第19話:覚悟を汲み取れていなかった
「というようなことがあった。しかし、あんなことがあっても、お前はまだ俺を信じていたんだな」
白蛇、おっとマキか……に俺とドラッシャー達との関係を説明し終わる。マキは納得といった感じで頷いている。
「そりゃあ、だってクローさん演技下手過ぎですし、泣きながら俺達のことを嫌いだなんて言っても説得力なんてあるわけないっすよ! ははは」
「え!? 俺はあの時泣いてなんかいないぞ!? 泣くまいと我慢してたんだからな!」
「いやその……普通に泣いてましたよ? 確かにこらえているようには見えましたけど、めっちゃ泣いてたっすよ? というか、別に演技じゃなくて、本当にクローさんが俺達を騙していたとしても、あんたは、俺達にとって神様っすよ。元からあんたに救ってもらった命、人としての誇りを取り戻してもらったんだ。だからこそ、俺達は国を作ることができたんすから」
「は? 国?」
国を作った? ドラッシャー、何を言ってんだ?
「ああ、実は、あの後。みんなで話し合ったんすよ。俺らのような弱い立場の者たちを守り、育て、理不尽と戦うための国を作ろうって。クローさんに救われた命で、あの方がやりたかったことを、俺達が代わりにやろうって。それでとりあえずは領主に奴隷にされ、奪われた村人達を取り戻しに領主の街を攻め落としたんすよ。それで、結局領主は邪教とズブズブの関係でして、俺達が領主を殺しても、領民は好意的に受け入れてくれた。で、それに怒ったお上【ゴンバ王国】が俺達に戦争を仕掛けてきたけど、返り討ちにして逆に吸収。いまは【ナギ・ゴンバ神国】に生まれ変わったんす。今は俺がその代表をやってまして」
「ええええええええええ!? お前じゃあ国王!?」
なんか、ゴンバ王国っていうのがナギ・ゴンバ神国っていうのに戦争で変わったって、風の噂で耳に入ったことはあるけど……ドラッシャー達に関係してたなんて知らなかったぜ……ドラッシャーが一国の王……たまげたなぁ。飢えから盗賊まがいの襲撃を行った、骨と皮だけのブサイクなガキが……立派になったもんだぜ。
「王、まぁ王は王ですけど代行王と名乗ってるんすよ。蟲神の代わりに国を治め、人々を守り育てる。そういう意味で。名乗らせてもらってます」
「おま……まぁ勝手に消えちまった俺がどうこう言えることじゃねぇし、そもそも良いことをやってるんならなんも問題はねぇよな。けど、国王が直接俺を助けるために出てきたりとか大丈夫だったのか?」
「はは、それがみんな後押ししてくれたんすよ! クローさんを助けにいくんならドラッシャー、お前が最もふさわしいって、お前の償いは終わっていないだろってね。それにうちの国はみんな優秀だから、別に王がいようといまいとちゃんと回るんすよね。抗議運動をしてた時、周囲にいたやつらは一般人に偽装したエリート兵だったんで一応安全は確保されてたんすけどね。それに国王自ら抗議に来たってんでインパクトもあった。内政干渉だと批判もでるでしょうが、俺らは元から邪教と敵対する国々とも仲がよくて、彼らも巻き込んでましたからね。もし俺を強引に排除するなら、俺らだけじゃなく、他の国も敵に回すことになる。ドットルードは別に戦力が充実した国でもないんで、仮に戦争になっても勝てますし、何より俺らもフロストペインのことを聞いて怒ってたんで」
ど、ドラッシャーお前……育ったなぁ。国王ってよりは、族長って感じのノリだけどリーダーとしてしっかりやってきたのが伝わってくるぜ……出会った時は16だったから……今こいつは31か。修羅場を潜ってこの年齢、優秀だな。もの凄いマッチョになっていることも考えると、こいつ自身の戦闘力も結構ありそうだ。
「で、クローさん、邪教との戦いですが、クローさんはどうするつもりっすか? 俺としては、邪教勢力の強い西側に切り込んでいくべきだと思ってるっすが……」
「え? あ……? ちょっと待てよ。お前ら、邪教と戦争するつもりか? 俺は未来を見てねぇようなイカれ復讐者としか一緒に戦うつもりは……」
「お兄さん甘いも!」
「そうっすよクローさん! 考えが甘いっすよ! 時勢を読んで下さいよ時勢を……もはや邪教とそれ以外の対立、大戦争は避けられないっすよ。必ずデケェ戦が起こります。ここで先んじて、やつらよりも多く動くことで、人死にを減らすことができるんすよ。逆に、ここでまともな人間を巻き込みたくないなんて優しさは、逆に悲劇を増やす結果に繋がるっすよ?」
マキとドラッシャーからお叱りを受ける。そうか……時代の流れ的にはそうなってんのか……でも、だとすると……マキはもしかして……大戦争が起こるとわかって、この流れを生み出したのか? マキ、それは……それは違うんじゃねぇか?
