第38話 海よりも深い愛を探して 白馬の王子様の秘密2

 所変わって、達彦はというと。


「そろそろ見つかった」


 磯野マネージャーが聞いてきた。


「いえ、全滅です」


 達彦は肩を落としながら言う。


「じゃあ、そろそろ私の出番って訳ね」


 磯野マネージャーは目を爛々とさせている。


「いえ、それは無いです」


 達彦はきっぱり言った。


「どーしてよ」

「どうしてもです」

「むむ、私じゃ不足ってこと」

「そうです。長年付き合ってきましたが、磯野さんにお笑いは向いてないです。ボケならまだしも突っ込みはあり得ません。僕が欲しいのは突っ込みです」

「がーんこ親父」


 達彦のギャグを使う磯野マネージャー。


「はいはい」


 それを達彦は面倒臭そうにあしらった。


「でもどうするの。コンビ。見つからないんじゃどうしようも無いじゃない」


 磯野マネージャーが居座り直ってそう言った。


「それはそうなんですよね。もう一度本命にアタックしてきますよ。望みは薄いけど一度で引き下がるわけにもいかないですし」

「おお、そうだね。まだ一回しかアタックしてないならもう一度アタックしてみるべきだね。よし、じゃあ今度こそ私の出番だね」


 磯野マネージャーが胸を張る。


「えっ」


 達彦が頭にはてなを浮かべた。


「私も付いていきます」

「えっ」


 驚く達彦。


「一人じゃダメだったんでしょ。じゃあ今度は二人で行きましょ。私も本命だというその人を見てみたいし、マネージャーとして」


 そう言いながらテキパキと準備をする磯野マネージャー。達彦は何か言い返そうと思ったが、見守るに止めた。一人では可能性が低いのは変わらない事実だ。ならば。磯野という新要素がどう影響するかを見てみるべきだろう。そう思ったのだ。




「愛海」


 達彦が愛海を呼び止める。愛海の家に向かおうと思ったのだが、たまたま通りかかったカフェの入り口で愛海を見つけたのだ。


「達彦」


 愛海が振り返り達彦を確認すると、はてなを浮かべながら達彦の名前を呟いた。


「ちょうど良かった。今会いに行こうと思ってたんだ」


 隣に男がいたが、達彦は構わずに話し掛ける。


「私に会いに」


 愛海は突然のことで頭が回っていない。


「頼む、僕とのコンビの件、もう一度考えてくれないか。君しかいないんだ。僕のボケに上手く突っ込めるのは」

「私からもお願いします。私は達彦のマネージャーです。達彦は今クビになるかどうかの瀬戸際なんです。お願いします。協力して下さい」


 達彦と磯野マネージャーが頭を下げた。


「あ、ああ。前言ってったコンビの話」


 愛海は合点がいったようである。


「コンビ。愛海はお笑いもやるの。そこの人、お笑い芸人の達彦だよね」


 隣の男、白馬が様子を見て話し掛ける。


「私はお笑いはやらないわ。下品だもの。達彦、この話は前も断ったよね」


 愛海が少しイライラしたような口調で話す。


「ああ、わかってる。ただどうしても愛海と組みたいんだ。愛海となら再ブレイク出来るかもしれない。いや、出来る。だから一緒にお笑いの頂点を目指そう」


 達彦が熱のこもった弁で愛海を説得する。


「それは、私が好きだから」


 愛海がそう聞くと、磯野マネージャーが反応する。


「えっ、どういうこと」

「私達、昔付き合ってたのよ。前会った時も寄りを戻すこととコンビになるかを聞かれたわ」

「何それ、初耳」


 磯野マネージャーが目を丸くした。


「いや、今回はコンビでのみの申し込みのつもりだよ。二つ一気になんて虫が良すぎた。反省してるよ」


 達彦は視線を斜め下に見やってそう言った。


「そう、ま、私は今日からこの人と付き合うことになったから、恋愛的なものは即断るけどね」


 愛海が白馬の腕を掴んで引き寄せた。


「こんにちは。愛海の彼氏の白馬です」


 急なことで白馬もびっくりしたが、空気を読んで自己紹介する。


「そう、なんだ」


 達彦は白馬を見やると、すぐに視線を外してそう呟く。


「あれ、白馬さんどっかで会ったことありません」


 と、磯野マネージャーが白馬の顔を見て、何かを思い出すように聞いた。


「えっ」


 白馬は磯野マネージャーの顔をまじまじ見ると、一瞬目をかっと開く。


「あっ、いえ、気のせいでは。初めましてだと思います」


 そして、愛海の陰に隠れるように磯野マネージャーから視線を外し、後ろに下がる。


「ああ、そうですか」


 そう言いながらも何か引っ掛かるのか、磯野マネージャーは白馬の顔をまじまじ見る。と、その様子を受けて、気分を害したのか。愛海が磯野マネージャーの視線を遮った。


「ともかく、お断りします。これで話しは終わりね。じゃあ、私達は失礼するわ」


 そう言って、愛海は白馬と共にその場を去って行った。


「ダメか」


 達彦がその背中を見やってポツリと呟く。もう、二人は街の喧騒に包まれて見えなくなっている。


「あっ、思い出した」


 と、磯野マネージャーがずっと悩んでいたようでそこから解放される。


「ホストクラブで会ったんだ。確かタツって言ってた」

「ホストクラブ」


 達彦が反応する。


「うん、リーセントって言うホストクラブ。そこのナンバーワンがタツであの人にそっくりだった」


 磯野マネージャーもホストクラブに行くんだと、達彦は一瞬頭にそんなことが過ぎったが、この際今はそれは良い。


「二人はホストクラブで出会ったってこと」


 達彦が聞く。達彦が知る限り愛海はホストクラブに行くような人じゃない。


「うーん、たぶん。あんまり言い噂のあるホストクラブではなかったけどね」

「どういうこと」

「はまった女の子を風俗に堕として、その金を吸い上げようとするホストクラブだって聞いてる。まあ、はまらなければ普通のホストクラブよ。でも、応対が良いからはまりそうになる気持ちはわかるけど」


 どうやら、磯野マネージャーはその界隈に詳しいらしい。


「はまった女のことを風俗に堕とすって。それじゃあ愛海も危ないじゃないか」


 達彦は激しく動揺する。


「まあ、噂よ噂。それに本当の彼女なら風俗に堕としたりしないでしょ」

「本当の彼女なら、ね」


 達彦としては、ホストという人種をあまり信頼していない。女をとっかえひっかえしているイメージだ。あくまで偏見だが、愛海がその一人かもしれないと思うと、どうしても湧き上がる気持ちがあった。


「その様子だと、あの子のこと好きなこと。本当なんだ」


 磯野マネージャーが言う。


「え、ええ。どうにかしてあの男から愛海を引き離さないと」


 と、達彦がわたわたと二人を追おうとする。


「ちょっと待った。まずは色々身辺調査をしないと。気持ちはわかるけど、まだ騙されてるって決まったわけじゃないし。良い探偵知ってるから」


 磯野マネージャーが行こうとする達彦の手首を掴んで制止する。探偵まで使うべきかは迷ったが、仮に白なら達彦も愛海にあまり引っ張られないで済むと思ったため、使ってみるのが良いと思ったのだ。

 磯野マネージャーの制止もあり、達彦も少し冷静になる。磯野マネージャーの提案を受け入れ、二人は愛海と白馬のことを調査することになった。


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