気に入らなかったら遠慮なくお申しつけください。それでは大浴場へ向かいましょう」
大浴場って一体どのようなところなんだろう……。
ここは王宮なわけだし、どんな所であっても驚いたり叫んだりしないよう気をつけなきゃ。
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