「おいマキ……お前は、大戦争が避けられなくなると知って……この流れを生み出したのか?」
「……そうだも」
「お、お前……! 自分のやってることちゃんと分かってんのか? 関係ないやつまで巻き込んで、人が、大量に死ぬんだぞ!? 戦争は! 一度始まったら、後戻りなんて、できねぇんだぞ?」
マキは大戦争が起こることを知っていたうえで行動した。理不尽と悲劇によって殺されたこいつが……他の無関係なやつにまで悲劇を波及させようとしている。嫌っている理不尽そのものに、こいつはなろうとしている。マキ、それは……お前の心を、未来を縛るぞ……血なまぐさい世界から、逃れられなくなる。
「お兄さん、あたしはもう……覚悟を決めてるんだも。あたしが傲慢なのはわかっているも! だけど、だけど! 許せないんだも! 邪教だけじゃないも! その存在を許して、見ないふりをしてきたやつらも! 許せないも! 戦いから逃げて、誰かに押し付けてきた! だから、ここであたし達が戦わないことは! 次世代にその業を押し付けることなんだも! そんなのは絶対嫌だも! 絶対許せないんだも! 戦いがいつか起こるなら、ここで! ここで終わらせるんだも! こんなことはこの時代で最後にするんだも!!」
「マキ……そうだな、俺が甘かった。そこまでの覚悟が、考えがあるなんて俺は知らなかった。俺は……他の世界から来て、地獄にずっといて……自分が今は地上で生きる命なんだって、自覚がなかった。どっか……傍観者のような目線だったのかも知れねぇ。あんま、俺がこの地上を引っ掻き回すのは、違うと思ってた。だけど……そうだな。俺の甘さが、この地上に、次に生まれてくる命達に、過酷を背負わせるぐらいなら! 俺は、俺は覚悟を決める! 必ず勝つ。勝って、終わらせる」
マキの思いを聞いて、俺はコイツを止めることなんてできないと思った。そんな資格、俺にはない。俺にできることは、これから起こる大戦争で、死んでいく人々を、悲劇を少しでも減らすこと。それは、邪神共より早く、多く動くこと。
「俺は西へ行く。ドラッシャー、お前たちもお前たちで動け。俺は人間と一緒に行動はできねぇからな。だけど、お前たちとマキなら別だ、お前らで情報共有をしてくれ。俺はマキから情報を受け取って動く。こいつを渡しておく」
俺は腹に手をつっこみ。あるものを取り出し、ドラッシャーとマキに手渡す。
「なんすか? この石は……」
「地獄で開発された長距離念話装置だ。まぁ俺が地獄から出てくる時にもらったもんだから、15年前のモノ、おそらく邪教はこれよりも性能の高い次世代型を使ってるはずだ。だが旧世代型のこいつでも、取れる選択肢は劇的に広がるはずだ。最高位の神官でも長距離念話なんて普通はできねぇからな」
「え……? こんなものを邪教のやつらは使ってたんすか? だけど、やつらがこんなものを使ってるなんて、使っていたならとっくに発見されていたはず……」
「そりゃ内蔵型だからな。精神体に寄生させることで活用するから、魂まで調べないと意味がない……あれ? だけど……デルタストリークなら気づいてそうなもんだけどな……まさか……デルタストリークが重要視してなかったせいで知られていなかった……?」
恐ろしい可能性に気づいてしまう……神々はやろうと思えば長距離の念話など容易だ。だから大した事じゃないとデルタストリークは思っている可能性……あ、ありえる……神々から邪教との対立を許可されていながら、まるで邪教を追い詰めることのできなかったデルタストリークならばありえる……とりあえずデルタストリークを念話で呼んでみる。ラインマーグとデルタストリークは俺に長距離念話のパスを繋げているので、話せるタイミングであれば、会話が可能だ。
「呼んだかな? クローくん。今日は新たな神の仲間を連れてきた! これからは彼女も、炎神ハルパーも私達に協力してくれる!」
ニコニコ顔のデルタストリークが、女神を連れてやってきた。炎神ハルパーというらしいが、今はそんなこと、どうでもいい。
「おい、デルタストリーク。こいつを知ってるか?」
「え? ああ、邪教徒共が使っている長距離念話装置かな? それがどうかしたのかな?」
ドラッシャーとハルバーの顔が青ざめる。マキはまぁそうだろうなと呆れることすらなかった。
「おま……デルタストリーク……知ってるか? 長距離念話は……最高位の神官だとか、大魔道士レベルの強者しか、普通は使えないんだぞ?」
