美波街フラワーショップ ~おばけなお兄ちゃんと秘密なカンケイ~
コイル@委員長彼女③6/7に発売されます
第1話 お母さんの再婚とお兄ちゃん『たち』
「今日からよろしくおねがいします。
私は窓から海が見える部屋でぺこりと頭を下げた。
壁にはたくさんのドライフラワーがかざってあって、すごくかわいいお部屋なのに私の心臓はばくばくと大きく動いていた。
でも横に座っているお母さんがやさしく手をつないでくれるから、大丈夫、怖くない、落ちついて!
前の席には、お母さんが二度目の結婚を決めた幸次郎おじさんと、後ろに若い男の人が立っているのが見えた。
私はその人を見ながら、
「あの……今日は幸次郎おじさんしかいないって聞いてたんですけど……後ろに立っているのはお兄ちゃん……大地くんですか? でも同じ中学生って聞いてたんですけど……写真で見るよりすごく大人びてるんですね」
と聞いた。
するとお母さんはビクリとして私のほうをみた。
前の席に座っている五十嵐幸次郎さんは目をほそめてほほえんだ。
「我が家へようこそ、立夏ちゃん。その人の顔はおじさんににてるかな?」
私はその人の顔と幸次郎おじさんの顔を見比べる。
よく見ると、まっすぐで優しそうな瞳と……、
「にてます。茶色のふわふわした髪の毛……同じですね」
私がそういうと、幸次郎おじさんは、
「右目の下に大きなほくろ……黒い点があるかな」
と聞いてきたので、私は再びその男の人の顔をじっと見て、
「あります」
と答えた。すると幸次郎おじさんの目から大きな涙がぽろりと落ちた。
私は突然泣き出した姿に驚いてしまった。
大人が泣いてる?! 私は大人の、しかも男の人が目の前で泣いたのははじめてでドキドキしてしまう。
幸次郎おじさんは涙を止めないで、
「それはきっと高校生だった時に転落死した俺の息子……
そういって幸次郎おじさんはぽろぽろと涙をこぼした。
ほんとうに修一が見えている?
あっ……しまった。
私、失敗しちゃった?!
よく見ると幸次郎おじさんの横に座っている男の人……修一さんは少しだけ透けていてキラキラと輝いていた。
ずっと『よく見るようにして』口に出さないように気を付けていたのに!
はじめての場所で緊張して『よく見ていなかった』!
私はくちびるをかんでうつむいた。
「お母さんごめんなさい。また失敗しちゃって……ごめんなさい……普通にできなくて、ダメな子でごめんなさい……」
新しい日々を始める……そんなすてきな日に大失敗をしてしまった。
つらくて悲しくて、来たばかりなのに逃げ出したい!
私が泣きそうになっていると、横にきた幸次郎おじさんが私の背中をなでてくれた。
「立夏ちゃんはなにひとつ悪いことをしてないし、ダメな子じゃないよ。おじさんは修一がここにいると教えてくれてうれしいんだ、どんな顔かな? うれしそう? 悲しそう? 話はできるのかな? おじさんに教えてくれないかな、すっごくうれしいんだ、こんなうれしい日は久しぶりだよ」
そういって幸次郎おじさんはまた涙を流した。
その言葉に私は驚いちゃった。
え? 『このことを』口にしてもいいの?
おそるおそるお母さんのほうを見ると、お母さんは静かにうなずいていた。
私は後ろに立っていた男の人……修一さんのほうを見た。
修一さんは大きな真っ黒な瞳に、キラキラとした茶色の髪の毛、それに身長がすらりと高くて……すごくかっこいい。
そして、
「わお。俺が見える人はじめてだ、よろしくね」
と目を細めてほほえんだ。
その笑顔はサラリとしていて、どこか冷たいかんじなのに、それでいて大人っぽくて。
学校でみんながキャーキャー言っていたアイドルなんかより全然かっこよくて、心臓がどきりとした。
存在しない、みんなが怖がる『おばけ』という存在だと知ってるのに。
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