第6話―—―新生活にて、立ち止まる。


 無事に大学受験が終わり、安心することができたのは十二月だった。しかし、年明けに行われるテストや試験のことを考えると若干気が抜けず、また僕は悶々とした生活を日々過ごした。

 部長をクビになり、そのまま過去に起きたことすらも思い出して抱え、あっという間に一年が経過していた。あれから色んなことを試して体調回復に努めていたが、それも長期間の回復はあまり感じることなく、僕は未だに体調不良に悩んでいた。意外にも、一年はとてつもなく短いのだと、僕は知った。最初は、こんなに長く引きずってしまうとは考えていなかったため、ずっと悩んでしまう自分自身に戸惑っていたのかもしれない。僕の時間は、まだあの時期から進んでも退いてもいなかった。それでも少しずつ前に進むことができたのは、周りの友人が進路を決めたり運転免許を取得し始めたりするのを近くで見たことで、僕も過去に囚われて進むことをやめたいと思ったからだった。


 あまり日常が変わらないまま僕たち高校三年生は年を越し、テストや試験が終わり、かなり長い休みの時期になった。僕は、その時期に奨学金入試に挑戦し、運転免許を取得し、習い事を練習し、新生活の準備をしたので、かなり忙しない日々だった。その影響で、体調不良は改善する時もあればそうでない時もあり、僕は心から休めるような日常がないように感じた。また、普段慣れない場所にほとんど毎日通い、知り合いも少ない中で免許を取得するのも、精神的に辛い要因になっていた。ほとんど体調を崩していたので、新生活の準備はできても、地元から離れた場所まで内見に行くことはできなかった。完全に親に任せた。その結果、初めて自分がこれから大学生活を過ごす家を見たのは、実際に引っ越す時だった。


 一度だけ、僕は卒業式の後で担任の先生に会いに行き、相談をしたことがある。これからの大学生活、一人暮らしをしながら体調を回復させて、大学生活を充実したものにできるか不安で仕方なかったからだ。

 その時は、上手く話がまとまらず、とにかく担任の先生に「バイトをしたら、学生生活が充実すると思う。」という経験談を踏まえたアドバイスを、丁寧にもらった。そのアドバイスをもらった時は、「悩みが軽くなった。」と思ったが、家に帰宅した後で考えたら、「いやいや、そうじゃないのかも。」と冷静に考えてしまった。それでも一人暮らしを始める日は来て、僕は慣れない都心での生活を始めた。




 大学生活は、最初から新鮮で楽しく、充実していて、まるで全て悩んでいたことが嘘みたいに、明るく伸び伸びと過ごすことができた。体調も改善している日が多く、知り合いがいない中でもなんとかコミュニケーションや大学の雰囲気に溶け込むことができた。その結果、初日から交友関係を築き、僕は安心して大学生活を始めることができた。

 ただ、どうしても一人の時間が増えると、より自分自身に向き合うことも多くなるという効果がある。僕もそうだった。一人暮らしをしながら、ふとした時に自分がこれまで過ごしてきた日々を考えると、体調不良で動けなくなったり、授業を休んでしまったりすることがあった。

 もちろん、これは高校の時の出来事が根本となっているため、僕は大学で誰にもこの悩みを打ち明けることはできなかった。逆に、過去に囚われている人だと思われたくはなかったという考えが一番にあった。意外と元気で明るい性格で生活をしているので、相談しにくいということも理由だ。

 僕は、段々と「体調不良が多いけど元気そうな一人」として、交友関係を楽しむようになった。急に授業を休むことになる時に頼れる友人は幸いにもいたため、少し頼れるようにもなった。しかし、やっぱり根本的な出来事を打ち明けることはできなかった。次第に僕は、原因を言えないまま体調不良を向き合い、大学生活を過ごすようになった。それに関して周りの友人は何も言ってこなかったが、それを聞いてこないことも、逆に個人的には悲しさがあった。それを踏まえ、逆に聞いてくれれば答えるということを心に決めたが、それでも聞いてくる人はいなかった。

 僕は、そこから自分のことを語ることが苦手になってしまった。ずっと自分が言いたいことを我慢し、人に合わせ、流される日々を過ごすようになった。そして、それは僕自身の考えをなくすことに繋がった。




 そして、僕は自律神経失調症になった。

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