「え? そうだったの? でも、念話なんてみんな普通にできるし……別に高位の神官じゃなくても念話はできるから……」
「お前が高位の神官相手じゃなくても念話できるのは、神のくせに念話のパスを繋げまくってるからだろ……それに、普段お前の周りにいるのは神だろ? そりゃ神は長距離念話ぐらいできる。想像してみろよ、念話のない生活を。地上の人間は基本的にその状態だ、これがどれだけ強力な力か……わからないか?」
「……やばくないか?」
やばくないか? じゃねーよ……やはりデルタストリークは記憶を瞬時に見ることができても、それで得る情報で何が重要なのか? 見るべきところはどこなのか? 分かっていない可能性が高い……もしかしたら断罪することが役割ゆえに、悪意と犯した罪以外には感度が低いのかも知れない。罪を断罪することに特化してしまったが故に、他のことができなくなってしまった。
「おい、デルタストリーク。お前というやつは……まぁそれも致し方ないか。やはり、デルタストリークが”そういうヤツ”だと言うことを意識して、周囲の者がこやつの力を有効活用せなばならんな」
炎神ハルバーはデルタストリークに呆れつつも、まぁ仕方ないと受け入れていた。俺もデルタストリークにありえねぇと思ったが、よくよく考えれば、炎神ハルバーの考え方が正しいのかもしれねぇな。デルタストリークは創世神に直接生み出された神で、固定された役割を持って生まれてきた。役割をこなすためだけに生まれてきた。
デルタストリークはある意味で機能制限を受けているんだ。強すぎる力のバランスをとるために知力を制限された。だとするなら、仕方のないことだ。神々は基本的に成長しないらしいからな。どうしようもないことだ。新たな知見を得ても、能力は変動しない。だとすると……成長を続けるラインマーグは、邪神だけでなく、神々にとっても脅威なのかもしれないな。
「まぁ、馬鹿に馬鹿と言ったところで何かが変わるわけでもないしな。おい、そこの、お前がウナギィ・クローだな? 不気味で気色の悪い顔だな、それで本当にラインマーグの友なのか? 邪神の眷属にしか見えんが……」
会っていきなり暴言を吐かれた。炎神ハルバー……キツそうな顔をしているが、性格もキツイらしい……
「確かに不気味な見た目だが、ラインマーグは人を見た目で判断しない。むしろそういった行いは、ラインマーグが嫌うことだぜ」
「あっ……」
「ん?」
なんだ? なんでハルバーは焦ってんだ? やべ、やっちまったって顔だ。
「もしかして今あんたが言ったことをラインマーグに言ったら困るのか?」
「うわああああああああああ!! やめろやめろやめろ!」
もの凄い勢いで俺を止めようとするハルバー。出会った当初のクールだったハルバーのイメージは一瞬にして崩れ去った。
「なるほどな……ラインマーグが好きなのか。あいつイケメンらしいからな」
「そうなんだクローくん! ハルバーはイケメンに甘くて、それ以外にはキツイ、特に醜い存在に対しては当たりが強くてね……まぁこれも彼女が炎神だからかな? 炎神はゴミを燃やしてキレイにするという、掃除の神としての役割もあるから……汚いものや醜いものに不快感を抱くようなんだ」
「黙れデルタストリーク!! ワレはお前とは違う!! ワレは本能に負けたりはしない!! いつか必ず克服すると決めている!! このような振る舞いはワレが真に望むことではない! すまんな、ウナギィ・クローよ。できるだけ抑えるようにする」
なるほどな……変わった神だ。神のくせに創世神が与えた役割、性質に抗おうとしている。役割を嫌っているわけじゃなさそうだが、納得していないところもあるんだ。根が真面目で、しかも反逆者気質だから、ラインマーグはこいつを仲間に引き込んだわけか……掃除、浄化の役割は、ある意味でデルタストリークの断罪と被るし、親和性が高いのかもな。
「話が逸れたな。ウナギィ・クロー、ワレはお前に提案があってここに来たのだ。この場所に、お前の神殿を作れ」
ハルバーは地上の地図を部屋の壁に投影し、ある地点を指さしてそういった。
「は? 神殿? 俺の神殿? どういうこと?」
神でもない俺に、俺の神殿を作れというハルバー……ハルバーの指さした建築予定地、そこは西側の危険地帯、瘴気と毒の沼で満たされた大地【パープル・ランド】だった。
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