第123話 街の英雄 「勇者が街を救ってくれたぞ!」

「ありがとう! ありがとう! 助かった!」


 街へと凱旋すると、手厚い出迎えを受けた。

 人が集まって街に入っていけない。


 街の入口には大勢が集まっていた。住民の全員が詰めかけているんじゃないかというくらいだ。

 街の住民は、皆、口々に礼の言葉を述べている。歓迎っぷりが半端ない。


 こういうの、悪くない。

 昔、勇者をやっていた頃には、村を救っても街を救っても、歓迎の宴なんて全スルーで、とっとと次の目的地に向かって旅立っていた。

 どこかの鬼大賢者様のおかげで、一分一秒刻みのスケジュールが組まれていたからだ。


 ま。村を救ったのは、俺ではなくて、うちの娘たちだがな。

 今回のオーガ・ジェネラル討伐に関しては、俺はなんにもやってない。

 やったことはといえば――。隠密スキルで事前にこっそり忍び込んで、敵の配置や戦力を調べあげ、現状の娘たちの戦力で充分に勝てる(HPを五〇%削れる)と吟味したことくらい。


 現実にジェネラルを倒して、街を救ったのは、娘たちだ。

 そしてエイティだ。


 俺はエイティの背中をばしんと叩いて、観衆たちの前に送り出した。


「ほら勇者。皆が感謝してるぞ」

「ゆ、勇者じゃないですうぅー。……む、村勇者です」


 観衆の一人が、その「勇者」という単語を聞いて、顔を輝かした。


「おい! 勇者だってよ! このお嬢ちゃん!」


 まわりが一気に湧きあがる。


「いや! ちが――!! ですから村勇者で――」

「うおお! やっぱり勇者だ! 勇者様万歳!」

「あの聞いて――!」

「うお――――っ!!」


 エイティの叫びは、群衆の叫びで、かき消されてしまう。


 エイティ以外の面々も、群衆に取り囲まれていた。

 アレイダはマッチョなオヤジたちに人気。肩をばしばし叩かれて困った顔をしている。


「あんたすげえな! オーガを倒しちまうなんて!」

「いえあのっ、そんなっ……。た、たいしたことじゃっ! あ、ありませんからっ!」


 アレイダは、しきりに恐縮している。


「お嬢ちゃん! ちいさいのにすげえな!」

「ん。」


 スケルティアも褒められて、まんざらでもない様子。


「あんた強えし! 美人だし! すげえな!」

「い、いえっ……!? わ、私はそのっ……、美人などではっ! 地味ですし――!」


 クザクは美人だと思うが。まあ地味ではあるが。


「聖女さん! あんたすげえよ! あんたぜったい! 大聖女になるね」

「恐れ入ります」


 おお。大聖女なんてジョブが存在するのか。さすが魔大陸。勇者も知らないジョブとか出てきやがる。


「おねーちゃん! ウサギの獣人族かい?」

「いえー。これはジョブなんですよー」


 バニーさんは獣人族と勘違いされている。


 俺は群衆から離れて、娘たちを眺めていた。

 今回の主役は娘たちだ。勇者とその仲間たちだ。

 俺は脇役でさえない。


 だから離れたところから、娘たちが取り囲まれて困った顔をしているのを、ただ愛でている。

 そんな俺に、一人の少女が近づいてきた。


「おかえりなさいませ。マスター」


 コモーリンだ。出迎えにきてくれた。


 先触れも出していないのに、オーガ討伐の報が街に届いていたのは、コモーリンが街に残っていたからだ。

 全員でオーガ退治に赴くので、馬車が留守になる。だから馬車ごとコモーリンを街に預けてあった。


 ジェネラルを倒したと同時に、コモーリンから街の名士に報告を入れてもらった。

 オーガ退治の依頼を受けた冒険者たちの一行が、見事、ジェネラルを討ち取ったと。


 オーガの洞窟は街から近い。

 知らせを届けてすぐに帰ってきたわけではなく、二、三時間ほど経ってから帰還した。


 そのあいだなにをやっていたのかといえば、もちろんナニである。


 欲情していたのはアレイダばかりでなく、全員参加だった。オーガの死骸の脇で、せっせと励んだ。

 あまり長く街の連中を待たせても悪いと思い、出迎えの準備が整うあたりを見計らって、とりあえず発情を収めただけで〝軽め〟で切り上げてきた。


 また今晩も、あとでもういっぺん、たっぷりとヤリまくる予定だが……。


「えっ? お嫁さんになってほしい? ……って? えっ? えっえっ? えーっ!?」


 おいアレイダ。そこの駄犬。

 年頃の男から、言い寄られてんじゃねえぞ。

 俺の精液を股ぐらにたっぷり蓄えておいて、答えなんて、一つだろうが。


「あっ、あの……、ごめんなさい! そういうの! 無理なんです!」


 よし。


 観衆とともに、俺たちは街の入口から広場へと移動していった。


 街の全員が入れそうな大きな広場に、宴の用意がすっかりできあがっていた。

 何時間かあったおかげで、準備をする時間はたっぷりあったわけだ。


 酒と料理を振る舞われた。


 おもに歓待を受けていたのは、エイティを筆頭に、アレイダやスケルティアたちだったが、俺やコモーリンも「仲間」と認識されているので、どこへいっても、誰のところでも歓迎してくれた。


「あああ――!! オリオンさぁん! 討伐依頼の達成! ありがとうございますうぅっ!!」


 群衆をかきわけ、大声をあげて俺のところに駆けてきたのは、冒険者ギルドの受付嬢だった。


「早いな」


 彼女のギルドは隣村にある。


「知らせを聞いて! 駆けつけてきました!」


 一人で来たのか。

 レッサードラゴンが闊歩するようなフィールドを、一人で平然と渡ってきたわけか。

 どんだけ?

 彼女はいったいどれだけの強さを――。


 うお。

 鑑定してみたら、彼女のステータスは――。


 受付嬢・Lv78だと?


 魔大陸の受付嬢は、向こうの大陸に行ったら、英雄となれる強さを持っていた。


「これで冒険者ギルドの名声もあがります! 依頼をしてくれる人も増えます! 依頼料でお家賃が払えます!」

「ああ。まあ。役に立てたのなら、なによりだ」


 俺は片手でエールのジョッキを傾けつつ、もう片方の手で、彼女の尻肉を掴んで抱き寄せた。

 彼女も嫌がることもない。

 もう二度ほど関係してるし、今夜も娘たちに混じって、三回目の関係を結んでゆくのだろうし。


 娘たちは、まだ街の人々に取り囲まれている。

 今日の主役だ。

 まだまだ解放してもらえそうにない。


 俺はLv78の小娘を抱き寄せながら、ジョッキを掲げた。


「乾杯」


 おもわず、そんなつぶやきが口から洩れた。


「はい? なににですか?」

「……月?」


 ちょうど、彼女の肩越しに月が浮かんでいた。

 その月に向かって、俺はジョッキを掲げた。


 今夜の俺は、上機嫌だった。

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