第122話 オーガ狩り・ジェネラルの間 「メガヌテって言ってみ」
オーガ・パラディンの群れは、なんとかかんとか、撃退した。
途中で何度か、やっばい展開もあったものの、まあなんとか持ち直した。
この世界では、レベルアップすると全回復する。
なんでか知らんが、そういうシステムになっている。俺はそれをDQ式と呼んでいるが、通じるのはバニー師匠とモーリンぐらいだろう。
レベルアップ時の全回復を戦略に組み込まければならないくらいの激戦だったが、勇者業界では、それは〝常識〟なので、娘たちにも慣れてもらわなくてはな。
パラディンのあとは、なにも飛び出してこなくなった。
住み家である洞窟内に侵入すると、あるわ、あるわ、えげつない罠の数々が待ち構えていた。
俺は気づいていたが、娘たちはクザクも含めて気づいておらず……。しっかりと罠にはまってしまったところに、伏兵が襲いかかってきた。
まあこれもなんとか――。数回ほど、壊滅のピンチがあったものの、なんとか切り抜けた。
そして戦闘のたびに、アレイダたちはレベルアップして強くなっていった。
魔大陸のモンスターはめっちゃ強いが、経験値もまた、めっちゃおいしいのだ。
これまでキツかった敵が、段々と楽になってゆく。壊滅しかけていた敵が、だんだんとヌルゲーになってゆく。
向こうの世界で、RPGゲームでダンジョン攻略しているときに、ちょうど似たようなことが起きていた。
一つのダンジョンにこもっているあいだに、レベルがいくつか上がって、難敵がザコに見えてきたり――と。
それがいま、実地に起きていることであった。
そんなこんなで、襲撃をちょうどいい経験値稼ぎとしつつ、オーガの溜まり場を部屋を見つけては戦闘して殲滅していった。
非戦闘員のオーガを見つけたら、メスも子供も、すべて容赦なく、ぶぅち殺して回った。
これは種族間の争いである。人とオーガとは、その他のモンスターとおなじく、土地と食料といったリソースを奪い合う競争相手である。和解だの協力だのといった〝人間的〟な概念は、それこそ人間と、その近縁の種族の間でしか通用しないものなのだ。
女子供だからといって情けをかければ、やがて大きく成長して成体のオーガとなって街を襲い、人々の生活を脅かすようになる。
よって、一匹残らず、徹底的に殲滅していった。
そして残るは、首領の間――。
ここのボスは、オーガ・ジェネラルである。
広間っぽい洞窟の一区画に踏みこんだところで、待ち受けていた一団と戦闘がはじまった。
向こうの戦力は、オーガ・ジェネラルを中心に、数匹の上位種のオーガたち。
アーチシャーマンだのフレンジー・ウォーリアーだの、モンスター学者が見れば驚喜しそうな、レア上位種が勢揃い。
そして、それらを率いるのは、ジェネラルだ。
オーガ・ジェネラルは、フィールド上の敵味方全員に影響を与える〝オーラ〟を持っている。聖女の持つ〝オーラ〟と似たようなもので、そのモンスター版といったところだ。
ところで……。ギルドの依頼票にも載っていないボスの種族名を、なぜ俺が知っているのかというと……。
まあ、鑑定して回ったからだが。事前に。この洞窟を訪れて。こっそりとステルスで。
「オリオンさん。お優しいですからねー♡」
「うるさい」
バニー師匠が、戦闘の合間に俺の近くに寄ってきて、おっぱいの先を擦りつけてくると同時に、かぐわしい息で、そう囁いていった。
「マスターは過保護ですから」
「うるさい」
俺の隣でモーリンがそう言った。
まったく、二人とも、うるさい。
だいたいモーリン。おまえは人のことを言えないぞ? 昔々、俺を鍛え上げていたときにだって、ぎりぎり死力を尽くして倒すことのできる難易度に、敵の強さを調整していたわけで……。
つまり、事前に相当調べあげていたというわけだ。
俺もそれに習っただけなのだが……。
「ところで。どう見る?」
俺はモーリンに聞いてみた。
戦況の話である。
お供のうちの何体かは、すでに倒れている。敵の中で厄介なのは呪文使いであるが、呪文を使うやつらはHPも少ない。仲間同士で庇い合うという習性を持たないモンスターとの戦いでは、範囲攻撃魔法をぶっ放しているだけで、厄介な連中が、早々にリタイヤしてくれることになる。
……が。
ジェネラルのHPは、まだほとんど減っていない。
「半分近く削ったところで、力尽きるでしょうね」
モーリンはそう言った。
俺の読みと同じ答えが返ってきた。
「うむ」
俺はうなずいた。
取り巻きのザコどものストックが、そろそろ全部死滅する。戦闘中レベルアップによるHP/MP全回復も望めない。
アレイダとエイティ、前衛のHPが乱高下を繰り返している。ジェネラルの一撃を食らうと、どかんと七〇%ぐらい持っていかれて瀕死になり、後衛の回復が届くたびに、満タンに戻る。
