HP五兆の最後
大魔王との最後の決戦。
目の前には見渡す限りのモンスターの群れ。
後ろには、俺達を助けようと駆けつけてくれた百万人の仲間達(全員HP1)。
そして、それを見下ろす俺達の頭上には――!
「ククク……! さあ始めるぞ! 人か魔か……この世の支配者を決める最後の戦いを! ゆけぃ、我がしもべ達よ……! 余が攻撃力五兆の〝絶対破滅大魔王砲〟の魔力をチャージするまでの時間を稼ぐのだッ!」
「ギャオオオオオオオン!」
「攻撃力……五兆っ!?」
自分の〝攻撃力は五兆〟だと、心底ふざけたことをのたまう大魔王。
だが、俺にはそれが大魔王のハッタリじゃないってことが一発で分かった。
これも同じ五兆のステータスを持つ者同士のシンパシーって奴か……!
けど、まず俺が……〝俺達がやるべきこと〟は――!
「ディライズ! 頼めるか!?」
「へへっ! タクトならそう来ると思って準備してたぜ!」
「タクトさん……。本当に〝その方法〟で、大魔王に勝つおつもりなんですね。なら、僕からは何も言うことはありません……!」
「タクト……! みんな……」
最後の決戦。
俺達は百万人の味方全員を庇いながら、俺のHP五兆すら消し飛ばす大魔王を倒さないといけなくなった。
はっきり言えば、絶望的な状況だ。
けどこの絶体絶命の戦場で、今まで数々のピンチを一緒に乗り越えてきた俺達に、事前の打ち合わせや作戦会議なんて必要なかった。
俺もディライズも。
ハルートもピヨリも。
ただ俺の一言だけで、全てを理解して頷いてくれた。
なら、後はやるだけだ――!
「俺達は最後の最後まで、誰一人だって死なせたりしないっ! 行くぞみんな――!」
――――――
――――
――
「ぐわあああああああああああっ!?」
視界が霞む。
今まで俺が見たこともない超速度で、辺りの景色が流れていく。
百万人の味方全員を庇う。
普通に考えればそんなこと不可能だ。
けど俺達には、〝光の速度で動ける〟伝説の勇者ディライズがいる。
だから、俺は――!
「ぐぐぐぐぐぐぐぐわわわわわわわわああああああああああああ!?」
「大丈夫かタクト!?」
「俺に構うなディライズ! お、俺のHPはまだ4999998857881あるっ! 今はとにかく、援軍に来てくれたみんなを守るんだ!」
「タクト……! お前って奴は……!」
ついに始まった戦い。
今の俺はディライズに抱えられ、盾のように掲げられながら、〝光の速度〟で戦場を駆け抜けていた。
苛烈を極める無数のモンスターと連合軍百万人の戦い。
しかし今のところ、連合軍側に1ダメージでも受けた奴は一人もいない。
なぜなら、戦場全てのモンスターの攻撃を俺が光の速度で受け止めているからだ。
「ぐわあああああああああっ!?」
「ゆ、勇者様!?」
「HP五兆の男が、俺達を守ってくれてるのか……!?」
はっきり言って無茶苦茶な作戦だ。
五兆フルにあった俺のHPもあっという間にゴリゴリ減っていく。
けどな――!
「っ! 意地を見せるぞ連合軍! 俺達の世界は、俺達全員で取り戻すのだ!」
「「おおおおおおおおお――!」」
「グギャオオオオオン!?」
だがそれと同時に、あらゆる攻撃を無効化されたモンスターの軍勢は、どんどんと連合軍の勢いに飲み込まれていった。
俺達に庇われた連合軍のみんなが、気勢を上げてモンスター共を蹴散らしていく。
「ククク……! なんと愚かな男よ……。ただでさえHP五兆だけでは余の一撃に耐えられぬというのに、自ら貧弱な雑魚共のために貴重なHPを削るとはなァ!?」
「黙れッ! 連合軍の兵士達が、どんな気持ちでこの戦場に来たか分かるか!? 誰だって死にたくなんてない……! 〝HP1で戦いたい奴なんていない〟んだッッ! それなのに俺達のために来てくれたみんなを……死なせたりするもんかっ!」
「クハハハハハッ! よかろう……ならば貴様の望み通り、その大切な仲間達と共に消え去るが良い! 喰らって死ねぃ! 攻撃力五兆……絶対破滅大魔王砲――!」
「……っ!」
来た。
ついに大魔王は、攻撃力五兆の一撃を俺達めがけてぶっ放した。
目も眩むほどの光が戦場を包む。
連合軍もモンスターも、平等に消し去るだろうその光は、どこか神々しさすら感じさせる光だった。
そして――。
「ディライズ……後は頼んだぞ!」
「ああ……! 俺なんかより、お前の方が立派な勇者だったぜ――っ!」
瞬間。俺はその光めがけて飛んだ。
ディライズ渾身の力で投げ飛ばされ、光めがけて一直線に昇っていった。
これが俺達の作戦。
最初から、俺達はこうするつもりだった。
「ほう!? 正面から余の一撃を受け、少しでも味方への被害を減らそうというのか!?」
「――違います! 僕達は、最初から死ぬつもりなんてない!」
「なに!?」
だがその時。大魔王の光めがけて飛ぶ俺の横を、今までずっと貯め続けた魔力を解放したハルート渾身の一撃が追い抜いていった。
ざっと見た感じ、このハルートの攻撃のダメージは12000000ちょっと。
さすがに大魔王の五兆には届かないが、それでも――!
「タクトさんは死なせない……! 僕のこの一撃で、お前の攻撃力を少しでも削ってみせる!」
「ぐぬぬぬッ! まさかそのような策を用意していたとは……! だが残念だったな! ならば尚のこと、とるに足らぬ雑魚共を庇ったのが命取りよ……! すでにHP五兆の男は、〝HP五兆ではない〟のだあああああああ――――ッ!」
大魔王とハルートの魔力がぶつかって渦を巻く。
ハルートの攻撃を受けた大魔王の光が、ほんの少しだけ弱まる。
そしてその凄まじいエネルギーの渦めがけ、俺は両手を広げて突っ込んだ。
「ぐわあああああああああああああああっ!?」
「フハハハハハハハ! 消え去れHP五兆の男よ! たがか12000000ほどダメージを削られたところで、我が一撃から逃れることはできん!」
とんでもない衝撃。
俺の中にあるHPが凄まじい勢いで溶けていく。
俺の脳内に、俺自身のステータス欄がノイズ混じりに浮かぶ。
HP5000000000000/14955……12811……9436……3189……1753……981……。
「ハーーーーッハッハッハ! 勝った! HP五兆の男は、ついに大魔王である我が力の前に――」
「――お前もこれで終わりだけどな!」
「ガ、ハ……ッ!?」
光の中に消える意識。
その向こうで、勝ち誇る大魔王を俺達の勇者ディライズが真っ二つに斬り裂いたのが見えた。
よかった。
全部、上手くいったな……。
ハルートのお陰で、大魔王の攻撃は殆ど俺のHPで受け止められそうだった。
けどそれは本当にギリギリで……後10とか20とか、もしかしたら本当に数ポイントだけ、下の戦場に落ちてしまうかもしれなかった。
でも大丈夫だろう……。
数ポイントのダメージなら、きっとハルートやディライズがなんとかしてくれる。
俺は、ちょっと無理そうだけど……。
でも……みんなのことを、守れてよかった……。
「タクト――っ!」
けどその時。
光の中でHP五兆全てを溶かした俺の耳に。
いつもと同じ、必死に俺を呼ぶピヨリの声が聞こえた気がした――。
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