第008食 アキバの中心で北の心を感ずる:カレー食堂心(D03)

 飯田橋や、神保町の九段下エリアでは日曜休業の店が多かったので、書き手は、夕食を取りに秋葉原まで足を延ばすことにした。

 ヲタク・タウンにして電気街でもあり、土日に数多の人々が集うアキバなら、日曜に開いているカレーショップも容易に見つかろう、と判断したからである。


 八月二十一日の現時点において、書き手は既に、Aコースの四店、Dコースの二店に足を運んでいたので、秋葉原界隈で、AかD、何れかのコースに属する店に行こう、と考えながら、冊子所収の地図を眺めていた。

 地図上の秋葉原界隈のDコース所属の店を表わす文字は緑色だったのだが、前日の夜に訪れた、いっぺこっぺ以外には、緑の店はあと一軒しかなかったので、まず、このアキバ・エリアにおける、Dコースの店のスタンプをコンプしてしまう事にした。


 秋葉原界隈の中で、上野を上に見た場合、上の蔵前橋通り、左の昌平橋通り、下の神田明神通り、右の中央通りに囲まれたエリア内には、パーツ・ショップが軒を連ねていて、昌平橋通りや中央通りに平行して、このエリアの真ん中を貫いているのが〈秋葉原ジャンク通り〉である。

 神田明神通りに面している〈AKIBAカルチャーズ劇場〉を背にして、この細いジャンク通りを少し進んで、その右側に位置するAPAホテルの一階に在るのが、スープカレー専門店の〈カレー食堂心(こころ)秋葉原店〉である。


 注文する品は、店に入る前に、入り口に置かれていたメニュー・ボードを見た際に既に決めていた。


 その大きなメニューでは、「ケバブボールのスープカレー」が推されていた

 その材料は、「ケバブボール・ヤングコーン・トマト・枝豆・インゲンマメ・オクラ・ブロッコリー・キャベツ・人参・ピーマン・ジャガイモ・ゆで卵」と実に具沢山であった。

 しかし、書き手の腹の減り具合が然程ではなかったので、この晩に関しては、「ケバブボールのミニスープカレー」を、そして、ライスは、気分で、〈玄米〉の小盛を選んだのであった。


 提供された、ミニサイズのスープカレーは、ケバブボール、ヤングコーン、トマト、キャベツ、人参、ピーマン、ゆで卵など、ノーマル・サイズとほとんど同じ具材が入っていた。


 書き手は、まずスープを口に運んでみたのだが、自分が知っているスープカレーの味よりも少し酸味が効いているな、という印象であった。


 スープカレーの本場は北海道なのだが、書き手は北海道に行った際にはかなりの頻度でスープカレーを食している。

 だがしかし、いつも決まった特定の店の本店とその支店にしか訪れないので、実は、件の店以外のスープカレーを味わったのは、今回が初めての体験であった。


 たしかに、スープカレーは自由に好きなように食べて構わない、と何処かで読んだ記憶があるのだが、数年前に札幌で初めてスープカレーを食した時は、どのように食べたらよいのか、皆目見当がつかず、書き手は悩んでしまった事があった。

 

 スープカレーも、欧風カレーと同じように、ライスとカレーが別の器で提供される。

 欧風カレーの場合、グレイビー・ボートから掬ったカレーを、口にする分だけライスにかけて食べるのがセオリーで、逆に、ライスをカレーに浸すのはマナー違反である。

 だから、欧風カレーと同じように、スープカレーをライスにかけてみたところ、札幌のスープカレーはサラサラな液状なので、ライスの上でびちゃっとして、まったく米と絡まずに、これが最適解であるようには思えなかった。

 結論からいうと、書き手の場合、ライスをカレーに浸して食べる、という欧風カレーとは真逆の方法の方がしっくりときた。


 さらに言うと、最初のうちこそ、少し上品にしようと、一匙のライスを軽くスープカレーに浸して食べていのだが、それよりも、一定の量のライスをスープに入れ、カレーに十分に馴染ませて、おじやのようにして食べるのが、ライスにスープがよく浸み込んで、結果的に実に美味であった。