ほぼ、その繰り返し。
そして後衛の――特に聖女のMPの減り具合が著しい。
聖女は強力なMPリジェネを持っているので、通常、MP切れなど起こさないが、ジェネラル相手でコンプリート・ヒールを多用するこの状況では、消費が回復を上回ってしまっている。
「どうなさいますか?」
「うむ」
「参戦しますか?」
モーリンが俺に言う。
早く決めろと、俺を急かしてくる。
俺たちは手を出さないと、娘たちにも伝えてある。
これまで一度たりとも破ったことのないルールだったが、それを、曲げますか、と聞いてきているのだ。
いま、目の前で戦っている娘たちは、俺が本当に見殺しにすると思っている。
そう鍛えた。そう躾けた。
だが、一度、破ったなら……。
次からもピンチになったら助けてもらえると期待するだろう。甘えるようになるだろう。
「もうそろそろ。ミーティアのMPが尽きますが」
「むぅ……」
わかっていることを、あえて言われる。
俺だって全員のステータスウィンドウを常に開いて、すべて並べて監視している。モーリンに指摘されずとも、すべて把握済みだ。
甘やかしてダメにするのか。それとも見殺しにするのか。
究極の二択を迫られる。
……が。
俺にはじつは、第三の選択があった。
ただし、その第三の選択を選ぶためには、条件があった。
オーガ・ジェネラルのHPを
それとも
それが、大きな分かれ目だ。
「おいアレイダ」
「なによ! 忙しいんだから! あとにして! ――てゆうか! 骨拾う準備でもしていなさいよ! この悪党! 強姦魔!」
ひどい言われようだな。
「これがっ……、最後のっ……、ヒールですっ!」
絞り出すように、ミーティアが叫んだ。
パーティのメインタンクであるアレイダの体が輝いて、すべての傷と損傷が消えてゆく。
HPが満タンに戻る。
「もうヒールは来ない。なるべくダメージを受けるな」
「わかってるわよ! そんなこと!」
ジェネラルの猛攻に耐えながら、アレイダが叫び返す。
巨大な棍棒の重たい一撃を、細身の剣で受けるが――。しかし、パワーではもとよりかなわない。アレイダがこれまでやっているのは、受け止めることではなく、受け流すことだった。
自分の身を砕かせるかわりに、受け流した棍棒に地面を砕かせている。
だが、タイミングがわずかにでも狂えば――。
「ああっ――!?」
アレイダが不意に叫んだ。
体の側面に直撃を受ける。かろうじて腕でガードはしたものの、腕はぐしゃりと潰れ、血と骨の詰まった肉袋と化した。
残る片方の腕だけで、アレイダは剣を構える。
片腕を喪失して、アレイダは防戦一方となった。
もう満足に受け流すことができない。攻撃を受け止めてはいるが、その威力を殺しきれていない。
防御のたびに、肉体のどこかが壊れてゆく。
ぐしゃっ、ぐしゃっ、と、湿った音が立てつづけに響いた。
「アレイダ。あと三〇……、いや、六〇秒、死ぬな」
俺はそう言った。
「わかっ、へぶっ!」
顎も砕けているのか。アレイダは大量の血を吐きながら、言葉にならない呻きを返した。「わかってる」と言おうとしたのだろう。
アレイダがジェネラルの攻撃を一身で受け止めている間――。
ほかの娘たちも、ただ、なにもせずにいたわけではない。
「うわあああぁぁぁぁ――っ!!」
スケルティア、クザク、バニー師匠らのアタッカー勢は、なにもかも振り捨てて、壮絶に攻撃をしていた。
ジェネラルのHPをすこしでも削り落とそうと必死になっていた。
聖女は膝をつき、目を閉じて祈っていた。周囲の事象を遮断して、ただひたすらに瞑想を続けている。
MPの回復に専念しているのだ。
「ヒール! ヒール! ヒール!」
エイティは残るMPのすべてを使い、アレイダにヒールを打ち続けていた。
だが村勇者の小さな回復魔法では、どれだけ唱えようと、攻撃を受け続け、減り続けてゆくHPの減少を止めることなどできない。
「――!!」
そしてついにMPが切れた。小さなヒールさえも打てなくなる。
正確にはMPは「1」だけは残っているが、もうヒールは打てない。
「GhUOOOOOOOoooo――!!」
ジェネラルが雄叫びをあげた。棍棒を頭上に振りかぶり、渾身の一撃がやってきた。
アレイダに避ける力は残されていなかった。
強烈な一撃が、アレイダの脳天に決まった。
噴き出た血を全身に滴らせながら……、だがアレイダは、まだ立っていた。
そのHPは……。「1」だけ残されていた。
残っていたわずかなHPでは、到底、耐えきれるダメージではなかったはずだ。
アレイダのステータス画面を確認する。
「不屈」――というスキルを、そこに見つけた。
さっきまではなかったスキルだ。〝いま〟取得したのだ。
「不屈」の効果は、致死的な一撃を受けても、HP1で踏みとどまるというものである。
