(あらすじ:三人は村を出ていく。)


   *


 翌日の昼過ぎに、三人は村を出て行った。そのとき、村中の人々が道に出てきて絵瑠を激励し見送った。栄治に関してはほとんど触れないように、巧みに話題をすり替えていた。しかしそうしてくれた方が栄治にとっても楽ではあった。


 絵瑠は初めて会ったときと同じ、黒いノースリーブのシャツに黒いポンチョを羽織った格好をしていた。右腕にだけアームカヴァーをつけて、左腕は刺青を見せている。栄治には、その刺青がかなり自然に見えた。つまり、そういうファッションの人なのだ、となんとなく納得できてしまう感じがあった。


 宮部も、家にいたときはTシャツとズボンでラフに過ごしていたのに、今では暗い色調の服で全身を固めている。紺色のズボンに、風通しの良さそうなダボついたシャツを合わせている。


 二人が並ぶと、怪しい組織の人間にしか見えなかった。それだけでなく猫のような奇体な生物を連れているのだから、怪しまれるのが普通だった。


「あのさ」、宮部のリュックサックに入ったまま、栄治は二人に話しかけた。


「もっとこう、普通の人を装うとかそういう考えはないのか? 今の格好は怪しさ満天だぞ」


「なんで普通を装わないといけないんだ? ただ俺は服屋に行って服を選ぶというのができないからこの格好をしているんだ。それのどこが悪い」


「もうちょっとマシな組み合わせあるだろってことだよ」


「俺は着る服についていちいち考えたりするのが嫌なんだよ。毎日同じ格好でも良いくらいだ」


「ただ無精者ってだけかよ」、栄治は言う。「絵瑠も、もっと自然な服あるだろ?」


「私はこの服が着たいから着てる」、ただそう言った。


「無粋なことを訊くなよ、23歳無職」と釘を刺す宮部。「もしも職務質問されたら、俺を呼べ。俺が免許証を見せる。そうすれば何でもすぐさま解決する。軽犯罪ならもみ消せるからな」


 言いながら宮部は財布の中からカードを一枚取り出し、栄治の目の前に出した。それは一見、運転免許証のようだったが、よく見ると顔写真の隣に『特級魔師』と書いてあった。


「お前らがこれから取る資格だ。正確に言えば、まず公認魔師の資格を取る。まあこれは簡単だ。その次に一級魔師の資格を取る。これも難しくはない。そして最後に特級魔師試験に合格して『特級魔師見習い』になる。通称『仮免』だな。その後実戦経験を積むと『見習い』じゃなくなる」


「ややこしいな」


「ほとんどが絵瑠の実力の問題だ。お前は関係ない」、免許証をしまいながら宮部は言う。「だが、旅の最中に麒麟が現われたらお前らが戦えよ。俺は後ろで応援してるから」


「はい」と絵瑠。


「良い返事だ。栄治のために説明しておくと、麒麟の倒し方は二つある。一つはめちゃくちゃダメージを与えて死なせること。だがこれには時間と労力がかかる。もう一つは、キリンジが麒麟を喰うこと。このあいだお前らがやったような感じでな。そのために奴らを小さくする。まあ俺くらいの使い手になれば、キリンジ無しでもダメージを与えて殺すこともできるかもしれないが、お前らには無理だ。相手を喰うしかない」


「お前だってこのあいだ負けそうになってたじゃねーか。俺が来なかったら死んでただろ」


「ちょっと油断したな。あと俺のキリンジがいなかったから力が出なかった」


「なら、村の連中が来るまで待ってればよかったのに」


「そういうわけにもいかない。魔師が麒麟と戦うのは、消防士が火事の中に飛び込んで行くようなもんだよ」


「消防士はむやみに火事に飛び込まねーよ」


「あと、麒麟に出会ったらまず目の数を見ろ。お前らが倒したのは目が二つだったが、たまに目が四つ以上ある麒麟が出てくる。そういう奴らは大体でかいから、倒すのに手間がかかる。特級魔師ってのはそういうデカブツを倒す専門の奴らのことだ。倒し方も変わってくる」


「どういう風に?」


「相手の中に入ることになる」


「中に入る?」


「そうだ」


 宮部はそれ以上何も言わなかった。


 三人は山を降りて国道に出、バスに乗り込んだ。栄治は新幹線に乗ってすぐに東京に行くものだと考えていたが、どうやらそうではないことがわかった。大都市へは向かわずに、バスを乗り継いで内陸部を南下していった。


 どうしてこんな回り道をするのか、と栄治が宮部に問うと、宮部は、俺の相棒に合流しなくちゃならん、と言った。

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