 この〈おじや食い〉が、果たして、マナーやルール、モラルに叶っているかどうかは分からないのだが、スープカレー店に何度か足を運んだ後に、この食べ方に独自にたどり着いて以来、書き手は、ライスをカレースープに漬すことにしている。


 さて、書き手のお腹に入ったミニスープカレーと小盛のライスは、スープとカレーの量のバランスが取れていて、この日の腹加減的には、ミニでも量は十分であり、書き手は、久方ぶりのスープカレーに満足して、店を後にしたのであった。


          *


 帰りのメトロの中で、書き手は、〈心〉のホームページを見てみた。


 スープカレー専門店である〈心〉の本店は、スープカレーの本場である札幌に在るそうだ。


 書き手は、さらに「スープ&スパイス」の項目に跳んだ。

 そこには、こう書かれていた。

 「これ(ブイヨン)にスパイスやトマトを掛け合わす事により、[洋食スープのまろやかさ]+[さわやかな酸味]がバランス良く絡み合う」のが「心オリジナルスープ」なのだそうだ。


 なるほど、そうかっ!

 書き手が店で感じた、スープの酸味の印象の原因は、これだったのだ。


 さらに、「お米」の項目を見てみると、心の米は、北海道の夕張で生産している〈ななつぼし〉で、そのななつぼしの特徴は、「低たんぱくで甘みのあるお米」との事であった。


 しまったっ!

 そうと知っていれば、玄米ではなく、白米にしたのに……。


 ところで、米は北海道産だけど、米以外は、どうなのだろう、そう思って、「素材」のページを参照したところ、じゃがいもに関しては、「北海50号」という品種を使っている事が分かった。


 ここで、『ジャガイモ博物館』というサイトを参照してみたところ、、「北海50号」は、北海道函館市、恵庭市、共和町などで栽培されている品種であるそうだ。そして、その品種と、北海道のジャガイモの代表である〈男爵薯(だんしゃくいも)〉との違いは、その熟する時期が、男爵イモよりも早く、結果、早い時期の出荷が可能との事であった。

 ここで、『心』のページに戻ってみると、北海50号の味と調理について書かれていて、男爵イモに比べて、「もっちりとした歯ごたえ」が特徴で、心では、北海50号の特徴を活かすために。「まるごと下ゆでした後、軽く素揚げして」いるらしい。また、北海50号は「組織がキメ細かい品」なので、「芋がスープに溶け込まず、最後迄スープの味わいを引き立て」る、との事であった。


 ここで、もう一度、しまったっ、と思った。

 書き手は、割と早めにジャガイモを食べてしまったのだが、そうと知っていれば、ジャガイモを食べるのは、スープを際立たせるために、後回しにしたであろう。


 いずれにせよ、カレー食堂心は、米は北海道産の「ななつぼし」、ジャガイモも北海道産、もしかしたら、他の素材も北海道の物を使っているかもしれない。

 

 つまり、こう言ってよければ、〈心〉は、北海道のスピリッツを東京にもたらしているのだ。


 ここしばらく北海道に足を運んでいなかった書き手であったが、日曜のアキハバラのジャンク街の真ん中で、スープカレーによって、多少なりとも、北の〈心〉を感じたのであった。


〈訪問データ〉

 カレー食堂 心 秋葉原店;秋葉原・末広町

 D03

 八月二十一日・日曜日・十九時

 ケバブボール ミニスープカレー;八五〇円(QR)


〈参考資料〉

 「神田カレー街マップ4」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、十七ページ。

 「カレー食堂 心 秋葉原店」、『前掲本』、四十八ページ。


〈WEB〉

 「お米」「素材」「スープ&スパイス」、『SOUP CURRY 心』、二〇二二年八月三十日閲覧。

 「北海50号」、『ジャガイモ博物館』、二〇二二年八月三十日閲覧。

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