スケルティアたちが攻撃を行う。ジェネラルのHPが減る。
ジェネラルの攻撃がアレイダを襲う。だがまたもHP1で耐えた。
スケルティアたちが攻撃を行う。
ジェネラルの攻撃がアレイダを――。
「うわあああぁぁ――っ!!」
エイティが奇声を発して、突撃していこうとする。
その首根っこを引っ掴んで、俺は止めた。
「離してください!! 師匠!! ボクは! ボクも! ボクも戦いますっ! たとえ勝てなくてもッ! だから止めないで――!」
「わかった。止めない。だがおまえには最後の武器がある。それを使え」
「え?」
「メガヌテ、って、言ってみ」
「はい?」
「いいから。言ってみ」
「え、えっと……」
まなじりを決して、エイティは言った。
「メガヌテ」
瞬間――。
エイティの体が閃光に包まれ――。
そして、すべてが光に包まれた。
◇
光が収まったあと、そこにあったのは――。
力尽きて倒れたエイティと、ジェネラルの姿だった。
動く敵はいなかった。
戦闘は、終了していた。
戦いのラスト近辺において、ジェネラルのHPは半分を切っていた。
アレイダの踏ん張りと、皆のラストスパートのおかげで、ついに五〇%を切るところまでジェネラルを追いこむことができていた。
だがそこまでが限界。
そのままでは全滅していたことだろう。
それを救ったのが、エイティだったわけだ。
「ミーティア。蘇生」
「は、はいっ!」
聖女のMPが、蘇生魔法、一回分+αほど溜まっているのをみて、俺はそう言った。
ミーティア全魔力を注いで祈りを捧げると、エイティは金色の光に包まれた。
そしてあっさりと生き返った。
「はえ?」
エイティはきょとんとした顔で、周囲を見回している。
なにが起こったのか、わかっていないというカオ。
通常、蘇生魔法というものは、蘇生確率がわりと低い。
蘇生確率は、魔力を上乗せすることで上げることもできるが、それよりも本人自身のLUK値のほうが、大きな影響を与える。
このLUK値が、エイティは異様に高い。
聖女あるいは大賢者の上級蘇生魔法と、魔力を注いで確率ブーストと、さらに本人自身のLUK補正を加えると……。
エイティの蘇生確率は、なんと、一〇〇%を上回る。
つまり、確実に生き返る。
そのことから、さきほどの勇者系固有呪文を使う戦略が生まれてくる。
さきほどエイティの使った呪文は、「メガヌテ」という。
自身の命を犠牲にすることにより、敵に大ダメージを与える呪文である。
そのダメージ量は、最大HPのちょうど半分となるのだ。
つまり、この戦い――。
アレイダたちは、ジェネラルのHPの半分を削れば、勝ちだったのだ。
「は……、はは……、か……、勝った? 勝ったの?」
アレイダが笑い声をあげていた。
何度も壊されて、おヨメさんに行けないくらいのカラダにされていたのだが、もうすっかり全快している。
ただしその全身は血まみれだ。
こいつは。この女は、血まみれのほうが美しいと思う。
「ああ。勝ったぞ」
「わたしたち……、だけで……、勝ったのよね?」
「ああ。おまえらだけだな。いつも言ってるように、俺は――」
「――わたしたちが死んでも、助けてはくれない」
俺の言いたいことを、アレイダがかわりに口にした。
「死ぬなら死ね。いつもオリオンは言ってるわよね。俺は一ミリも気にしない。使える穴が一個減ったくらいにしか思わない、とか言ってくれてるわよね」
「いやいやいや。待て待て待て。そこまでは言ってない。そこまでは酷くない」
「言った。言った。ゆったわよね? ねーっ? みんなーっ?」
アレイダが仲間たちに笑顔で聞く。
スケルティアが、こくこくとうなずき返している。
えーっ?
本当に言ってたか? そんなこと?
まあ……。スケルティアが証言するなら、そうなのだろうが……。
「……で。どうするの?」
アレイダが俺に聞く。
「なにを?」
俺は聞き返した。
「……使う?」
スカートの裾を捲る。
「……穴」
熱を帯びた目を、俺に向けてくる。
あー……。
生死のかかった戦いを経たあとで、欲情してるわけか。
あー……。
俺のほうが平静なのは、俺は戦っていないからだな。
「あー……。ぱんつあげ。打ち上げはやるが、まずは地上に帰ってからだ」
俺が手を振りながら、そう言うと――。
「オリオンらしくない」
アレイダはそう言った。
「なんだとう」
安い挑発に乗るほうも乗るほうだと思いつつも、俺は――。
アレイダを地面に押し倒した。
ジェネラルの死体の隣で、アレイダを犯した。言ってきた通りに、穴を使ってやった。
皆も混じって――。
このあと滅茶苦茶セックスした。
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